1833年に創業したジャガー・ルクルトは、185年以上にわたって時計製造の専門技術を追求し続けてきた。1895年には、打鐘速度を調節するサイレント・ストライク・ガバナーの特許を取得するなど、特にソヌリ(チャイム)およびミニッツリピーター機構を備えた複雑時計の自社製造に注力してきたブランドのひとつでもある。ジャガー・ルクルトが2019年5月に発表した「マスター・グランド・トラディション・ミニッツリピーター・パーペチュアル」は、それを示す好例だろう。
ジャガー・ルクルト
「マスター・グランド・トラディション・ミニッツリピーター・パーペチュアル」
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「マスター・グランド・トラディション・ミニッツリピーター・パーペチュアル」の最大の特徴は、ミニッツリピーター機構を革新的に発展させた点にある。これまでミニッツリピーター機構においては、力強い音色と広がりのある残響音を実現させるために、ムーブメントを1周以上取り巻く形状の「カセドラル」というゴングが存在してきた。ゴングに長さを求めるのは、ゴングに伝わるエネルギーを効率的に活用するためである。ジャガー・ルクルトは本機において、カセドラルの利点をさらに活かすように考えた。その結果が、ゴングをムーブメント外縁部の1周近くまで取り巻いたのち、文字盤側まで貫いてさらに伸ばすという新しい発想である。文字盤側から外周部を見ると、1時位置あたりから2本のゴングが現れて、それぞれ8時位置ぐらいまで伸びていることが確認できる。このように、振動を生み出す音源であるゴングを立体的に成形してその長さを伸ばし、かつ音を響かせるスペースを最大化することで、音響伝達能力は最大限に引き出された。
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マスター・グランド・トラディション・ミニッツリピーター・パーペチュアルの文字盤には、ふたつのバリエーションがある。ひとつはブルーのギヨシェ彫りが施されたエナメル文字盤、もうひとつはグレインで仕上げられたシルバー製の文字盤である。時分表示のほか、3時位置に日付、6時位置に月、7時半位置に年、9時位置にムーンフェイズと曜日表示がそれぞれ配される。
なお、時分針の軸の近くの文字盤開口部には、赤く色が変わる仕様で直観的に読み取れるセキュリティーゾーンが配された。この表示は、午後10時から午前1時の時刻またはカレンダー調節の禁止時間帯に表れるものである。複雑機構ゆえ、ムーブメントへの負荷やダメージの原因は避けねばならぬ。
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このように複雑機構を盛り込み、自動巻き機構をも与えた「マスター・グランド・トラディション・ミニッツリピーター・ パーペチュアル」だが、直径43mm、厚さ13.72mmという極めてコンパクトなケースに収められたことを最後に記したい。