四国・高松「アイアイ イスズ」の飯間康行氏に、原点となった時計と上がり時計を聞く

安堂ミキオ:イラスト
2019年9月 掲載記事

時計の賢人たちの原点となった最初の時計、そして彼らが最後に手に入れたいと願う時計、いわゆる「上がり時計」とは一体何だろうか? 本連載では、時計業界におけるキーパーソンに取材を行い、その答えから彼らの時計人生や哲学を垣間見ていこうというものである。今回話を聞いたのは、1980年創業のアイアイ イスズホールディングス代表取締役、飯間康行氏だ。飯間氏は大学卒業後に眼鏡時計販売事業を開始し、現在までに高級腕時計50ブランド以上を取り扱う西日本屈指の時計の名店「アイアイ イスズ」を築き上げた。そんな飯間氏が挙げた原点時計はブライトリング、「上がり時計」は飯間氏の夢と理想を叶えた腕時計というカシオの金無垢G-SHOCK「G-D5000」だ。その言葉を聞いてみよう。

飯間 康行

飯間康行

アイアイ イスズホールディングス 代表取締役
 香川県高松市内で時計修理店を営んでいた両親のもとに生まれる。同志社大学経済学部卒業後に大阪府公認の眼鏡士の資格を取得し、両親の店の一角にメガネ売り場を開く。1980年24歳の頃、現・専務の福島有二氏とともに、地元スーパーの駐車場の一角のテナントにて15坪ほどの規模の「アイアイ イスズ」を創業。メガネ販売の傍ら、国産腕時計も取り扱い始める。数年後、ホイヤー(現タグ・ホイヤー)の正規販売を開始し、そこからブライトリング、カルティエ、オメガなど多数の海外ブランドへ展開を広げる。1998年、現在地に移転しアイアイ イスズ本店として業務を拡大する。現在は本店の他にも、ブライダルジュエリー専門店「アイアイ イスズ ヴィラージュ」、Gショック専門店「エッジ」を有するカジュアルウォッチ専門店「G-time店」や、国内最大級のブライトリングブティックを併設する、本店と同等規模の「イースト店」を含め全4店舗を展開する。

●「アイアイ イスズ」公式サイト/https://www.eye-eye-isuzu.co.jp/


原点時計はブライトリング「クロノマット」

Q. 最初に手にした腕時計について教えてください。

A.私にとっての最初の時計は、新品ではなくヴィンテージウォッチのブライトリング「クロノマットⅡ」(編注:「クロノマットⅡ」はクロノマットのセカンドモデルを指す愛称)です。学生時代にロンドンの蚤の市で手に入れました。当時はブライトリングの名前を知っている程度でしたが、かっこいい見た目に引かれて購入しました。これがきっかけでブライトリングに興味を持ち、ブライトリング中興の祖アーネスト・シュナイダー氏時代の新生ブライトリングから、アイアイ イスズで取り扱いを開始することにつながりました。なおこのクロノマットの後、ナビタイマーとコスモノートもヴィンテージで購入しました。いずれもヴィーナス製ムーブメントを搭載しています。

 なお、新品で初めて購入した海外ブランドの腕時計は、ホイヤー(現タグ・ホイヤー)製「1000シリーズ」のブラックPVD加工レディスダイバーズウオッチです。購入当時は高松でウインドサーフィンに明け暮れており、ウィンドサーフィン中は大きな時計が邪魔になるため、あえてレディスモデルを着けていました。なお当時はまだホイヤーの名が日本であまり知られておらず、周りのサーフィン仲間は国産のダイバーズウォッチをしていました。この時計に愛着を深めたことがアイアイ イスズで最初にタグ・ホイヤーを取り扱ったことに結び付いていきます。しかし残念ながらこの新品第1号の腕時計は、台風の時に海に出たときに、瀬戸内海の藻屑となりました。  

飯間康行氏の原点時計は、学生時代にロンドンの蚤の市で購入したブライトリング「クロノマット」のセカンドモデル。1950〜60年代頃に作られたもの。手巻き(ヴィーナスCal.175)。17石。1万8800振動/時。SS(直径37mm)。


「上がり」時計は、自身の理想形を叶えた腕時計

Q. いつしか手にしたいと願う憧れの時計、いわゆる「上がり時計」について教えてください。

A.実はかれこれ1カ月ほど悩んでいますが、まだこの答えを見つけられていません。これまでも欲しいと思った腕時計は、買うことのできる現実的な価格の物はその時々で集めてきたました。しかしブレゲ、A.ランゲ&ゾーネ、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ ピゲなどが作るコンプリケーションウォッチは、欲しいと思っても現実的にはなかなか買うことができないものでしょうし、「上がり時計」というからには手に入れるということが前提だと思うからです。

 そこで、しいて挙げるならば、自身の理想形と欲求を叶えた腕時計でしょうか。それであれば、今年2019年5月に製品化された、カシオの金無垢のG-SHOCKがそれにいちばん近い存在になるでしょうか。「G-time店」で展開するG-SHOCK専門店「エッジ」は現在国内に7店舗ありますが、これは十数年前、私とカシオのマーケティングチームの方たちとでG-SHOCKを高級機械式腕時計と同列に扱い販売するためにはどうしたら良いかと考えた戦略店舗です。エッジの開店当初、G-SHOCKの生みの親である伊部菊雄さんと話をする機会があり、その際に伊部さんに5600の初期モデルで金無垢G-SHOCKの商品化を希望したことがあります。それは、日本が生んだアイコニックなデジタル腕時計にシンボリックな製品が欲しいという思いがあったからです。伊部さんはそのことを覚えておられ、金無垢G-SHOCKが完成したという連絡をくださいました。もちろんすぐに注文しましたよ。年内には手元に届く予定ですから、今は首を長くして待っているところです。1000Gに耐えるという難題も乗り越えて商品化された伊部さんをはじめカシオ製品開発チームには頭が下がります。色々な意味で素晴らしい経験をさせていただきました。これをもって私の「上がり時計」とさせていただきます。

飯間康行氏にとって念願だった、18Kゴールドケースとブレスレットから成る金無垢G-SHOCK。G-SHOCK誕生35周年を記念して作られた。世界限定35本。完売。


あとがき

 2019年9月20日、アイアイ イスズに「イースト店」が誕生した。その新店は女性向けの店舗になっており、シャネルやハリー・ウィンストンの華やかなショーケースが並ぶ奥には、城の中を思わせるような白く立派な階段が2階へと続き、女性の心をときめかす。飯間氏は新店に限らずこれまでの店作りにおいて「時計店のディズニーランドのような場所を作りたいという意識を大切にしてきた」と話す。入店した瞬間の感動や、居心地の良さ、そしてすぐ再訪したくなるような楽しさ。飯間社長は常に、自分たちをどう見せるか以上に、顧客の感情を重視してきたのだろう。


高井智世