オールブラックの次に来るのはオレンジ?
WatchTimeが2019年のバーゼルワールド終了後に見解を示したように、今年の時計業界は「新しい機構開発よりも、新しいカラーの年」であったように思う。その中で静かに熱を帯びていたカラーが、オレンジだ。ウォータースポーツ関連の腕時計に多く採用されてきたオレンジを、日常使いできる時計の領域に採用するブランドが増えてきているのである。今回は、2019年に発表されたオレンジモデルの中でも、特に筆者お気に入りの時計を紹介することでカラーの広がりを見ていきたい。前編に続き、後編をご紹介する。
●「オールブラックの次に来るのはオレンジモデル?(前編)」を見る
Text by Logan R. Baker
ゼニス
「デファイ クラシック スウィズ・ビーツ」
ゼニスと、ヒップホップ・アーティストでありレコードプロデューサーでもあるスウィズ・ビーツとのコラボレーションとして、2019年のSIHHで披露されたのが、明るいオレンジがアクセントとなったデファイ クラシックのリミテッドエディションだ。スウィズ・ビーツのグラミー賞受賞を記念して発表されたモデルである。著名人とのコラボレーションウォッチは、時計としての出来栄えは後回しにされがちな気がして筆者はあまり好きになれないのだが、今回に関しては別だ。両者とも自分のロゴマークの露出は控えめにし、デザインの力で時計に自分自身を語らせていることに好感を持てる。スタンダードなゼニスのデファイはシンプルで、時刻とデイトのみを表示する。ゼニスの旗艦モデルであるエル・プリメロ クロノグラフの兄弟分であり、直径41mmのセラミックスケースを採用している。今回のスペシャルバージョンの文字盤にはゼニスを表す5つの先端を持つ星がオープンワークで施され、周囲を取り囲むミニッツトラックや秒針、ラバーストラップはオレンジでまとめられている。搭載されるムーブメントは自動巻きキャリバーのエリート670 SKで、エル・プリメロの弟分といった位置付けだ。1994年にデビューしたエリートの第1世代は、187パーツ、27石、シリコン製ガンギとアンクルで構成される。振動数はエル・プリメロが毎時3万6000回であるのに対し、毎時2万8800回だ。日本ではブティック限定モデルとして発売されている。
リシャール・ミル
「RM 16-01 オートマティック シトロン」
リシャール・ミルの作品は、どんな人混みの中でも必ず見る人の目を引くものだろう。そのアヴァンギャルドなスタイリング、ふんだんなカラー使い、洗練された技術の採用、このブランドが時計業界において現代の地位まで発展を遂げたという事実を認めるのは、難しいことではない。2019年のSIHHで発表されたリシャール・ミル ボンボンコレクションは、スイーツとフルーツにスポットをあてた時計だ。10モデルからなるラインナップは子供のころ目にしたようなキャンディのモチーフをあしらっている。今回のコレクションは3つの既存モデルに変更が加えられたものだ。リシャール・ミルの共同創業者ドミニク・ゲナの娘であるセシル・ゲナは今回のコレクションにアーティスティック・ディレクターとして加わり、それぞれのモデルに「生きる喜び」を吹き込むことに注力した。10のモデルはスイーツ・ライン(4モデル)かフルーツ・ライン(6モデル)に振り分けられる。フルーツラインの方はすべて、ラファエル・ナダルのRM 27-03などに見られるカーボンTPT®かクオーツTPT®という積層状の素材が使用され、スイーツ・ラインの方はセラミックスケースを採用している。 どのモデルも個性たっぷりだ。モデルによってはフルーツやキャンディが文字盤上を大きく飾り、リュウズなどがカップケーキやジェラートの形をしているものもある。ゲナと彼女のチームは、RM 68-01を開発する際にストリートアーティスト、シリル・コンゴから得た技術を活かしたという。一見すると気まぐれな印象を受けるアプローチの価値は、時間とともにじわりと手ごたえを感じさせる力を持つものだ。
クロノスイス
「フライング・グランドレギュレータースケルトン限定モデル」
クロノスイスといえばレギュレーターウォッチ、その個性を際立たせるためにブランドは鮮やかなカラーをしばしば採用している。2019年も例外なくそのルールは適用され、斬新で衝撃的なカラーリングのモデルをいくつか発表した。その中のひとつが「フライング・グランドレギュレータースケルトン限定モデル」だ。ベイビーブルーがアクセントとなったインダイアルと、アプリコットオレンジの針を採用している。サテンとポリッシュ仕上げが組み合わされた直径44mmのステンレススティール製ケースは21パーツによって構成され、クロノスイスの象徴であるコインエッジが刻まれたケースサイドと、クラシカルなオニオンシェイプのリュウズによって独特な佇まいだ。ガルバニックシルバーカラーで仕上げられた文字盤のベース部分からはのぞくのは、地板やブリッジ、歯車に入念なスケルトン加工が施された手巻きキャリバーC.677Sだ。文字盤側では漏斗状の時分表示用サブダイアルが数層に重なり、オレンジカラーの針がそれぞれのダイアル上をすべり時・分・秒を表示する。
マイスタージンガー「メトリス エディション」
この記事のテーマであるオレンジからは少し逸脱するが、筆者の気に入りの1本を紹介したい。マイスタージンガーは2019年のバーゼルワールドで、メトリスコレクションからイエローモデルを発表した。オレンジよりもさらに目立って明るいこのカラーは、メトリス・コレクションの個性とよくなじんでいる。マイスタージンガーの他のモデルがドレッシーなデザインであるのに対し、メトリスコレクションはカジュアルラインとして、防水性を持たせてラフに扱えるモデルとして確立してきたからだ。ケースはブラックを基調としたDLCコーティング加工のステンレススティール製である。直径38mmのケースは、丸みを帯びたベゼルと湾曲したラグ、3時位置にあるプロテクター付きのリュウズが合わせられている。他のメトリス・コレクション同様、6時位置にはデイト表示を強調させるサイクロプスウィンドウが備わる。搭載されるムーブメントはETA2824-2またはセリタSW200-1で、どちらのパワーリザーブも約38時間を保持している。残念ながら日本には未入荷で、現在欧米を中心に展開しているモデルだ。