物語を秘めた一杯に心弾む
ニューヨークを拠点に活躍しているバーテンダー、後閑信吾氏が、2018年6月に日本1号店をオープン。飲み手の好奇心をくすぐるカクテルを差し出す。
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
ボンベイサファイアをベースにした陽気なカクテル。パイナップル、青臭さを残さないよ
う皮を剥いた胡瓜、レモングラスなどを使った自家製のジュースを合わせている。仕上げにアブサンをスプレーし、火をつけて香り豊かに。きめ細やかな泡の上にディルを添えて提供する。優美な形状の錫の酒器は、「Nagae+」による錫製猪口。1700円。
1860年、徳川幕府から遣米使節団としてニューヨークに派遣された77人の侍が、アメリカのカクテル文化に触れ、江戸に帰国してバーを開いたら……? そんなコンセプトに基づいて誕生したのが「The SG Club」。喧騒から外れた渋谷に佇み、フロアごとに異なる顔を持っている。1階の“Guzzle”は、日中から営業し、カジュアルにごくごく飲めるカクテルを揃える。カップ酒の容器にオリジナルカクテルを詰めた「ナンバーワンカップ」は象徴的な一杯だ。階段を下りた地下の“Sip”では、より落ち着いた雰囲気で、大胆なクリエイティビティと繊細な感性を感じる一杯をゆっくり傾ける時間を過ごすことができる。
プロデュースするのは、バー業界最大の祭典「Talesof the Cocktail」で「International Bartenderof the Year」をはじめ、世界的なタイトルを獲得しているバーテンダーの後閑信吾氏。“SG”は、後閑氏のイニシャルであり、ふたつのフロアの頭文字、さらに、侍&ギャングでもある。ロゴは古い書体に刀を組み合わせた粋なもの。
“Sip”のメニューを捲ると、「白珈琲フィズ」「ワギュウマフィア ファッション」といった興味深いカクテルが、18種類並ぶ。プロデュースする店舗のフロアごとにメニューがすべて異なるため、4店舗でありながら12店舗分のメニュー量になる。レシピ数の多さに驚くが、それ以上に興味深いのは、それぞれのカクテルの背景だ。「St.Thomas」は、ニューヨークで交流のあった元「Jean-Georges」の米澤文雄シェフのスープからインスピレーションを得たもので、名前は後閑氏が好きなジャズのタイトルから。陽気なリズムが、南国を連想させるトロピカルなテイストと重なっていく。
後閑氏のカクテルは複雑なレシピであるにもかかわらず、オーダーすると瞬く間に完成する。事前に自家製のジュースなどを仕込んでいるため、次々とオーダーが重なってもゲストを待たせない。「カクテルは嗜好品であり、自身を映す鏡。作る側も楽しんでいます」と語る。徹底された大人の遊び心とストーリーが、カクテルを取り巻き、記憶に色濃く残る一杯となる。
1983年、神奈川県生まれ。23歳で単身ニューヨークへ渡り、下積みを経て「Angelʼs Share」のヘッドバーテンダーに就任。その後、上海に「Speak Low」「Sober Company」をオープン。2018年6月に渋谷「The SG Club」、11月に上海3店舗目「The Odd Couple」を開業。
東京都渋谷区神南1-7-8 ☎ 03-6427-0204 不定休
1F“Guzzle”日~木12:00~26:00、金土12:00~27:00
B1F“Sip”日~木18:00~26:00、金土18:00~27:00
2F“Savor”会員制(26:00~28:00は一般のゲストも来店可能)
B1Fはサービス料10%別、1F・B1F共に消費税込みでチャージなし