“ダイヤモンドの輝き”という言葉は、世の女性たちにとって実に魅惑的に響く。自然の産物であるダイヤモンドは人の手によって幻想を与えられ、いつしか最高峰の宝石と呼ばれるようになった。内に秘められた美しさを極限まで引き出そうとする職人たちの努力はやむことなく、現在の時計業界において、ダイヤモンドウォッチは男性をも魅了するようになった。男女を問わず、すべての人の心を奪う、奥深きダイヤモンドウォッチの世界を紹介する。

竹浦康郎(AUOS)、佐田美津也:写真
Photographs by Yasuo Takeura (AUOS), Mitsuya T-Max Sada
野上亜紀:取材・文
Text by Aki Nogami
[クロノス日本版 2017年3月号初出]

女もすなるダイヤモンドウォッチといふものを男もしてみむ

 その光り輝くイメージ故か、なかなかダイヤモンドを手に取りにくいという男性も多いだろう。しかし、“ダイヤモンドウォッチ”を職人たちによるクリエイションの表徴と捉えた時、女性と男性の垣根を越えた、実に興味深い新局面を発見できるのではないだろうか。ジュエラーによる時計業界への参入とウォッチメーカーによる宝飾技術の強化が、これまでとは異なる新次元のダイヤモンドウォッチを生む。

HW オーシャン・トリレトロ クロノグラフ

ハリー・ウィンストン 「HW オーシャン・トリレトロ クロノグラフ」
レトログラード表示を組み合わせたクロノグラフ。ハリー・ウィンストンのほかのダイヤモンドウォッチ同様に高品質のVVS+クラスのダイヤモンドを使用(合計約6.65ct)。手裏剣モチーフのスモールセコンドがマザー・オブ・パール文字盤にアクセントを与える。自動巻き(Cal.HW1033)。49石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KWG(直径44mm)。10気圧防水。1055万円。

 ダイヤモンドが初めて登場した文献とされるのが、古代ローマの学者、プリニウスによる「博物誌」である。その中において、ダイヤモンドはその語源でもあるギリシャ語の「強きもの」と呼ばれ、他の素材を削るための硬い特性が珍重されてきた。そんなイメージから、身を守るタリスマン的な扱いを受けてきたダイヤモンドだが、14世紀後半以降、研磨師によるカッティング技術の進化により、テーブルカットやローズカット、18世紀にはラウンドブリリアントカットが与えられ、輝きをたたえた装身具としての宝飾品の様相を強めていく。

 かつてはほぼ無研磨に近い、輝きのない正八面体のフォルムが価値を持った宝石が、カッティングの進化とともに〝ジュエリー〞としての表現方法を高めていったように、宝飾技術が成熟の域に達した現在、男性の矜持を象徴する道具であり、また数少ない装飾品でもある腕時計で新たな表現を目指すのは実に自然な流れと言える。女性用の本格的な腕時計の台頭と男性用の宝飾時計の多様化――それらを誘引した要因のひとつが、ジュエラーによる時計業界への進出である。

 ジュエラーの意匠にウォッチメーカーのムーブメントを搭載するというコラボレーションはかねてから存在したが、両者がより緊密になり、ジュエリーウォッチとしてだけでなく、時計としても魅力的なクリエイションが実現されているのが最近の傾向と言うことができるだろう。中でも記憶に新しいのが、2013年に話題となった〝キング・オブ・ダイヤモンド〞と称されるダイヤモンドジュエラー、ハリー・ウィンストンのスウォッチグループへの参入だ。ブランパンとの共同開発ムーブメントを搭載することで一流の専業ウォッチメーカーに比肩する耐久性と高精度を追求するなど、これまでのジュエラーが歩んできた単なるコラボレーションから一歩踏み込んだ意気込みを感じさせる。高品質のVVS+クラスのダイヤモンドを使用することはもちろん、2013年以降のモデルではシリコン製ヒゲゼンマイを採用したムーブメントを搭載するなど、従来のハリー・ウィンストンからさらに進化した実力を発揮している。

HW オーシャン・クロノグラフ オートマティック 44mm

ハリー・ウィンストン 「HW オーシャン・クロノグラフ オートマティック 44mm」
3万6000 振動/時の高振動ムーブメントを搭載し、ザリウムケース仕様で2015年に発表された「プロジェクトZ9」のケース素材を18Kローズゴールドに変更し、ベゼルとラグにバゲットダイヤモンドを配した世界限定20本のモデル(合計約6.31ct)。フライバッククロノグラフ機能搭載。自動巻き(Cal.HW3304)。37石。パワーリザーブ約50時間。18KRG(直径44mm)。10気圧防水。1479万6000円。

「ダイヤモンドジュエラーとしてのハリー・ウィンストンの歴史を決して壊すことのないウォッチメイキングを目指す」とハリー・ウィンストンCEO兼スウォッチ グループ会長のナイラ・ハイエック氏が語ったように、宝石とムーブメント、つまりはジュエラーの感性とウォッチメーカーの技術力が単なる足し算ではなく、極めて掛け算的な相乗効果を見せている点が、昨今のジュエラーによる時計製作の方法論と言うことができる。

 こうした新しい試みが目を引く一方で、老舗ウォッチメーカーが自社内においてダイヤモンドセッティングを強化しているという傾向も見逃せない。宝石に光を取り込むジュエリーとは異なり、時計のセッティングにおいてはムーブメントを守りつつ、いかに限られた空間でダイヤモンドを輝かせるかという制限が課題となる。専門のセッターを抱えて技術を高めようとするその姿は、ダイヤモンドという表現手法が現在、時計業界において見直され、向き合うべき大きなテーマと考えられていることを物語る何よりの証左だろう。ウォッチメーカーとジュエラーという垣根を越えた技巧が求められている今、ダイヤモンドウォッチは新たな展開を迎えているのだ。

Contact info: ハリー・ウィンストン クライアントインフォメーション TEL:0120-346-376