100周年を迎えるバウハウスへのオマージュ
1919年にドイツ・ヴァイマル共和国に設立された造形学校「バウハウス」。工芸、写真、デザインなどの理論を包括しつつ、最終的には機能的な建築を生み出すことを理想とした“バウハウス的”な理念は、後の合理主義的、機能主義的な芸術活動全般に大きな影響を与えた。その一面的な特徴をごく簡単に言うなら、「装飾性を廃したシンプルさ」に集約されるだろう。
デッサウ、ベルリンと教育の場を移したバウハウスは、ナチスによって1933年に閉校に追い込まれてしまう。しかし、たった14年間という活動期間の短さにも係わらず、その影響力は極めて大きく、戦後急速に華開くことになるスイスデザインの源流とも目されている。1957年に発表された、世界で最も有名なグロテスクフォントである「ヘルベチカ」や、現代的なフラットデザインの原型とも言われている、スイス流のインターナショナル・タイポグラフィック・スタイルは、すべてバウハウスの影響化のあると言っても過言ではない。
2004年に復活を遂げたドイツブランド「ストーヴァ」でも、バウハウス的なデザインは創業以来大切されてきた重要なモチーフである。その代表作となる「アンテア」は、デザイナーでもあり、ウォッチビルダーでもあるCEOのヨルク・シャウアー自身が非常に大切にしてきたモデルのひとつ。近年では、初期のアップルでメインデザイナーを務めたハルトムット・エスリンガーとのコラボレーションにより、インデックスに「バウハウスSTD」のアラビックフォントを用いたモデルを発表し、大きな話題を呼んだ。
2019年のバウハウス100周年に向けて、ストーヴァがリリースした記念モデルが「アンテア1919」である。39mmのシンプルなシリンダーケースに、ETA2824-2のベーシックバージョンを搭載するこのモデルは、アフォーダブルなエントリーモデルであるにも係わらず、実に“バウハウス的”な魅力に満ち溢れている。
最大の特徴は、再びシンプルなバーインデックスを採用したダイアルだろう。マット調のホワイト地に、時分針や細いバーインデックスをブラックで描いた基本構成は、最もシンプルな要素で最大限のコントラストを引き出してくれる。軍用時計にルーツを持つストーヴァらしいブラックダイアルも用意され、こちらも明確なコントラストが痛快だ。センター配置された秒針から、カウンターウェイトまで省くなど、徹底したミニマリズムの追求が心地よい。
ストーヴァのルーツに迫る機能的なフリーガー
一方ストーヴァと言えば、大戦中のドイツ空軍にパイロットウォッチを正式納入していた実績を持つ実力派でもある。稀代のウォッチビルダーであるヨルク・シャウアーが経営に参画してからは、カッチリとしたクォリティの高さでミドルレンジのマーケットリーダー的な立ち位置を確保。また、近年までドイツでは正式な基準が定められていなかった、パイロットウォッチ規格の制定に尽力したのも同社であった。そうしたブランドのルーツを現代に伝える「フリーガー 40」は、まさしくストーヴァを代表するモデルだろう。
ラテン語で本質、真理、真実などの意味を持つ「ウェールス」と名付けられた新しいフリーガーは、アンテアと同様のエントリーモデルながら、基本構成はフリーガー 40をそのまま受け継いでいる。フォルツハイム製のケースや、安定供給の目処が立ったETA製のムーブメントなどをそのまま継承しながら、仕上げ工程の見直しによって、なんと10万円(+税)というプライスを実現しているのだ。
しかしこのモデルを、エントリー向けのコストダウン版と見るのはいささか軽率だ。サテンからサンドブラスト仕上げに変更されたケースにしても、ブラストの目が細かいためにしっとりとした質感を持つうえ、適度なエッジ感まで残されている。青焼きからホワイトペイントに変更された時分針にしても、ヘリテージ感覚はやや薄れたものの、パイロットウォッチらしさという点ではこちらに軍配が上がる。
時計作りの“勘どころ”に精通したヨルク・シャウアー自身のプロデュースによって、巧みに練り上げられた2本のエントリーモデル。機械式時計趣味のスタートにこれを選べるウォッチビギナーは、実に幸せである。またビギナーならずとも、十分に納得できるクォリティを備えていると断言できよう。
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