時計経済観測所 / 日本の国内消費が一気に腰折れ 天災による一時的なものか見極め必要

2019.01.04

日本の国内消費が一気に腰折れ。天災による一時的なものか見極め必要

夏前まで好調だった日本経済が、夏以降、度重なる天災の影響で変調を来した。さらに、2019年10月には予定通り消費税率が引き上げられることが正式に発表され、今、日本経済は、瀬戸際に立っていると言える。気鋭の経済ジャーナリスト、磯山友幸氏が、その動向を分析・考察する。

磯山友幸:取材・文 Text by Tomoyuki Isoyama
ユーピーアイ/アマナイメージズ:写真 Photograph by UPI/ amanaimages


2018年10月15日、午後の臨時閣議において、安倍晋三首相は、予定通り2019年10月1日に消費税率を現行の8%から10%に引き上げると表明した。「あらゆる政策を総動員し、経済に影響を及ぼさないよう全力で対応する」と述べ、駆け込み需要と反動減を抑えるための経済対策をまとめるよう関係閣僚に指示した。

 日本の消費に急速に暗雲が広がり、時計販売にも影響が出始めた。スイス時計の日本向け輸出額を月別に見ると、日本の消費の失速ぶりが鮮明になる。

 6月の対日輸出額は1億3100万スイスフラン(約149億円)と、前年同月比で31.8%も増加。スイス時計の輸出先として香港(2億7030万スイスフラン)、米国(1億8940万スイスフラン)に次ぐ3位に躍り出た。あの中国大陸向け(1億2390万スイスフラン)を抜き去ったのである。

 6月の日本国内の百貨店売上高も絶好調で、一気に景気が好転するかに思われた。安倍晋三首相が経済界に訴えてきた「賃上げ」の効果もあり、給料やボーナスが増えたことが、ようやく消費に向かってきたのではないか、そう見られていた。6月の販売好調を受けて7月のスイス時計の対日輸出も前年同月比16.6%増と高い伸びを続けていた。

 ところが、である。夏場以降、日本国内の消費が一気に腰折れしたのである。最大の要因は天候不順。西日本豪雨災害や連日の記録的な猛暑、そして相次いだ台風直撃と、自然災害に襲われた。とても買い物をしていられる場合ではなくなったのだ。

 さらに追い討ちをかけたのが、8月に関西を直撃した台風による高潮被害で関西国際空港が一時閉鎖に追い込まれたこと。さらに9月には北海道胆振東部地震が起き、北海道への旅行客が激減した。JNTO(日本政府観光局)の推計によると、9月の訪日外客数は216万人と前年同月比5.3%減少、何と5年8カ月ぶりの減少となった。当然のことながら、訪日外国人によるいわゆるインバウンド消費も一気に萎む結果になった。

 前回(2018年11月号)の本欄で、インバウンド消費が落ち込むようなことになれば、「日本の消費が失速する可能性がある」と書いたが、まさにそうした状況に追い込まれたのだ。スイス時計の日本向け輸出は、8月は9.9%増だったが、9月には2.4%増になり、10月はついに1.0%のマイナスとなった。これまで好調だったものが一気に失速したのである。

 問題は10月のマイナスが一時的なものなのか、トレンドが変わったと見るべきなのか。日本向けスイス時計輸出を、1月から10月までの累計で見ると、まだ前年同期間を10.8%上回っている。11月から再びプラスに戻れば、年間でも2ケタのプラスを確保できるだろう。

 だが、11月以降もさらにマイナス幅が大きくなるなど、失速が鮮明になってくるとムードは完全に変わる。万が一にも年間でマイナスになるようなことになれば、来年の日本の消費が相当弱くなることを覚悟しなければならないだろう。日本経済の先行きを占う重要なタイミングに差し掛かっているように見える。

 JNTOの推計による10月の訪日外客数は264万人と10月としては過去最多を更新した。しかし伸び率は1.8%増にとどまっており、ひところの力強さはない。インバウンド消費が再び日本の消費を牽引するようになるのかどうか。

 さらに、日韓関係が再び冷却化しそうなことも、訪日外客数に影を落とす。韓国からの訪日客は10月に8.0%も減少した。元徴用工に関する韓国最高裁の判決をきっかけに両国関係が冷えこめば、両国の人の移動も減り、消費の足を引っ張ることになる。

 一方で、米中貿易戦争の余波で、中国経済が失速するのではないか、という懸念については、まだ深刻な影響は消費には表れていない。日本を訪れる中国人観光客も1-10月の累計で前年同期比15%の伸びを維持している。スイス時計の中国大陸向けも1-10月累計は14.0%増だ。米中関係の悪化が日本の消費に大打撃を及ぼす事態にはまだ発展していないと見ていいだろう。

 2019年10月に予定される消費税率の8%から10%への引き上げも、消費に大きな影響を与えそうだ。足元の消費が弱い中で、消費増税の準備の話題が広がるだけでも、消費マインドに水を差すことになる。政府では増税後の消費の減少対策を行うことで議論されているが、それ以上に、今冷え込んでいる足元の消費対策を行う必要がありそうだ。

磯山友幸
経済ジャーナリスト。1962年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞社で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、『日経ビジネス』副編集長・編集委員などを務め、2011年3月末に独立。著書に『「理」と「情」の狭間 大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』『ブランド王国スイスの秘密』(いずれも日経BP社)など。現在、経済政策を中心に政・財・官界を幅広く取材中。
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