2018年、ブレゲは総力を上げて「マリーン」コレクションの構築に注力することを決め、同時に世界的規模で活動するスイスの環境保全団体の支援も開始した。今回は、2018年に発表されたマリーンのコレクションを堪能したい。
Text by Roger Ruegger
創業から続く海とのつながり
海洋探検に必要だった時間計測機器の開発は、ブレゲの歴史の中で重要な役割を果たしてきた。ブレゲがパリ経度委員会のメンバーに就任した直後の1815年からその重要性は増しており、ブレゲに与えられたフランス王立海軍公認のクロノメーター製作者の称号は当時、フランス人時計師として最も名誉あるものとされた。
パリ経度委員会は、天文学分野の発展と、その地理学、航海学、測地学(地球の物理的資産として測定と理解)への応用を目的として1795年に創立され、天体暦の発行などを行っていた。非常に名誉ある機関であり、測量士、天文学者、航海士、科学者など限られたメンバーで構成された。唯一の時計師であるブレゲの参加は特に物理学者と航海士にとって有益であった。彼は時計作りの権威となり、航海における経度計測に貢献したのである。
マリンクロノメーターは海上で船の位置を特定するのに(今日のGPS同様)不可欠なものであり、一般的にマホガニーかウォールナット製の特別な箱に収められていた。ジンバルのサスペンションシステムは、船の揺れを相殺し、機器を水平に保ってクロノメーターのバランスを取っていた。
当時の特徴的な外観は、現在のマリーンコレクションの中に残されていることを見て取ることができる。なおコレクションはスポーティーラインに位置付けられて展開しており、新作では初めてチタン製ケースが採用された。ブレゲのCEO、ティエリー・エスリンガーはチタン採用の理由に関して「チタンは腐食、特に海水に対して高い耐性を持つ素材です。また東南アジアなど高湿度な気候条件にある市場を考慮しても有益であり、マリーンコレクションにとって非常に適切な素材であると考えました」と語る。
2017年にマリーンコレクションから発表された「ブレゲ マリーン エクアシオン マルシャント 5887」は、技術的な野心作だった。この時計は文字盤センターの動く(マルシャントは英語でランニングの意)針で、均時差を一目で視認させるものであった。またそのレイアウトは均時差をコントロールするカムを、トゥールビヨンやパーペチュアルカレンダーとともに鑑賞させるようになっていた。18Kローズゴールドとプラチナのふたつのケース素材で展開し、それぞれケース直径は43.9mm、防水性能は100mを備えた。
このモデルが、1990年から続くマリーンコレクションにおいて、2度目の外観的刷新と、展開強化の起点となったことを特筆する。
「マリーン “レース・フォー・ウォーター”スペシャル・エディション」
2018年にブレゲはスイスの環境保全団体、レース・フォー・ウォーター財団とのパートナーシップを発表した。ブレゲ社長、マークA.ハイエックは「19世紀、海上での船の航行に中心的な役割を果たしていたのは時間計測でした。ブレゲは、私たちの共通の未来に欠かせない重要な役割を担うオデッセイ・プロジェクトを支援することによって、その伝統を守り続けていきたい」とコメントしている。レース・フォー・ウォーター財団の保有する海洋調査船オデッセイ号は2017年から21年にかけて、2度目のミッションを遂行中だ。レース・フォー・ウォーター財団代表、マルコ・シメオーニは「新しいオデッセイ・プロジェクトは、プラスティックごみによる汚染を解決する方法が実際にあることを示して、世界に希望を与えるのが狙いです」と説明する。オデッセイ号は世界の35の寄港地を経て、科学者や政策決定者と一堂に会する機会を持ち、彼らと水資源保護のために必要な知識と技術を共有する。ブレゲはこの活動を2021年まで支援し、特別な時計も供給している。スペシャルモデル「マリーン 5517」は直径40mmのチタン製ケースで、クル・ド・パリ模様でレース・フォー・ウォーターの船艇を表したブルー文字盤を備え、自動巻きキャリバー777Aを搭載する。このモデルは船艇のクルーのみの限定だ。
「マリーン 5517」
「マリーン “レース・フォー・ウォーター”スペシャル・エディション」の関連モデルとして、ブレゲはホワイトゴールドモデル、ローズゴールドモデル、チタンモデルの3つから成る「マリーン 5517」を市場投入した。これらのモデルには、約55時間のパワーリザーブ、シリコン製脱進機とシリコン製ヒゲゼンマイのインバーテッド・インラインレバー脱進機を備える、自動巻きキャリバー777Aが搭載されている。直径40mmケースの側面にはブランドの象徴であるフルート模様が刻まれ、サファイアクリスタルバックを採用し、10気圧の防水性を備える。ホワイトゴールドモデル、ローズゴールドモデルの文字盤は波模様のギヨシェ装飾が施された。チタンモデルにはサンバースト仕上げのゴールド製スレートグレイ文字盤にゴールド製のファセットを効かせたブレゲ針が採用されている。
「マリーン クロノグラフ 5527」
創業者アブラアン-ルイ・ブレゲは時計を1810年以前に、オンデマンドでスタート・ストップできる秒針付きの時計を作り出しただけでなく、現在のスプリットセコンドクロノグラフの前身となる時計も作っていた。「マリーン クロノグラフ 5527」は、3つのサブダイアルを備えたクロノグラフでこの伝統を踏襲している。サブダイアルはそれぞれ3時位置にミニッツカウンター、6時位置にアワーカウンター、そしてス9時位置にモールセコンドという仕様だ。デイト表示は4時と5時位置の間にある。約48時間パワーリザーブを備える自動巻きキャリバー582QAにはシリコン製脱進機とシリコン製ヒゲゼンマイのインバーテッド・インラインレバー脱進機が備わっている。なお「マリーン 5517」と同様にチタンモデル、18Kローズゴールドとホワイトゴールドモデルの3つの展開が与えられた。
「マリーン アラーム ミュージカル 5547」
2018年のマリーンコレクションにはアラーム機能付きの機械式時計も発表された。アラーム機能に加え、「マリーン アラーム ミュージカル 5547」は第2時間帯表示とデイト表示も備え、航海士やジェットセッターにとって理想的な旅の友となった。
アラーム機能を起動させると、12時位置の開口部にベルが現れる。アラーム設定時間は3時位置に、第2時間帯は9時位置にあるサブダイアルに表示される。またパワーリザーブ表示も備え、完全に巻き上げた状態になると短い矢印が9時位置にある赤い表示を指し示す。6時位置はデイト表示だ。ムーブメントには約45時間のパワーリザーブを保持し、インバーテッド・インラインレバー脱進機が備わる自動巻きキャリバー519F/1を搭載。前述2モデルとは異なり、アラーム ミュージカル 5547の防水性は5気圧である。このシリーズにもチタンモデル、18Kローズゴールドとホワイトゴールドモデルの3つの展開が与えられた。
新たな海路
マリーンコレクションに対するブレゲのてこ入れは、想像以上のものがあった。240年以上の歴史を持ち、クラシックな時計に定評のあるブランドの新生マリーンは、驚くほどモダンで現代的な様相をまとっていた。特にスレートグレー文字盤のチタンモデルは顕著である。また188万円からなる価格帯も、ブレゲのようなプレミアムブランドが展開する時計を求める新しい層の人々に対して充分訴求するだろう。筆者の周囲では機械式アラームと第2時間帯表示を備えた「マリーン アラーム ミュージカル 5547」の人気が極めて高い。このモデルは使いやすい機械式コンプリケーション機能がうまく組み合わされている。そして、2017年発表の「マリーン エクアシオン マルシャント 5887」は、これからも時計業界のマスターピースであり続けるであろう。
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