近年、さまざまなブランドが自社で蓄積してきたものにラトラパンテ機構を付け加えようとしているのが見て取れる。そこで、気になるラトラパンテを紹介していきたい。
Text by Logan R. Baker
ラトラパンテとは
ラトラパンテ、またの名をスプリットセコンドクロノグラフは、徒競走時のランナーのような、同時進行する複数の時間計測を2本の秒針によって可能とするクロノグラフの一種である。
この機構はまた、トラックを走っている選手のラップタイムのような、繰り返し行われる事象の時間計測をすることもできる。2本の秒針うち、「ラトラパンテ針」と呼ばれるものは、メインのクロノグラフ針の上または下に組り付けられている。ラトラパンテ針のスタートとゼロリセットは、メインのクロノグラフ針と同時に行ことができ、特別なプッシュピースと追加機構によって、ラトラパンテ針を何度も停止させることができるのである(これによりスプリットされた計測時間が読み取れるのだ)。そして停止後、もう一度ラトラパンテ用プッシュピースを押すとすぐにジャンプして、メインのクロノグラフ針に追いつき同期させることができる(ラトラパンテはフランス語で「追いつく」「再度入手する」の意。)これらすべてが基本的に、メインのクロノグラフの動きには影響を与えない状況で実行できるのだ。
F.P.ジュルヌ
「クロノグラフ・モノプッシャー ラトラパンテ」
2018年にF.P.ジュルヌは「クロノグラフ・モノプッシャー ラトラパンテ」を発表した。2017年11月に行われた「オンリーウォッチ」チャリティーオークションへの、F.P.ジュルヌの貢献を思い出す向きも多いであろう。オークションにかけられたタンタル製のラトラパンテ付きクロノグラフは厚さ6.80mmのムーブメントを実現し、115万スイスフラン(F.P.ジュルヌでは最高額)で落札されている。この性能と薄さをそのままに、手巻きキャリバー1518にはビッグデイト表示が追加された。ムーブメントは約80時間のパワーリザーブを保持し、クロノグラフ機構スタート時の針飛びを防ぐために、スイングピニオンによる動力の伝達を採用している。画像の18Kローズゴールドケースとルテニウムカラー文字盤に加え、チタンケースにアルミニウム合金製文字盤(税別696万円)、プラチナケースにブルーモーブカラー文字盤(税別1272万円)を組み合わせた3モデルの展開がある。
IWC
「パイロット・ウォッチ・ダブルクロノグラフ・セラタニウム」
IWCは2019年に「パイロット・ウォッチ」コレクションから自社開発したチタンとセラミックスの複合素材、セラタニウム®をケースに使用した「パイロット・ウォッチ・ダブルクロノグラフ・セラタニウム」を発表した。同素材はチタン譲りの軽さとセラミックスと同等の硬度を併せ持ち、またこれらの素材が共通して持つ高い耐食性も引き継いでいる。なお、モデル名にあるダブルクロノグラフとはスプリットセコンド機構のことであり、自動巻きキャリバー79420は約44時間のパワーリザーブを保持する。
ブライトリング
「ナビタイマー 1 B03 クロノグラフ ラトラパンテ 45 ブティックエディション」
ブライトリングは、2017年に初の自社製スプリットセコンドクロノグラフムーブメント搭載モデルを発表し、翌年に「ナビタイマー 1 B03 クロノグラフ ラトラパンテ 45 ブティックエディション」を発表した。がっしりとした直径45mmのステンレススティールケースには両面無反射コーティングのドーム型サファイアクリスタル風防が備えられる。文字盤の3時位置には30分積算計、6時位置に12時間積算計、9時位置にスモールセコンドの横3つ目のブラックサブダイアルが配された。スプリットセコンドのプッシャーは、3時位置のリュウズに組み込まれている。キャリバーB03のモジュール構造は、ブライトリング初の自社製スプリットセコンドクロノグラフムーブメントであり、自動巻き、日付表示、クロノグラフ機構、約70時間のパワーリザーブを備えたキャリバーB01をベースとした。なおスプリットセコンドのモジュールはわずか28パーツで構成され、地板とカレンダー機構の間に組み込まれている。
パテック フィリップ
「シングルプッシュボタン・スプリット秒針クロノグラフ Ref.5372P」
パテック フィリップの「シングルプッシュボタン・スプリット秒針クロノグラフ Ref.5372P」は、ブランドの象徴的なスプリットセコンドクロノグラフの進化形として2017年に発表された。2012年のRef.5204発表以来の機構アップデートとなった本作Ref.5372Pは、パーペチュアルカレンダー機構を維持する一方、クロノグラフ機構にはモノプッシャーを与えることで機構として複雑性を高めている。文字盤のレイアウトにも変更が見られ、3時と9時位置に備えられたクロノグラフカウンターの開口部には、月と曜日が表示されている。デイト表示は6時位置のサブダイアルに置かれ、ムーンフェイズは12時位置に配されている。デイト表示の両側に見られる小窓は、右が閏年表示で、左が昼夜表示だ。直径はわずかに小さくなり、Ref.5204が直径40mmだったのに比べ、Ref.5372Pは38.3mmとなっている。ブルー・ソレイユ文字盤とプラチナケースモデルの他には、垂直方向にサテン仕上げの施されたローズゴールド文字盤の2モデルで展開される。
A.ランゲ&ゾーネ
「トリプルスプリット」
A.ランゲ&ゾーネは2018年に世界で初めて時・分・秒の3単位でふたつの時間を比較しながら計測できるラトラパンテクロノグラフを発表した。12時間までの計測時間の追加比較を、分積算計・時積算計の両方にラトラパント針を設けるという驚くべき方法によって可能としている。機構を作動させない状態では、スイープ運針のクロノグラフ秒針のペア、分積算針のペア、時積算針のペアすべてが重なりあっている。プッシャーを使ってクロノグラフ機構を作動させると、すべての針は同時に動き出し、10時位置のラトラパントのプッシャーが押されると同時に、計測された中間タイムが確定される。キャリバーL132.1にはフライバック機構も搭載されており、3組の針全部を操作できるようになっている。
https://www.webchronos.net/specification/20231/