松山猛・著『ちゃあい』より(1995年、風塵社刊)
梅山茶
台湾に帰国していた義父がある時、今年は割合良い茶が手に入ったと、送ってくれたのが「梅山茶」だ。
「梅山茶」のふる里は、美しい御来光で有名な、あの阿里山のふもとにあるのだそうだ。昨年の物もおいしかったが、今年の茶はまた格別においしく思えた。
茶の樹は植えられて5年くらいで、良い茶葉をつけ始めるが、もっとも旨味が出てくるのは7年目くらいからだと、以前台湾の茶商の人に聞いたことがある。
「梅山茶」は今、第1期の飲みごろの時期を迎えているのである。このチャンスをのがすわけにはいかない。
「梅山茶」も烏龍茶系で、その製茶の方法は、以前から有名だった南投県の「凍頂烏龍茶」と同じだ。一心二葉の手摘みの葉は、充分にねじれていて、熱湯をそそぐと、驚くほど大きくひろがる。
僕はその畑を見たことがないが、地図によると相当な山地で、標高もかなり高い、いわゆる高山茶に属すわけだ。したがって香り高い茶ができあがる。
さて、時々知人たちから、昔ながらの巧夫茶式に、小型の急須でいれる以外に、おいしい飲み方はないのかと、質問されることがある。
読者のなかにも、せっかくいい茶葉らしいのに、おいしくいれられない、と思っている方もおられるかもしれない。そんな人へのおすすめは、フィルター式のコーヒーメーカーを使う方法である。
紙フィルターに茶葉をちょっと多目にいれて、コーヒーのときと同じように、ただスイッチをいれるだけ。ただし僕のテストした結果だと、1回湯を通すだけでは不充分で、手間だけれど一度出した茶湯をもう一度タンクにいれてフィルターを通してやるとよい。
つまり第一煎では、茶葉が充分に開ききらないのである。
コーヒーメーカーなら、沸騰させた湯になるから、烏龍茶にはちょうどよい。それに必要以上に濃くですぎることもないから、いちどに多勢で飲むとか、オフィスで飲むのに都合がよろしい。ただたいていのコーヒーメーカーは、水以外は入れるな、と注意書きをしているので、その点は考えに入れておいて欲しい。
暑い日本の夏場であれば、大量にいれた茶を冷蔵庫で冷まして飲むのも悪くはない。それにしても昨年は暑く長い夏だった。あの酷暑にしばしばめげそうになったけれど、そんなときだからこそと、僕は愛用の急須で、熱い梅山茶をいれて、そのかぐわしさで元気を出したのだった。