腕時計の製品情報に、「サファイアクリスタル」あるいは「サファイアガラス」使用と記載されていることがある。これはいったいどんな素材を指しているものなのだろうか。ここでは時計を中心に、サファイアガラス(正式にはサファイアクリスタル)の用途や特徴について紹介しよう。
サファイアガラスとは
サファイアガラスは人工サファイアの一種である。宝石のサファイアと同じ組成ではあるが、人工とあるように、天然宝石ではない。
サファイアガラスはどのようにして作られ、またどのような特性を持つのかを紹介しよう。
人工サファイアから作られる高硬度素材
サファイアガラスとは高純度のアルミナ(酸化アルミニウム)を人工的に大きな結晶にしたのもだ。その製造は、純度がほぼ100%のアルミナ粉末と微量の酸化鉄を2000℃以上の高温で熱して溶融させ、その液滴が単結晶を形成していく。
この単結晶が人工サファイアであり、サファイアガラスとなる。
人工サファイアの製法には他にもキロプロス製法、CZ法、EFG法などがある。
ガラスは液体を過冷却し、その粘度かつ個体と同程度になったもので、これを非晶質状態という。一方、サファイアガラスは単結晶の物質で、その構造は違うのだが、便宜上"ガラス"という単語を使っている。時計においては、素材の名として「サファイアクリスタル」、風防に使われるならサファイアガラスと使い分けるケースが多い。
高純度のサファイアクリスタルは非常に優れた素材だ。傷が付きにくくて壊れにくい。また耐熱温度は2,000℃と非常に高く、腐食しにくい上に、光透過性が高いといった特性を持つ。
スマホに使用されるゴリラガラスより硬い
硬いガラス素材としてゴリラガラスが挙げられる。これは、スマホやタブレットに広く用いられる強化ガラスの一種である。製法イオン交換法を用いてプラスチックの数十倍といわれる表面強度を実現している。ニューヨーク州コーニング市に拠点を置くコーニング社が製造している。
ナトリウム(Na)イオンを含有したガラス素材をカリウム(K)イオン溶液に浸すと、大きなNaイオンに小さなKイオンが入れ替わり、さらにKイオンが隙間を充填していく。このイオンの層が容易に破壊できない強度を生む。
サファイアガラスは、硬さを示す基準の「モース硬度」が9であり、これを傷付けられるのはモース硬度10のダイヤモンドである。一方でゴリラガラスのモース硬度は5であり、砂埃の中にも存在するモース硬度7の石英で簡単に傷付いてしまう。
使用製品の価格は高くなる傾向
コスト面でいえば、サファイアガラスはゴリラガラスの5〜10倍である。これは、燃焼反応のエネルギーと結晶成長の時間を要するベルヌーイ法の弱点だ。
これに加え、人工的につくられた棒状の結晶体(ブルー)であるサファイアクリスタルを加工する必要がある。ただし素材の特徴である強度と硬度のため、切削やポリッシュが非常に難しい。
レーザー切削設備でブールから削り出し、その後ダイヤモンド入り研磨機でポリッシュ、といった工程が必要になるため、製造コストに比例して製品価格も高くなるのだ。
時計用素材としてのサファイアガラス
サファイアガラスの特徴を踏まえた上で、時計での使用例を見ていこう。腕時計の文字盤を守る透明な素材のパーツは「風防」もしくは「風防ガラス」と呼ばれる。現在では、ミドルレンジ以上の多くのモデルに風防として採用されている一般的な素材だ。
硬さを生かして風防に使用される
1970年代までは、風防の素材はプラスチックが一般的であった。ただ、プラスチックは安価で形成もしやすく、また割れにくいという利点の一方で、傷付きやすく腐食しやすいという欠点がある。
そのため70年代、一部メーカーでミネラルガラスが使われた。これは、いわゆる一般的なガラスでモース硬度は3〜6。プラスチックよりは傷付きにくい反面、衝撃に弱いことから、高級時計への採用は積極的に行われなかった。向かない素材であった。
そして、1980年代には、傷付きにくく壊れにくいサファイアガラスが使われ始める。
現代では、一般的に高級時計にはサファイアガラス、カジュアル時計にはミネラルガラスという使い分けがされている。
無反射コーティングや形状加工が施される
サファイアガラスには、文字盤の視認性を高めるために、無反射コーティング加工が施されることがある。内側だけ、もしくは両面に加工するかの違いがあり、両面無反射コーティングになると、ほとんど光の影響を受けず、クリアな視界が確保できる。
ただし、両面加工の場合は外側のコーティングが剥がれてしまう場合があるため、劣化を気にするなら片面加工を選ぶのが無難だ。
また、サファイアガラスをドーム状に加工したモデルも多い。これには、平面仕上げより5〜10倍のコストがかかるが、プラスチック風防時代のクラシックな風合いを出すためによく用いられる手法だ。
加工技術の工場により、一部モデルでは文字盤の立体装飾に触れないようにするため、内側のみをドーム状にしたり、ケースやベゼルにサファイアクリスタルを採用するなど、その使用は風防にとどまらない。
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