松山猛の台湾発見/工夫茶道具を揃える

2019.02.02

Photograph by Green Planet
紫砂を焼いた茶壺と、聞香杯を用いた茶芸の様子。


茶盃

 鉄観音茶や烏龍茶を飲む器は、茶盃または茶杯と呼ぶ小型の、クルミの殻くらいの杯だ。茶壺つまり急須も小型で、充分に茶葉をむらして、そのエッセンスを飲むために、経験が選んだスタイルだと思う。
 広い中国には、ほかにもいろいろと茶の飲み方があって、北京など北のほうでは、大型のふた付きマグのような器に、直接茶葉をいれ、熱湯を注ぎ、茶葉が開いて浮いてきたのを、ふたをずらして飲むスタイルが多いらしい。
 このようにして飲むのは香片茶などで、このごろはやはり茶葉が邪魔なので、マグが二重構造になった「同心杯」という杯も作られている。これは杯の内側に茶こし部分があって、エキス分が出たら、内側をちょっとはずして飲むスタイルだ。僕はこれを台湾の友人からもらった。オフィスなどで、本格的に作法どおり茶を楽しめぬ人向きの品と聞き、台湾も我国同様に、忙しくなったのだなと思った。
 英国流のティーカップもそうだが、茶を楽しむ器の多くは、基本的に白磁であったり乳白色をベースにしている。茶がその色を楽しむ飲み物であるからだが、だれが見てもその色で、茶の濃さがわかる合理性がそこにあるわけだ。たぶん日本の民芸風の土物などは、茶盃としては変わり種なのではあるまいか。もっともインドではいまでも、昔風の素焼きの土器風のティーカップを使っていたりするが、これも例外中の例外だろう。朱泥の杯も内側に白い釉薬をかけて、茶の色をわかりやすく工夫したものもある。
 僕もあちこち探して、清時代末ごろの茶盃や、日本の煎茶碗をあれこれ手に入れたものだ。だが僕流の飲み方は、仕事中にかなりの量の茶を飲むので、あまり小さな器では手元が忙しすぎる。そこで使ってみたのが小型のそば猪口や、中国の酒盃だった。普段の茶はこれで充分と満足しているのである。
 本格的な南方中国式の飲み方のひとつに「聞香杯(ウェンシャンペイ)」がある。これは茶の香気を味わうために2個の茶盃を用いる方法だ。最初に茶を注ぐ器は縦長の盃で、そこで残り香をまず楽しむ。そのあとはすぐにもうひとつの飲むための盃に移すのだ。香気を重要とする上質の茶を、徹底的に楽しむのによろしい。この方式で出してくれる茶は、よほどよい茶葉と考えてもよいだろう。「安渓式」と呼ばれているから、福建省の茶どころ、安渓で採れた、よい鉄 観音や武夷岩茶などをより楽しむための工夫であろう。茶盃はおいしい茶のための大切な、もうひとりの主役である。

松山猛プロフィール

1946年8月13日、京都市生まれ。
1964年、京都市立日吉が丘高等学校、美術工芸課程洋画科卒業。
1968年、ザ・フォーク・クルセダーズの友人、加藤和彦や北山修と共に作った『帰ってきたヨッパライ』がミリオンセラー・レコードとなる。
1970年代、平凡出版(現マガジンハウス)の『ポパイ』『ブルータス』などの創刊に関わる。
70年代から機械式時計の世界に魅せられ、スイスへの取材を通じ、時計の魅力を伝える。
著書に『智の粥と思惟の茶』『大日本道楽紀行』、遊びシリーズ『ちゃあい』『おろろじ』など。