一言に「GMTウォッチ」と言っても、第2時間帯の表示方法は時計によってさまざまであり、そこは時計デザイナーの腕の見せ所でもあるかもしれない。GMTは、着用者が世界を旅する人間であるということを周囲に認知させる時計でもある。ただこの付加的な第2時間帯の表示は控え目であることが多く、着用者の必要に応じて役に立つものである。直感的に視認できる12時間表示もあるし、はっきりとした24時間スケールやその他にも多くの独創的な表示方法が存在する。それらを必要とするセグメントがどのような人たちかということも重要である。なぜならば、第2時間帯表示とは、異なる属性の人々それぞれにとって意味のある機構だからだ。
Text by Jens Koch
ロレックス
「オイスター パーペチュアル GMTマスターⅡ」
さまざまな国を行き来し続けるパイロットたちは、UTC(協定世界時、Universal Time Coordinatedの略)を無線交信、フライトプラン、航空日誌で使用する。パイロットにとって、GMTウォッチは非常に有用なのだ。伝統的なパイロットウォッチのスタイルが現在まで重宝され続けているという事実は驚くには値しない。
このジャンルでよく知られた好例は、ロレックスの「オイスター パーペチュアル GMTマスターⅡ」だろう。初代のGMTマスター(Ref.6542)はパンアメリカン航空の要望に応える形で、1955年に開発されている。当時はまだ珍しかった24時間計回転ベゼルは第2時間帯をセットするためだけのオプションであった。その理由は12時間表示と24時間表示の針は別々にリセットすることができなかったからである。ロレックスが1982年に市場に導入したGMTマスターⅡ(Ref.16760)より、リュウズを半分引き出した状態で、時針を1時間刻みで任意に送ったり、戻したりすることができるようになった。
オリス
「ビッグクラウン プロパイロット ワールドタイマー」
オリスの「ビッグクラウン プロパイロット ワールドタイマー」もジェットセッターたちからの支持が高いパイロットモデルだ。しかしこのモデルの第2時間帯表示は独特なものである。3時のホームタイム表示は、12時間形式のデュアルタイムにより直感的に判読しやすい。加えて、そのダイアル内に設けられた開口部では、夜は黒、昼はオレンジという色の切り替えで昼夜表示も取り入れられている。UTCは24時間表示のものが多いため、これはローカルタイムを多く確認する必要する人に適したデザインだろう。
ジン
「フランクフルト・ファイナンシャル モデル6099」
ライカ
「ライカL2」
「ライカL2」は、GMT用の針を持たずに控えめな第2時間帯表示を行う。その方法は、4時位置に配したふたつ目のリュウズを使って見返しの12時間表示リングを回転させ、通常の時針が第2時間帯の時間も同時に指すようにするというものだ。小さなドットの右側にさりげなく設けられた昼夜表示と合わせて読み取ることで、相手の時間(例えば自宅に電話をかけるのに適切な時間や、愛する人が眠りに就こうとする時間など)を確認することができる。視認性の高いデザインと、ライカのカメラのISOセッティングホイールを想起させる、リュウズにある赤のドットといったディテールが、時計愛好家のみならずライカファンにまで、この時計が有名なカメラメーカー、ライカの時計であるということを知らしめている。