どんなものにも名前があり、名前にはどれも意味や名付けられた理由がある。では、有名なあの時計のあの名前には、どんな由来があるのだろうか?そこで時計にまつわる名前の秘密を探り、その逸話とともに紹介する。
吉江正倫:写真 Photographs by Masanori Yoshie
2020年6月6日公開記事
パテック フィリップ「ノーチラス」
1976年に誕生したノーチラスのファーストモデル。船の舷窓をモチーフにした、今で言う“ラグジュアリースポーツウォッチ”の元祖のひとつ。通称「ジャンボ」。自動巻き。SS(径42mm、厚さ7.6mm)。1976年初出。120m防水(発表時)。当時の定価は2350USドル。個人蔵。
パテック フィリップの「ノーチラス」は1976年、当時の時計業界の新しい潮流となりつつあったラグジュアリーなスポーティーウォッチ(ステンレススティール製の高級腕時計)として誕生した。
「ノーチラス」は潜水艦の名前だ。
1800年代初頭にロバート・フルトンにより設計された潜水艦は、水深7~8mの水中を約6時間潜行した世界最初の実用的な潜水艦であり「ノーチラス号」と命名された。そして1870年にSF作家のジュール・ヴェルヌが発表した『海底二万里』に登場する潜水艦は、そのフルトンの潜水艦をオマージュして同じく「ノーチラス号」と名付けられた。また、1954年に建造された世界初の原子力潜水艦であり、世界で初めて北極海の横断潜行に成功したアメリカ海軍の潜水艦も「ノーチラス号」である。
「ノーチラス」=「NAUTILUS」とは、そもそもはラテン語で「オウム貝」の意味。堅牢な殻により深海の強大な水圧に耐える姿が、潜水艦の名前にピッタリだとしてしばしば用いられたのだ。
パテック フィリップの「ノーチラス」の名前は、そうした伝説的な潜水艦ノーチラス号から取られた。理由は「舷窓をモチーフにした」というジェラルド・ジェンタのデザインだ。
ケース左右に突き出させたフリンジを縦方向にビスで留め、裏蓋と一体化したケースとベゼルを頑強に固定することで薄くエレガントなケースで120mの高い防水性を実現したジェンタのデザインは、今では一ジャンルとしてすっかり定番化したラグジュアリースポーツウォッチに先駆けた時計史に残る名デザインと言える。そして、その独特のスタイルが、まるで潜水艦のハッチや窓のような力強く堅牢なイメージを想起させたことから「ノーチラス」という名前ともよくマッチしたのだ。
ところで、1953年にロレックスが「サブマリーナー」をデビューさせる際、モデル名候補のひとつが「ノーチラス」だったという説がある。もしそれが本当で、仮にロレックスが先に使ってしまっていたら、はたして「ノーチラス」はなんという名前になっていただろう?
「ノーチラス」と並ぶ潜水艦をイメージさせる名前というと「ポラリス」があるが、これは1968年にジャガー・ルクルトが使用してしまっているし……。
なぁんていう、とめどもない妄想をついついしてしまうのも、時計の名前の由来を考える楽しさなのだ。
2006年初出のノーチラスの現行モデル。初期ノーチラスの特徴である2ピース構造のケースから、現行モデルでは3ピース構造のケース(ベゼル+ミドルケース+ケースバック)に変更されている。なお、このノーチラスRef.5711/1Aは大人気につき、残念ながらなかなか購入できないのが難点である。自動巻き。SS(10時~4時方向の径40mm、厚さ8.3mm)。120m防水。325万円(税別)。
ライター、編集者。『LEON』『MADURO』などで男のライフスタイル全般について執筆。webマガジン『FORZA STYLE』にて時計連載や動画出演など多数。
Contact info: パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター Tel.03-3255-8109
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