シチズンBASELWORLD2019速報
2019年のバーゼルワールドで、シチズンはふたつの新作を発表した。ひとつは昨年お披露目され、時計愛好家に熱狂を呼んだキャリバー0100搭載の腕時計モデル。もうひとつは、30周年を迎えた「プロマスター」の限定モデルだ。もちろん、語るべき機能は多くある。しかし、それ以上に見るべきは、内外装の非凡な融合である。
広田雅将(本誌):文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
THE CITIZEN
(右)光発電式の量産型ムーブメントとしては史上最高の精度を誇るキャリバー0100。それを搭載したのが本作だ。エッジを立たせた外装は、クリスタル(水晶/結晶)をモチーフにしたもの。高精度を際立たせるため、日付表示さえも外した潔さが際立つ。光発電エコ・ドライブ(Cal.0100)。17石。838万8608Hz。フル充電時約6カ月駆動。18KWG(直径37.5mm、厚さ9.1mm)。5気圧防水。世界限定100本。180万円。
(左)年差±1秒の超高精度ムーブメント。温度特性に優れ、姿勢差誤差の小さなATカット型水晶振動子は約8.4MHzという超高振動で駆動し、1日1440回の温度補正を行うことで、この超高精度を実現した。また、時針の単独修正機能に加えて、衝撃検知機能と針自動補正機能も備えている。普通、こういった超高振動クォーツは電池の消費が激しい。しかしシチズンは、消費電力を抑えることで、光発電エコ・ドライブで超高振動クォーツを実現してみせた。
年差±1秒以内という超高精度を謳うキャリバー0100。2018年の発表時に、シチズンは「翌年には量産化する」と明言した。筆者は半信半疑だったが、今年、その腕時計版である「ザ・シチズン キャリバー0100搭載モデル」がリリースされた。温度特性に優れ、姿勢差誤差の小さいATカット型水晶振動子の8.4M㎐という超高振動、加えて太く長い真鍮製の針を回すトルクを持つキャリバー0100は、掛け値なしに量産型クォーツウォッチの最高峰だ。スタンドアローンで年差±1秒を実現した光発電の量産型ムーブメントは、今後も容易には現れないのではないか。
しかし、このモデルで見るべきは、傑出したムーブメントに限らない。シチズンのデザイナーたちは、超高精度機に相応しい外装を、ザ・シチズン キャリバー0100搭載モデルに与えたのである。
キャリバー0100は、一般的な1次電池ではなく、光で発電するエコ・ドライブを動力源に持つ。受光するソーラーセルが文字盤の下にあるため、文字盤の素材は基本的に光透過性の高いポリカーボネートになる。だが、光の透過率を上げると質感は落ち、質感を上げると透過率は落ちてしまう。普通のエコ・ドライブなら問題ないが、超高振動と強いトルクを持つキャリバー0100は、従来以上の受光性能を持つ必要がある。シチズンのデザイナーと設計チームは、受光面積をぎりぎりまで大きくすることで、文字盤の質感を高めることに成功した。
インデックスも凝っている。一面のダイヤモンドカットと思いきや、あらゆるファセットにダイヤモンドカットが施されている。細い秒針も同様で、山型のダイヤモンドカットを施した上、先端を大きく曲げている。これらは、量産機の中では最も凝ったものではないか。
ケースのデザインも潔い。クォーツクリスタルをイメージした簡潔な面構成を持つが、加工精度が高いため、面の歪みは極めて小さい。その簡潔さを強調すべく、シチズンのデザイナーたちは、思い切って日付表示も外したのである。
PROMASTER 30TH ANNIVERSARY
プロマスター30周年記念モデル。非常に精密な回転計算尺付きのケースを与えた、シリーズ最高峰の新作モデル。エコ・ドライブに加えて、GPS衛星電波、39都市を表示するワールドタイム機能、デュアルタイム機能、クロノグラフ、アラーム、ライトレベルインジケーターなどを備える。光発電エコ・ドライブ(Cal.F990)。フル充電時約5年稼動。スーパーチタニウム(直径47mm、厚さ18mm)。20気圧防水。世界限定1989本。28万円。
高精度を引き立たせるべく、あえてミニマルを打ち出したザ・シチズン キャリバー0100搭載モデルに対して、その高機能ぶりを造形面でも強調したのが、「シチズン プロマスター エコ・ドライブGPS衛星電波時計 プロマスター30周年限定モデル」だ。搭載するキャリバーF990は、光発電エコ・ドライブGPS衛星電波時計の最上位ムーブメントである。ローカルタイムとホームタイムを同時に表示する上、両者は瞬時に切り替え可能で、世界39の時差に対応し、GPS衛星電波も最短3秒で受信する。今回シチズンは、この高機能ムーブメントに相応しい極めて複雑な外装を与えた。
「シリーズ8」以降、シチズンの上位機種は外装の質感をさらに高めた。具体的に言うと、外装部品のクリアランスはより狭くなり、立体感も増した。加えて、シチズンのお家芸である多層文字盤は、いっそう複雑になったのである。現時点におけるその極北が本作だ。フェイスは5層構造になり、大ぶりなケースを埋めるように、シグナルコードと回転計算尺が備わった。にもかかわらず、視認性は良好で、取り回しも軽快だ。
搭載する高性能ムーブメントに理想的な外装を与えられたシチズンのふたつの新作。世にハイテクウォッチは数あれど、内外装のコンセプトが見事にシンクロする点、このふたつは白眉と言える。
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