本来、時計は水に弱いため、水場で利用する場合には防水性能が必要不可欠となる。今回は、防水性能の中でも「10気圧防水」を紹介しよう。10気圧防水という言葉の意味や、その性能を備えた時計の種類について解説していく。
防水性能の基礎知識
腕時計を購入する際、店員から防水性能について説明を受けなかっただろうか。もし聞き逃していたとしたら、自身の腕時計の防水性能について、ぜひ調べてほしい。
腕時計を日常的に使う中で、防水性能は重要なことだからだ。ではなぜ、防水性能が腕時計にとって重要なのだろうか? その理由をこれから解説していく。
防水の重要性
腕時計は精密機械である。ムーブメントは小さなパーツが精緻に組み上げられ、正確に時を刻んでいる。この内部機構に水が入ってしまうトラブルは避けたいところだ。
まず、水分が蒸発すると風防内部が曇り、針や文字盤が水分によって腐食する。最大の問題は内部のムーブメントに使われている金属にさびが生じること。放置すれば、やがて機能面に影響を及ぼすことになる。時計として機能しなくなったり、時間を正確に測れなくなったりしてしまう。
このような状態になるのを防ぐためにも、腕時計内部への浸水を避けねばならない。すなわち、防水性能は非常に重要なのだ。
防水性能の表現の仕方
防水性能は英語で「WATER RESISTANT」と表記され、「W.R.」と略記されることもある。
防水性能は、日本ではJIS(Japanese Industrial Standard)、国際的にはISO(International Organization for Standardization)のふたつの規格によって定められている。ただし、このふたつの規格の基準自体に大きな差はない。
JISでは、日常生活用の防水表示は「bar(気圧)」で表示、潜水用の場合は「m(メートル)」表示をすることになっている。たとえばJISの定義では10bar/100m、もしくは100mと表記されていれば、水深100mまでの耐圧性と水中使用に耐えうる性能を備えていることになる。また、10barのみであれば日常生活用強化防水時計(JIS 2種防水時計)となり、使用は水上スポーツや素潜りレベルとされる。
また、単に「WATER RESISTANT」(あるいはW.R.)と書かれている場合は、生活防水・汗・雨などの日常の水滴レベルに耐えられる防水性能という意味で、非防水(表示なし)は防水性能を備えていないという意味だ。
10気圧防水とは
前提となる知識を得たところで、ここから本題である「10気圧防水」について詳しく見ていこう。気圧防水の意味や、性能について解説する。
気圧防水の意味
前項で解説したとおり、防水性能の表現には一般用の「bar」と潜水用「m」があり、気圧防水は主に一般用の防水性能を表示する上で使用する。
「WATER RESIST」と表記された場合は、おおむね2~3気圧防水のことを指す。いわゆる汗や洗顔、雨に濡れる程度には耐えられるが、水仕事や水上スポーツ、素潜り、潜水などには使えない。5気圧であれば水に触れる機会が多い職業(漁業、農業、飲食関係など)や水上スポーツにも適応する仕様といえる。ただし時計に直接、勢いのある水をかけることは避けよう。20気圧防水になれば、水上スポーツや素潜りで利用する場合などに対応する数値となる。
このように、気圧防水の数字の大きさによって、時計が使えるシーンが変わってくることを覚えておきたい。
10気圧防水と100m防水の違い
地球上では水深10mにつき、1気圧がかかる。そのため、10気圧防水と100m防水はイコールに思えるかもしれないが、実は異なるものだということは覚えておこう。
時計には、一般用と潜水用の2種類があることは説明した通りだ。このふたつは、品質規格と試験項目が違う。一般用よりも潜水用の方がチェック項目がはるかに多い。
そのため、潜水用の100m防水と一般用の10気圧防水では、性能が大きく異なるのである。一般用の腕時計は潜水用として使用することができないのだ。
知っておきたい、防水時計の適切な取り扱い方法
いくら防水性のある腕時計といえど、内部に水が入ればその機能を損なう。防水性への過信は禁物だ。防水時計の、適切な取り扱いを心掛けよう。
水分が付着した状態での操作は厳禁
手や時計に水分が付着したまま、リュウズやプッシュボタンの操作をするのは厳禁だ。リュウズやプッシュボタンはムーブメントに直接つながっている構造を持ち、ボタン操作の際、パーツを伝って時計の内部に水が入ってしまうことがあるからだ。外側がいくら防水性能を備えていたとしても、内部に水が入り込んでしまえば、ムーブメントの部品は錆びてしまう。
また、海水も放っておくと不具合の原因になる。海で使った後は真水で海水を落としておこう。いずれにせよ、水が付着した後は、必ず水分を拭き取ってから操作を行うようにしたい。
10気圧防水でも海や水泳は注意
10気圧防水はプールや海での着用に問題がないように思えるかもしれないが、実際に使用すると壊れてしまうことがある。
その理由は、水泳や飛び込みなどの激しい動きによって、瞬間的に耐水性能を上回ってしまうことがあるからだ。水場での不必要な時計の装着は控えた方が良いだろう。
また、海水は特に金属を錆びつかせやすいので、接着面などの劣化を引き起こしやすい。海水に浸かった場合、くり返すが、真水で洗ってから拭き取ることが大切だ。
防水時計の種類とその用途の範囲
※一部スマホでは画面を横にしていただけますと、全て表示できます。
JIS規格 | 2種 潜水時計 |
1種 潜水時計 |
2種 防水時計 |
1種 防水時計 |
- | ||
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名称 | 飽和潜水用 防水 |
空気潜水用 防水 |
日常生活用 強化防水 |
日常生活用 防水 |
非防水 | ||
仕様(例) | 1,000m 600m 300m |
200m 150m 100m |
20気圧 10気圧 |
5気圧 | 2気圧以上 | ||
時計の表示 裏蓋や文字板等 |
HE-GAS DIVER'S ***m |
AIR DIVER'S ***m |
WATER RESISTANT **BAR |
WATER RESISTANT 5 BAR |
WATER RESISTANT |
(なし) | |
使用例 | 洗顔や雨でぬれる | ||||||
水仕事、水泳、 マリンスポーツ等 |
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スキンダイビング 空気ボンベを使用しない潜水 |
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スクーバダイビング 空気ボンベを使用する潜水 |
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飽和潜水ヘリウムガス等の不活性ガスを使用する潜水 |
お風呂などお湯もNG
腕時計にはムーブメントに水が入らないよう、風防とケースの間、裏蓋とケースの間などにパッキンというゴム製のパーツが使われている。
このパーツは熱に弱いため、お湯をかけることで変形してしまうことがある。そうなるとパッキンが意味をなさなくなり、ムーブメントに水が入り込んでしまうことがあるのだ。
また、温泉などに含まれている成分が、パッキンのみならず、ケース素材等を傷めることもある。ベゼルの隙間で成分が固着することも起こりうるので、腕時計を着けて温泉に入ることは避けよう。
加えて、蛇口から勢いよく出る水やシャワーの水圧は意外と強いもの。そのため腕時計の耐水性能を超えてしまうことがある。お湯との接触、蛇口やシャワーの水で直接洗う行為は避けるべきだろう。
電池交換やオーバーホールの注意点
電池交換やオーバーホール(時計を分解・洗浄した上で消耗したパーツの交換を行う作業のこと)を行う場合、できれば安価で済ませたいと思うもの。そのため、料金の安い業者に依頼したり、自分で電池交換したりする人がいるが、こういったケースでは注意が必要だ。
自力の電池交換をした際、きちんとパーツをはめ込めなかったために防水性が低下してしまうことは十分にありうる。また、料金の安い業者にオーバーホールを頼んだ結果、純正の部品ではなく、別の安い部品に交換されてしまうこともある。
安い部品に交換された場合は、時計の防水性やパーツの耐久性が劣るのはもちろんのこと、時計自体が本物と鑑定されなくなってしまうことも起こりえる。費用を抑えようと、安易な気持ちで料金の安い業者に依頼するのは避けるべきだ。