香片
香片と書いてシャンピェンと読む。どこかの国の有名な発泡酒を思わせる語感だが、昔の人はこの茶を昼に飲むシャンパンと気取ったのかもしれない。
現代のこの茶は茶葉に香気の高い茉莉花=ジャスミンの花を混ぜて作ったものだ。
ジャスミンは、初夏に白い花を咲きほこらせる、亜熱帯に多い低木で、その香りは強く、古くから香料として珍重されてきた。
烏龍茶がこれほど人気となる前は、よく中国料理店で、食後の口直しに出されたものだった。
味にはっきりした性格があるためか、パリやロンドンの中国料理店でも使われていて、どこか典型的なアジアのフレーバーとして認められているらしい。
あの香料めいた匂いがどうも、という人もいるだろうが、ほんとうに上質のものは嫌味がなく、茶葉そのものの香気と調和してけっこうなものだ。
しかし、もともと上質茶そのものには、かぐわしい花の香りがある。おそらく香片は、人工的に香りを加えることにより、普通の茶の価値を高めた、イメージ商品だったのじゃないか、と推理する。
香片を好むのは、広い中国でも華北の北京あたりだと聞く。茶の産地から遠く離れた土地の人々が、南方の新鮮な茶にあるという、花の香りにあこがれ、それを望んでいたことに対する、答えのような茶、それが香片なのではなかったか。
鮮度高く、花の香りのある茶が、だれにでも飲めるほど大量に、そして安価にあれば問題はない。だがそんな茶は高値で、しかもわずかしか作れないのは目に見えている。
茶に香りをつけるのは、古く宋の時代からあったそうだ。茶に花をいれる花茶も各地で作られ、ローカルで消費はされていたらしい。香片が大量生産されるのは19世紀にはいってしばらくたってからのことで、それから爆発的に人気を得たのだろう。
ジャスミンの花は福建省の特産で、茶と同じ地方だったのもさいわいした。
5月から10月のあいだ花は咲き、茶もとれる。青茶系の茶葉を準備し、花を摘んで加工する。花はその朝に摘んで夜に開花する「当天花」、つまり生きのよいのがよろしいそうな。
茶と花を混ぜ、花が出す呼吸熱が高くなると、ひろげて放熱しようという工程で、よい香りが茶に行きわたる。そしてふるいにかけて花を取りのぞくわけだが、高級品ほど花が少ないと台湾の友人が言っていたように、香りだけが残されているらしい。仕上げに新鮮な花を飾りとして入れるのだそうだ。