1970年代から80年代にかけて勃発したクオーツショックにスイスの時計業界が打ちのめされる以前、オリスは実に幅広い自社製ムーブメントの製造を行っていた。事実、創立から1981年までの間に、ETAとその後にセリタからエボーシュを調達するという決定によって自社製ムーブメントの製造を取り辞める前までには、229もの自社製キャリバーを世に送り出しているのである。当時の精神を再び宿した時計、「ビッグクラウン プロパイロットX キャリバー115」が2019年9月に発表された。
Text by Logan R.Baker
オリス「ビッグクラウン プロパイロットX キャリバー115」
かつてのオリスのアーカイブには、初のピンレバー脱進機搭載ムーブメントであり、ヌーシャテル天文台のクロノメーター認定を取得した1968年製のキャリバー652や、70年製のブランド初のクロノグラフ、キャリバー725といった、歴史的に重要なものが含まれている。そんなオリスだが、82年以降からは、生産の効率化とコスト削減のため、スイスのサプライヤーからベースムーブメントの供給を受けて、自社製モジュールを生産することに焦点を当ててきた。
しかし元オリス従業員で現会長であるウルリッヒ・W・ヘルツォーク会長は、2004年の創立100周年を前にして、再度一からの自社製ムーブメント開発へと回帰する時であると決断したのだった。これを実現するため、オリスの時計師とデザイナーたちはスイスのル・ロックルにある職人専門学校のエコール・テクニークとチームを組み、高機能性を備えた機械式ムーブメントを搭載しながら、手の届きやすい価格帯を実現する時計のデザインと製造に着手したのである。
このプロジェクトは、リサーチと開発に10年もの月日を費やし、その成果は2014年のオリス創立110周年という節目に、キャリバー110というネーミングとなって帰結した。クオーツショック後35年ぶりとなる自社開発の手巻きキャリバーは、オリスのドレッシーライン「アートリエ コレクション」の限定エディションとしてデビューし、シングルながら非常に大きな香箱が生み出す10日間のパワーリザーブを提供したのである。バーゼルワールドでキャリバー110を発表してから5年後、オリスはこれをベースに複雑さを増した新しい機構を生み出した。
キャリバー110
キャリバー110の最新版として発表されたのが、「プロパイロットX キャリバー115」だ。これはこれまで世に出たオリスのどの時計とも異なるスケルトン加工が特徴である。オリスの現行スケルトンモデルは「アーティックスGT」コレクションに見られるが、自社製ムーブメントとしてのオープンワーク加工は、新たなチャレンジとなり約2年間の開発研究の時間を要した。文字盤と大きな香箱を備えるムーブメントからパーツを取り除くという典型的なスケルトン加工のプロセスを経ながら、外観的な魅力を保ちつつ、いかにして適切に機能させるかということに焦点が置かれた。
幸い、オリスのデザイナーと技術者たちは、オリスのパイロットウォッチに本来備わっている特徴を維持しつつ、問題を解決することができた。ビッグクラウン プロパイロットの特徴である、ジェットエンジンのタービンの羽に着想を得た刻みのあるベゼルや、オリスの自社製ムーブメント搭載の時計が備える特徴のひとつである、3時位置の非リニア式の大きなパワーリザーブ表示もそのまま残された。
先述した以外の部分については大きく変更が加えられた。注目すべきは、12時位置の香箱が最大限にスケルトン化され、主ゼンマイの巻き上げを鑑賞できるようになった点であろう。他にも驚かされる点は、ムーブメントとブリッジの仕上げ、またはあえて施されないと言える仕上げである。スイスブランドの多くは、ムーブメントやパーツの手仕上げにかける精密さと労力を誇りにしているが、オリスは不必要な装飾をあえて省き、「そのまま」の状態を打ち出しているのだ。スケルトン加工されたブリッジは、ポリッシュ仕上げの代わりにマットグレーがあしらわれ、ムーブメントには面取りが施されていない。
またキャリバー115において他にも、従来の3時位置から、7時と8時の間に配されたスモールセコンドの位置の変更がある。そしてオリスのパイロットウォッチとしては初めて、インデックスにバーインデックスが用いられた。
ケース
複数のパーツで構成されたチタン製ケースは直径44mmあり、蛇の頭を持ち上げたような形状のバックルが備わったチタン製ブレスレットは、装着感にこだわり本機専用にデザインされたケース一体型である。
また、同様のバックルが付属しているブラック・レザーストラップを購入することも可能だ。ねじ込み式リュウズもチタン製で、時計に100mの防水性能を与えている。
オリスの挑戦
77万円からという価格設定から、オリスは「ビッグクラウン プロパイロットX キャリバー115」の既存顧客への販売は厳しいと認識しているが、このモデルについて述べられたリリースの中で、前作キャリバー11xシリーズの成功を鑑み、あえて違ったことに挑戦をしてみたのだとオリスCOOのビート フィシュリは語っている。
「これらの開発を通して私たちは、オリスのポテンシャルを世界に示す高概念の作品を制作し、世に送り出す十分な準備ができていると実感しました」。
Contact info: オリスジャパン Tel.03-6260-6876