ウォッチジャーナリスト渋谷康人の 役に立つ!? 時計業界雑談通信
世界最大の時計宝飾フェア、バーゼルワールドは存続できるのか?
「何てスカスカな……これは思っていたよりもマズいのでは……」。今年のバーゼルワールド、3月20日のプレスデーに足を運んで、まず思ったのはそのことだった。
ブランドのブースを回る時計関係者にとって、何よりも気になるのは会場のフロアプランだ。例年よりずっと遅く、ようやく発表されたフロアプランを見て時計業界の関係者は一様に当惑したはずだ。スウォッチ グループのブランドがブースを並べていたホール1.0(メインホール1階)の中央がプレスセンターとレストランになっている……。
ブルガリ、タグ・ホイヤー、ゼニス、ウブロ、パテック フィリップ、ロレックス&チューダー、ショパールと、ホールの前半部分を占めるエリアこそ従来通りの賑わいを見せていた。だが、その後ろが大きく空いてしまった。
「これはスウォッチ グループに戻って欲しいという切実なメッセージだ」
これまでのバーゼルを知る人なら、全員がそう思う。
出展社数はこの原稿を書いている3月26日、フェア最終日の朝の時点で、公式発表されていないが、500社を超えた程度と推測される。昨年の約700社弱よりもさらに減った。
ファッションの世界でも、このようなフェアの開催は難しくなっている。
こうしたビッグフェアの役割はマーケティングの視点から「すでに終わった」という意見もある。特にビッグブランドが自社の成功のみを考えれば、独自にフェアを開催した方が良いという結論になるだろう。
だが今年も会場を回り、例年より少ないが約40ほどのブースを回り、新作を見て思ったのは、バーゼルワールドという場の大切さだ。
時計の本当の価値や魅力は、実物を実際に手にしてみないと、バーチャルでは分からない。だから「出合いの場」はどうしても必要なのだ。それも、さまざまな時計と出合える場所が。
今年、押しかける来場者の熱気であふれるホール1の2階奥、AHCI(アカデミー独立時計師協会)ブースを見て改めてそう思った。
だがそのためには、フェアが根本的に「生まれ変わる」必要がある。たとえば入場料。オンラインで買えるデイチケットは45スイスフラン、約5000円。グループチケットでも40スイスフラン、約4400円。だが果たして今のバーゼルワールドにその価値はあるだろうか。ブースはこのかたちでいいのか。そもそも、この場所がふさわしいのか。
どんなものでも、生まれ変わりには時間がかかる。
「2019年は過渡的な年で、新しいバーゼルワールドのお披露目ができるのは2020年だ」と、バーゼルワールドを主催するスイスのMCHグループの暫定CEOであるハンス・クリスチャン・ホイスガードとバーゼルワールドのマネージングディレクターであるミシェル・ロリス-メリコフは昨年からすでにプレスリリースで表明している。また今日、3月26日12時には「バーゼルワールド2020+」について発表することになっている。
果たして来年、スウォッチ グループは戻ってくるのか? 本当に生まれ変わることができるのか? 実は時間はあまりない。