オールブラックの次に来るのはオレンジ?
WatchTimeが2019年のバーゼルワールド終了後に見解を示したように、今年の時計業界は「新しい機構開発よりも、新しいカラーの年」であったように思う。ブルー、グリーン、ブラウンなどさまざまなカラーがここ数年話題に上り、それぞれがコレクターたちの手首を飾るトレンドを築き上げてきた。そして静かに熱を帯びていたカラーがある、それがオレンジだ。
オレンジは非常に目立つカラーであるがゆえに、ウォータースポーツ関連の腕時計に多く採用されてきた。鮮やかな海のブルーが美しい世界の中では、真っ青な腕時計よりも明るいカラーが好まれる面もあるのだ。そして、だんだんとオレンジを日常使いできる時計の領域に採用するブランドが増えてきているのである。今回は、2019年に発表されたオレンジモデルの中でも、特に筆者お気に入りの時計を紹介することでカラーの広がりを見ていきたい。選りすぐりのオレンジモデルを、前後編に分けてご紹介する。
Text by Logan R. Baker
グラスヒュッテ・オリジナル
「シックスティーズ・パノラマデイト・アニュアル・エディション」
2018年以来、グラスヒュッテ・オリジナルはグリーンモデルを皮切りに、1960年代のGUBウォッチを彷彿とさせる復刻版のカラーバリエーション増に力を入れている。2019年は焼け付くように鮮やかなオレンジカラーの新作発表となった。文字盤は中央の明るいイエローから、外周へかけて黒味を帯び、ダークオレンジへと変化する。これは、ドイツのフォルツハイムにある自社の文字盤製作工房で研究を重ねた成果である。まず文字盤はガルバニック処理のための溶液に浸され、ゴールドのようなイエローの色調となる。次に、職人の手でオレンジとブラックラッカーを階層ごとに施すことによって、外周部の濃い色合いが出てくるとともに濃淡の変化が表れてくる。この工程の後、最終的なカラーに仕上げるために炉に入れて焼成され、それぞれの時計が唯一無二の個性を持つのである。立体的な質感は、60トンの圧力によってプレスされることによって生まれる、浅いレリーフ模様からなる。文字盤の制作方法以外は昨年のグリーンモデルとほぼ同じ仕様だ。3時・6時・9時・12時に採用されたアラビア数字、それ以外のアワーマーカーは文字盤に埋め込まれたジャーマンシルバーのプレートをベースにしたダイアモンドカットのインデックスである。サイズ展開は、直径39mmと厚さ9.4mm、もしくは直径42mmと厚さ12.4mmのふたつがあり、時刻表示だけのモデルにはキャリバー39-52が、写真のパノラマデイトモデルにはキャリバー39-47が搭載されている。ケースはポリッシュ仕上げのステンレススティール製で、ブラウンのルイジアナアリゲーターのレザーストラップにステンレススティール製尾錠が付属している。グリーンモデルの成功を鑑み、グラスヒュッテ・オリジナルにとっては、毎年新色を出すことが意味のあることとなったのであろう。
ベル&ロス
「BR 03-92 MA-1」
2019年、ベル&ロスはアメリカ空軍の1958年製のフライトジャケット、MA-1に着想を得たカラーリングの新作を発表した。コックピット機器を想起させるアイコニックなスクエアウォッチの文字盤には、視認性の高いアラビア数字インデックスを採用してよりパイロットウォッチらしく仕上げ、MA-1「ボンバー」に捧げる理想的な舞台とした。ボンバーとはパラシュートに使用されるナイロン素材のことで、カーキとオレンジのリバーシブル式である。50年代の軍用装備に使われて以来、70年代に流行したスタイリッシュなファッションへ取り込まれるまでに発展した。直径42mmのケースはダークカーキカラーのセラミックス製だ。同じくカーキカラーの文字盤は、地板上に2枚のメタルプレートが重なるサンドイッチのような構造となっており、下のプレートはオレンジのスーパールミノバで仕上げられ、ステンシル仕上げと型抜きがされた上の地板の開口部を通してのぞくようになっている。オレンジは軍事・航空関係と縁の深いカラーであり、カーキとオレンジは、MA-1ジャケットに直結する組み合わせである。ストラップはカーフスキンのレザーストラップで、手首にガンメタルカラーのPVD加工を施した尾錠で留める仕様だ。ジャケット同様、ストラップの仕上げもダークカーキとオレンジカラーのリバーシブル仕様となっている。遭難したパイロットにとってオレンジを表にすることは、捜索救援隊に対するビーコンとなるのだ。時計を着用する者にとっては2色を使い分けて楽しむファッション要素となった。搭載されるムーブメントには、ロングセラーのセリタSW300-1をベースにした自動巻きBR-CAL.302を搭載している。
ブライトリング
「ナビタイマー B01 クロノグラフ 43 TWAエディション」
クロノグラフ機構と回転計算尺を備えたブライトリングのナビタイマーは、1952年に発表されて以来、70年代初期にかけて黄金期を築いた商業航空のパイロットたちに高く支持されてきた。2019年にブライトリングは、旅客航空事業の黎明期に大きく貢献した航空会社を記念して、ナビタイマーの「カプセルコレクション」を発表した。これは歴史的な3つの航空会社、スイスエア、パンナム、TWAをフィーチャーしたものだ。デザインはブライトリングのナビタイマー B01 クロノグラフ 43を再解釈し、直径43mmのステンレススティール製ケースと、両方向回転式のインナーベゼルを備える。この回転計算尺付きのベゼルは、50年代のパイロットたちがフライトタイムを計測するために開発されたもので、当時は手首に乗せるコンピューターのような役割を担った。ムーブメントはブライトリングの自社製キャリバー01が搭載され、コラムホイール機構搭載の4分の1秒まで計測可能なクロノグラフ、約70時間の長いパワーリザーブ、C.O.S.C.認定取得の高い精度を備える。ナビタイマーの特徴である横3つ目のサブダイアルを備えた文字盤には4時30分位置にデイト表示が配され、サファイアクリスタル製ケースバックにはそれぞれの航空会社のロゴが配されている。トランス・ワールド航空はTWAとして知られ、最近ではニューヨークのJFK空港隣に作られたTWAホテルでその復興を遂げている。この航空会社が消滅したという事実は微塵も影を落とさず、シルバーカラー仕上げの文字盤やアンスラサイトのサブダイアル、針とインナーベゼルに使われたオレンジがその面影を留めている。
ブライトリング
「コックピット B50 オービター リミテッド エディション」
ブライトリングは人目を引くデザイン力に長けている。2019年のブライトリングは、先述したエアラインエディションの他に、熱気球による初の無着陸世界一周飛行を成し遂げた「ブライトリング オービター 3」の20周年記念モデルを発表した。これはアナログとデジタル両表示を行う、自社開発のクオーツムーブメント搭載モデルだ。長い間ブライトリングはハイエンド・クオーツムーブメントの供給をETAから受けてきた。しかし現在では、温度補正機能を搭載し、年差±10秒を実現してC.O.S.C.認定と特許を取得した「スーパークォーツ™」を作り上げるまでに。これにより2014年の「コックピット B50」初出モデル以来、ブライトリングは高精度クオーツモデル製造に着手している。本モデルのオレンジ文字盤はオービター 3のカラーに由来し、ブラックチタンケースと絶妙なコントラストを成している。ケースバックには、オービター 3のイラストが”FIRST NON-STOP FLIGHT AROUND THE WORLD-20th ANNIVERSARY-ETANCHE 100M”(初の無着陸世界一周20周年-100m防水)の文字に取り囲まれ、エディションナンバー(1 OF 213)とともにプリントされている。機能面ではスプリットタイム機能とフライバック機構を備えたクロノグラフ、セカンドタイムゾーン表示、永久カレンダー、ブザー/バイブレーションモード付きのアラーム2種、ラップタイマー、音を使ったカウントダウン機能のほか、デジタルタキメーター、カウントダウン/カウントアップ・クロック、そしてテイクオフからランディングまでの時間を時刻とともに記憶して飛行時間を記録するクロノフライト機能も搭載されている。
(続く)