松山猛・著『ちゃあい』より
(1995年、風塵社刊)
「台湾は宝島」
24カラットの純金細工、半貴石を使った印章、そして中国人テーラーの、器用な手先から生まれる洋服作り。元気島台湾はオーダーメイド天国でもある。
今や欧米風文化の最先端を、大量に消費する実力をつけた経済大国中華民国台湾は、イタリア、フランスのファッションの花盛り。
しかし台湾極上旅行を楽しむ我らは、上海テーラーの直系である、台湾テーラーによるオーダーメイドを試みるべきだ。なによりシャツやスーツの値段が、驚くほど安い。そして高品質なのだ。
台北の一流ホテルには、必ずといっていいほど、ショッピングアーケードにテーラーが並んでいる。街なかのテーラーも多いが、その多くが、仕立てシャツ1枚百米ドル、あるいは日本円で1万円と客を呼ぶ。
今回トライしてみたのは、来来大飯店地下の「リーダー」というテーラーと、来来の裏にある「傑姆士洋服企業有限公司」であった。
さすがに2枚百ドルものは、合繊混紡の生地が多いが、もっといい生地を選んで作っても良く、コットン100%のフランス、スイス、イギリスものの生地でも1枚千円程度で、サイズの合った素晴らしいシャツが出来た。生地のバラエティーは、ひょっとすると日本より多いくらいで、極上シーアイランド・コットンで作っても1万円程度。
シルク・カシミア混紡のスポーツジャケットに、ズボンのおまけ付きで4万円程度というのもうれしい。ゼニアやスキャバルのスーツ地や、ヨーロッパの一流生地が豊富に並んでいるのだ。台湾は確実に進化を遂げた。
日本では少ないダブルカフスのシャツを、5枚作ったが、全部で約1万円で出来たのだ。
さて純金細工。これは好みもあろうが、黄金が手ごろに身に着ける財産と考えられる台湾では人気の品である。とても「さりげなく」ないところがいい。太めのネックチェーンとか、翡翠の入った指輪、思い切って仏さまのまわりにダイヤ輝くチャームでもして、この平成大不況を乗り切れ、と言いたい。
印章は漢字文化圏では大事なものだが、台湾には腕のいい篆刻(てんこく)師が多い上に、早く、そして割安に作れる。
もっとも、中国人が宝のひとつと考える田黄や鶏血石で作ると、小型車が買えるくらいの値がつくのだが。水晶や美容石などの印材なら手が届かぬでもない。
印章は男の信頼性を表す保証のしるしである。ひと頃は象牙のものが人気だったが、ワシントン条約で禁止された。しかしよく見れば、中国の印材の石には、素晴らしい表情があっていいのだ。
さてこれらの品々は、短期滞在者にも手に入るように、ごく短時間で作ってくれる。印章は2日くらい。そしてシャツも同様。ただし急ぎの人には、翌日にでも作ってあげようというのが頼もしい。シャツの着心地、まさに極上のそれであります。