多くの腕時計ブランドが、自動車メーカーやモーターレース、レーシングチームとのパートナーシップを結んでいる。他にも「ペブルビーチ・コンクール・デレガンス」といったプレステージ性の高いカーイベントへの参加や、歴史的なモーターレース、クラシックカーレースのイベントやフェスティバルのスポンサーを行うブランドもある。そして、それらのブランドのほとんどが特定のドライバーや車、イベントとのコラボレーションウォッチを発表している。これらのパートナーシップを通じて、時計ブランドは自動車への情熱を表現し、腕時計を新次元へと推し進めようとしている。ここでは腕時計と自動車のパートナーシップに焦点を当て、そのコラボレーションモデルをお届けする。
Text by Roger Ruegger
歴史的に時計と車は、近しい存在であり続けてきた。人々が馬車に乗って旅をし始めて以降、懐中時計や馬車用の時計は、社会的に重要な存在となったからである。自動車の台頭によって、時計ブランドはダッシュボード用の時計を作り始め、歴史的にそれと並行して腕時計の生産も増加傾向となっていった。例えばホイヤーは、ダッシュボード用の最初のクロノグラフを作り、1911年に特許を取得して以降、50年代、60年代、70年代と時間を追うごとにモータースポーツの場においてその存在を知られるようになった。モナコやカレラなどはドライバー向けに開発された時計だ。
現代においては、ポール・ニューマンが使用したロレックス「コスモグラフ デイトナ」が、2017年10月26日、フィリップスのオークションにおいて1775万2500USドル(バイヤーズプレミアム込みで約20億円、なしだと約17億円)という腕時計のオークション史上最高値を記録している。
しかし、著名な俳優の名前などを借りずとも、時計ブランドが車をテーマにした時計を発表し続ける理由は明らかである。それは自動車愛好家には時計愛好家が多いということ、もしくは車の熱狂的なファンは新しい時計の購買層になりうる可能性が高いということを意味するのだ。しかし文字盤に腕時計ブランドと自動車ブランドの2社のロゴを配するということは、互いに異なるヒエラルキーを生み出すということにもなる。例えば、ショパールが25年以上にもわたってオフィシャルタイムキーパーを務めるミッレミリアの名を冠した時計は、常にショパールの時計として知られるが、2004年発表のジンのアウディデザイン スクエア クロノグラフは、ジンの時計として見られるより、アウディの商品として捉えられることが多い。筋金入りの時計収集家にとって、この状況は時に一種の軋轢を生み出すことがある。また逆に、時計によっては車と同じぐらいの価格帯を付けるものもある。
リシャール・ミル
「RM 11-03 オートマチック フライバッククロノグラフ マクラーレン」
1959年のF1、USグランプリにおいて22歳という若さ(当時最年少のグランプリ勝者)で優勝したブルース・マクラーレンはブルース・マクラーレン・モーター・レーシングを1963年に創立した。その1年後、同社は最初のマクラーレンのレースカー(スーパーカーの量産は2010年に始まる)を世に送り出している。創業当初のロゴにはパパイヤオレンジカラーを採用しており、それが「マクラーレンオレンジ」と呼ばれるようになった。
「マクラーレンオレンジ」のカラーリングは、2018年にジュネーブのインターナショナル・モーターショーで発表された、マクラーレン・オートモーティブとリシャール・ミルの初のコラボレーションウォッチ「RM 11-03 オートマチック フライバッククロノグラフ マクラーレン」にも採用されている。この時計は世界限定500本で、マクラーレン アルティメットシリーズの顧客優先のモデルとして販売された。
カーボンTPT®とクオーツTPT®を織り合わせて製作されたベゼルとケースには、2016年発表の自動巻きフライバッククロノグラフムーブメントRMAC3が内蔵される。ダブルバレルが平行に備えられ、フリースプラングテンプを採用。約55時間のパワーリザーブを保持する。巻き上げは可変慣性モーメントローターによって行われ、着用者の活動レベルによってカスタマイズが可能だ。それに加え、ブリッジとベースプレートはPVDコーティングを施したグレード5のチタン製となっており、輪列駆動時の堅牢性と機能性に優れている。
ボーム&メルシエ
「クリフトン クラブ シェルビーコブラ CSX2299リミテッドエディション」
ボーム&メルシエはアメリカのレーシングカーメーカーであるシェルビーと2015年にチームを組み、いくつかのコラボレーションモデルを発表してきた。2017年には「クリフトン クラブ シェルビーコブラCSX2299リミテッドエディション」が、シェルビー・デイトナに着想を得て発表された。このデザインは、著名なカーデザイナーである、ピーター・ブロックが手掛けた。直径44mmのケースにはフライバッククロノグラフムーブメントのラ・ジュー・ペレ8147-2が搭載され、車のテールカラーと同じコンビカラーを文字盤に採用している。フットペダルの形状をしたクロノグラフのプッシャーや、シェルビー・デイトナのホイールの形状を模したローターなどがあしらわれている。世界限定196本で発売された。
IWC
「インヂュニア・クロノグラフ・スポーツ “50th アニバーサリー・オブ・メルセデスAMG”」
メルセデスは2005年にハイパフォーマンスモデルを開発するAMG(Aufrecht, Melcher and Grosaspach)のオーナーとなり、「メルセデスAMG」として新たなスタートを切った。同じ年、IWCはインヂュニア・コレクションを発表し、その直後にはメルセデスのレーシングチームとのパートナーシップをまとめ上げた(1997年にサーブとの短いパートナーシップを終えた後のことだった)。この関係を記念する時計に、2017年に発表された「インヂュニア・クロノグラフ・スポーツ “50th アニバーサリー・オブ・メルセデスAMG”」がある。フライバック機能の付いたIWC自社製ムーブメントのキャリバー89361を搭載し、世界限定250本モデルとして発表された。ケースはチタン製で軟鉄性ケージを採用し、高い耐磁性能を確保している。
ゼニス
「エル・プリメロ レンジローバー ヴェラール」
2016年、ゼニスは冒険心を具体化するために、英国のランドローバーとパートナーシップを結んだ。それ以来、両ブランドはエル・プリメロ・クロノグラフのスペシャルエディションをいくつかのコラボレーションモデルとして発表してきた。例えば2017年には、直径42mmの「エル・プリメロ レンジローバー ヴェラール」が発表されている。赤金色のディテールを加えたヘアライン仕上げのグレー文字盤、細かい穴の開いたカーフスキンでコーティングのラバーストラップなどが採用されている。サファイアクリスタル製ケースバックから鑑賞できるムーブメントは、1969年に発表された最初のエル・プリメロムーブメントの後継機、ゼニスの自動巻きエル・プリメロ400Bである。
ポルシェデザイン
「クロノグラフ911ターボSエクスクルーシブシリーズクロノグラフ」
自動車と腕時計のコラボレーションを語る上で欠かせないのが、ポルシェとポルシェデザインだろう。ポルシェ オートモービルがポルシェデザインスタジオとイニシアチブを取りつつ共作するのだ。このチームワークの好例として挙げられるひとつが、2017年のポルシェデザイン「クロノグラフ911ターボSエクスクルーシブシリーズクロノグラフ」だ。搭載されるフライバック機能付きのムーブメントはポルシェデザイン最初の自社製キャリバー01.200で、C.O.S.C.によるクロノメーター認定を取得している。これは世界限定500本で、911ターボSスポーツカーのオーナー限定モデルとして販売された。