ノモス グラスヒュッテは、すべてのドイツブランドの中で最大規模の生産本数を誇ると同時に、愛好家の期待を裏切らないデザインの方向性の中で新しいコレクションを打ち出し続けている。ベルリンの壁が崩壊した2ヶ月後に創業したブランド、というような広く知られる事実から、時計愛好家たちでさえもまだ知らない興味深い事柄もある。今回はそんなノモスについて、知っておきたい5つのポイントをお伝えする。
Text by Logan R. Baker
[2019年07月 初出]
洗練された時計作り
ノモス グラスヒュッテのR&D(研究開発)部門を率いるのは、ドイツの独立系ブランド「ラング&ハイネ」の共同設立者でもある、ミルコ・ハイネだ。すべては2001年にさかのぼる。時計職人の見習いであったマルコ・ラングとミルコ・ハイネはチームを組み、ドレスデンに自分たちの工房をスタートさせた。1年後、ふたりは最初の作品をバーゼルワールドで発表し、喝采を浴びた。しかし2002年の夏にハイネは、ノモスのR&D部門の責任者となるべくこの若いブランドを去ったのである。今では、「ノモススウィングシステム」や「DUW 3001」(詳細については後述する)など、多くの独自の技術を開発するに至る。一方、マルコ・ラングは「ラング&ハイネ」のブランド名を維持しつつ、年間約50本の時計製造を続けたが、2019年に彼もラング&ハイネを離れた。
限定モデルへのこだわり
世界展開している他のブランド同様、ノモスも自社の特定ブティックや関係先のみで発売する限定モデルをこれまで数多く発表してきた。多くの場合、それは特定のカラーが施されたインデックスであったり、関連する取扱店や記念するイベントなどに関する文字盤の仕様であったりするのだが、ノモスの場合は予想外の方法でブランドのデザイン精神を反映したユニークな時計を生み出してきたのだ。私の言うことが信じられないようであれば、次に挙げるような記憶に残る時計を例を確認してみてほしい。「ノモス・タンジェント バーニーズニューヨーク」(日本限定)、「ノモス・タンジェント ミレニアム」(オーストリア限定)、「ノモス・タンジェント 漆」(日本限定)などが挙げられる。
国境なき医師団
2012年以来、ノモスは国境なき医師団のドイツ支部(Ärzte ohne Grenzen)を支援しており、世界各地での活動につながる財団の資金集めのために限定モデルを発表してきた。世界規模の人道的支援組織と正式に提携を結ぶ前に、ノモスは生産方法と材料調達が国境なき医師団によって要求される厳格な倫理規定を満たしているかを確認するための一連の検査を受けた。
時計作りの町、グラスヒュッテ
ノモスのデザインはすべてベルリンで行われているが、ノモスの本社機能は、時計に特化した町グラスヒュッテにある3つの社屋に集約されている。グラスヒュッテはベルリンから車で2時間半、ドレスデンから45分の距離だ。グラスヒュッテでは、ケースとムーブメントの組み立てが行われている。なお事務関係の部署があるメインオフィスは、以前のグラスヒュッテ駅舎を改築して作られた。鉄道といえば、ノモスはバーゼルワールドでのパーティーを、バーゼルにあるドイツ側の駅で毎年開催している。
自社製へのこだわり
ノモスは2005年から自社製ムーブメントの生産を開始しており、特に直近では際立ったふたつの機構を開発している。このふたつが、生産に対するブランドの姿勢を完全に変えることとなった。2014年に発表された「ノモススウィングシステム」と、その翌年に発表された自社開発ムーブメント「DUW 3001」である。設計から一貫して自社で作られたノモススウィングシステムは近年のモデルのほとんどに搭載されている脱進機であり、この実現によってノモスは外部の会社に供給を頼る必要がなくなり、自社の生産能力を向上させることができた。一方、DUW 3001はノモススウィングシステムを搭載した自社製自動巻きムーブメントで、「タンジェント」「オリオン」「ラドウィッグ」「メトロ」「ミニマティック」「クラブ」といったコレクションに採用されている(新しいコレクションの「アウトバーン」「アップデート」では、キャリバーDUW 3001の派生版「DUW 6101」が使用されている)。DUW 3001は厚さわずか3.2mmで、青焼きのネジ、3/4プレート、グラスヒュッテ・ストライプ仕上げなど伝統的なドイツ時計作りの特徴を備えている。
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