ブラウン文字盤の腕時計がなぜ、他のカラーの文字盤のように流通しないかということには理由がある。ブルーやグリーンの文字盤は人を引き付けるようなカラートーンで、時間を生き生きと見せてくれる。一方、ブラックやホワイトの文字盤はドレスアップやドレスダウンに取り入れやい、伝統的でなじみあるデザインだ。ブラウンはこれらのカラーの中間に位置するのだが、落ち着いた暖かみのあるカラーを目立たせるためには、服装に合わせるのに特別な努力を要するのである。しかし、そこにブラウンが特別である理由がある。そしてブラウン文字盤の腕時計は、ゆっくりではあるが確実に、時計愛好家たちの間で成長しつつある理由が見て取れる。ここでは過去数年にわたって発表された、あなたが欲しくなるような素晴らしいチョコレートカラーの文字盤を5モデル紹介していく。
Text by Logan R.Baker
ヴァシュロン・コンスタンタン 「オーヴァーシーズ」
クロノグラフモデルにブラウン文字盤を展開していたヴァシュロン・コンスタンタンは、2016年のオーヴァーシーズ刷新の際に、このブラウン文字盤のモデルを取り入れている。3針とデイト表示だけのこのモデルは、文字盤のサンバースト仕上げと、タイムレスなサイズ感のステンレススティール製ケースによる魅力的な仕上がりだ。1977年に発表された「222」に始まるヴァシュロン・コンスタンタンのスポーツウォッチの歴史に裏打ちされ、オーヴァーシーズは、偉大なスポーツウォッチのひとつとして注目される。カフェオレのような色合いのRef.4500V/1110aの文字盤は、洗練された印象を加え、その伝統を受け継ぐ存在となった。自社製自動巻きキャリバー5100を内蔵し、約60時間の長いパワーリザーブと「ジュネーブ・シール」の品質を誇っている。
ゼニス 「ELITE クロノグラフ クラシック」
ゼニスのELITE クロノグラフ クラシックは過去5年のうちに発表されたものの中で、過小評価を受けたモデルのひとつかもしれない。このエリートラインの派生版はエル・プリメロクロノグラフムーブメントの更新を利用して、2016年に他のカラーと同時に発表されている。薄めくグレーがかったポリッシュ仕上げの文字盤、3時位置と9時位置のサブダイアル、くぼんだ四角いプッシャーなどのクラシカルなデザインによって、控えめな外観と相まって発表時には称賛が集まったが、時計業界の中でそれ以上に発展することはなかった。ブラウン文字盤の時計の中でも控えめなチョコレートカラーの、ウッド調のトーンは魅力だ。同様に「引き算は足し算」のような時計が他のブランドからも出てくることを願う。
セイコー 「セイコー プレザージュ」
グランドセイコーは20周年記念の際に限定版のモザイクブラウン文字盤(SBGR311G)を発表しているが、ここで紹介するのはセイコーが2017年に発表した、より入手しやすく、かつ同じくらい興味深いモデルだ。セイコー プレザージュの「カクテルタイム」は8モデルからなるシリーズで、このモデルは「マンハッタン」カクテルにインスパイアされたキャラメルカラーの腕時計である。文字盤はカクテルグラスを真上から見たような、さざ波のような模様を施されたものとなっている。セイコーによると、7層の光沢仕上げを施してそのきらめく外観を実現しているとのことである。3時位置には小さな、同じ色調のデイト表示を備える。この時計の最も良い点は何であろうか? そのひとつにわずか4万9000円(税別)という価格が挙げられるだろう。
ウルバン・ヤーゲンセン 「Ref.1140 RG ブラウン」
ウルバン・ヤーゲンセンは現在の市場の中で最も手の込んだ時間表示のモデルを作り続けている。2018年に発表されたRef.1140L RG ブラウンはその好例と言える。クルミ色のようなブラウン文字盤は繊細な青焼き針と好対照を成し、ラグジュアリーな雰囲気を醸し出している。ローズゴールド製のアラビア数字のインデックスは手作業で仕上げられ、まるで文字盤の表面に浮かんでいるように見える。職人によってギヨシェ仕上げが施された文字盤、編み込みパターンのスモールセコンド、ティアドロップ型のラグ(ひとつずつ鍛造・溶接され、熱処理が施されたあと手作業のポリッシュ仕上げがなされている)などの要素が、全体の構築感を高めている。このモデルはさまざまな文字盤のカラーやケース素材を展開するRef.1140シリーズのひとつである。このモデルの前年には、プラチナケースにベルベット調のブルー文字盤のモデルが発表された。このブラウンモデルは、ウルバン・ヤーゲンセンの暖色系の新しいバージョンとして加えられた。ケース内部には手仕上げで装飾が施された、ウルバン・ヤーゲンセンのスイスレバー式エスケープメントを採用した、ツインバレルと約72時間パワーリザーブを持つ自社製キャリバーが内蔵されている。世界限定20本で、直径40mmのケースには、ローズゴールド製フォールディングバックルと尾錠の付属したアリゲーターストラップが合わせられている。
オメガ 「シーマスター プラネットオーシャン マスター クロノメーター」
2016年に発表されたオメガのシーマスター プラネットオーシャンのこのセドナゴールドモデルは、発表時にはレディースウォッチと表記されていた。直径39.5mmのサイズで、夫婦でシェアウォッチとすることにも向くモデルだと考えられていた。デザインとレイアウトは1モデル前のプラネットオーシャンに近いが、使われているムーブメントは全く新しい。プラネットオーシャンのシリーズでは初めて、マスター クロノメーターの名を冠したキャリバーを搭載したのだ。ケースバックから眺めることのできるキャリバー8801はオメガのMETAS認定を有し、1万5000ガウスの耐磁性をもっている。1モデル前は直径42mmのユニセックスモデルとされていたため、39.5mmのサイズもオメガにとって新しい展開である。自社独自のセドナゴールド合金をケース、バックル、インデックスに採用したのも良い選択だ。これによって、マホガニーブラウンの文字盤とラバーライニング レザーストラップとの魅力的な外観がまとめ上げられている。600m防水であることも特筆せねばならない。
他チョコレートカラーの文字盤モデル
ここに挙げたのは現在成長を遂げつつあるブラウン文字盤の一部である。他にもパテック フィリップの「カラトラバ・パイロット・トラベルタイムRef.5524R」や、ラドーの「キャプテン クック37mm」、チューダーの「ブラックベイ ブロンズ」、パネライの「ルミノール 8デイズ パワーリザーブ チタニオ PAM00797」、ウブロの「クラシック・フュージョン ベルルッティ」、F.P.ジュルヌの「オクタ・オートマチック リザーブ ハバナ・ダイアルといったブラウン文字盤の選択肢もある。