オメガ 「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ プロフェッショナル」
今年、アポロ11号の月面着陸50周年を迎え、宇宙、そして“ムーンウォッチ”と呼ばれるオメガのスピードマスターに注目が集まるのは必然のことだ。だが、その記念すべき7月20日を前に、もうひとつビッグニュースがオメガから届いた。確かに、宇宙も極限状況には違いないが、実はもっと身近なところに、それもこの地球上に、宇宙以上に過酷な環境があるのだ。それこそ、オメガと冒険家ヴィクター・ヴェスコヴォのチームが挑戦した深海であり、見事成し遂げた世界最深潜水記録の樹立である。
ケースの防水性は25%のマージンを取っているため、1万5000mの防水性能を持つ。深海から帰還後、3本のプロトタイプはスイス連邦計量・認定局(METAS)による10日以上にわたる8つの厳格なテストをクリアし、マスター クロノメーター認定を取得。Cal.8912搭載。オメガ社長兼CEOのレイナルド・アッシェリマン曰く「このプロトタイプは製品化はしない。だが、使った技術は他のプロダクトに応用するだろう」。
Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
今回の挑戦で冒険家のヴィクター・ヴェスコヴォが自身の深海潜水艇リミティング・ファクター号でマリアナ海溝最深部に到達し、樹立した世界最深潜水記録は1万928mつまり約11㎞という偉大なものだ。このプロジェクトに協賛したオメガも、自らの挑戦は決して忘れてはいない。その主役こそ、このチャレンジのために特別に開発された3本のプロトタイプ、オメガ「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ」である。うち2本は潜水艇のロボットアームに、残りは深海での記録収集を担うランダーに装着された。結果は、3本とも問題なく世界最深部への潜水に帯同し、所定の任務を遂げた潜水艇とともに、破損することなく帰還を果たしたのだ。
そもそも、このウルトラディープ開発プロジェクトは、オメガがヴィクターと出会うことで始まった。つまり、世界の5つの海洋の最深部に潜水し、制覇するというアイデアの発案者はヴィクターであった。その中でも最も深いのがマリアナ海溝だったわけだ。この潜水プロジェクトに同行する〝時計〟の開発を担ったのは、オメガの製品開発責任者のグレゴリー・キスリング。「開発は白紙から始まりました。まったく新しいコンセプトと新しい技術を盛り込んで」。彼は言う。発想の源泉は、ヴィクターの潜水艇リミティング・ファクター号の船体だった、と。彼はスケッチから始め、そのイメージをケース本体、リュウズ、ベゼル、ダイアル、そして、マンタをかたどった独創的なラグへと落とし込んでいった。しかし、ポイントは、それらのコンセプトを生かしたデザインと、1万mを超える深海での水圧に耐える仕様とを両立させることにあった。さらに彼が留意したのが、プロトタイプとはいえ、決して厚すぎるダイバーズウォッチにはしたくなかったことだ。そこで、ケース素材には実際の船体に使用されたグレード5のチタンを船体から切り出し、その塊から切削することで、船体同様に想像を絶する水圧に耐えるボディを手に入れた。
次に彼の前に立ちはだかったのは、自身に課した厚さの問題だ。その解決策は身近なところにあった。ひとつは、潜水艇のビューポートのデザインだ。潜水艇パイロットの目となる船体のビューポートは、円錐の内側の先端部にかかる圧力が最小化されることを応用して設計されている。ウルトラディープも同じ構造を採り入れることで、風防が球体のように盛り上がるのを避けることができた。風防を薄くするためのもうひとつの技術が、オメガ自身の持つリキッドメタルの応用だ。従来は、セラミックベゼルのインデックスの象嵌に使用していた技術だが、ウルトラディープでは防水パッキンの代わりにサファイアクリスタル風防とチタンケースを、弾力性を持たせながら頑強に固定するために使用された。
(右)深海潜水艇の船体から切り出されたチタンの塊を切削してケースに加工する様子。
こうして実現したプロトタイプがウルトラディープである。深海に潜った3本すべてが無事、深海から帰還できた理由は、ヴィクターの潜水艇から得たヒントと、オメガがこれまで培ってきた技術やノウハウの総動員の成果と言える。
最後に、オメガ社長兼CEOのレイナルド・アッシェリマンの言葉で締めくくろう。曰く「ヴィクターはとてもラッキーだったよ。だって、彼はオメガに来たんだから」。実のところ、これこそが〝宇宙よりも遠い場所〟への最も〝近い切符〟だったのかもしれない。
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