筆記具メーカーとしてその歴史をスタートさせたモンブラン。現在は他の分野でも幅広く事業を展開し、特に時計においては、名だたるスイスの名門と比較しても遜色ない高品位なモデルを製作し、高評価を獲得している。モンブランの歴史やおすすめモデルなどを紹介しよう。
モンブランの基礎知識
万年筆で有名なモンブランは、創業時から現在に至るまで、どのように発展していったのだろうか。近年の事業展開も含めて解説する。
高級万年筆ブランドのモンブラン
モンブランの歴史は、シンプルなペンを作ることを目的として、ドイツ・ハンブルグの銀行家アルフレッド・ネヘミアスとベルリンのエンジニアであるアウグスト・エーベルシュタインが1906年に「シンプロ・クィラーペン・カンパニー」を設立したことからスタートした。
当時の筆記具はインク容器にペンをつけて書くことが主流だった。シンプルな高級万年筆への挑戦は斬新な試みだったのだ。
ペンの形とヨーロッパアルプスの最高峰「モンブラン」が似ていることから、1909年にモンブランの名を使いはじめ、1910年からは製造するすべての筆記具にモンブランの名が使われるようになる。
1924年には、世界で最も有名な筆記具とも称される伝説的なコレクション「マイスターシュテュック」が発表された。この年はその後、同コレクションの人気ぶりを受けて筆記具史における節目の年ともいわれている。
さらに5年後、マイスターシュテュックのペン先に、アルプスの最高峰モンブランの標高を示す「4810」が刻印されるようになった。これは最高品質であることの証明を意味するサインともいえる。
近年は幅広く事業展開
長年に渡り、高品質な筆記具を展開し続けてきたモンブランだが、1980年代にダンヒルが買収。
さらに、1993年にはダンヒルがリシュモングループに買収されたことから、モンブランもリシュモンの傘下となる。
その後は筆記具以外のアイテムを順次発表。時計・ジュエリー・フレグランス・皮革製品・アイウェアといった分野で業績を伸ばし、近年は万年筆とともにこれらの高級アイテム販売を幅広く展開している。
特にモンブランの時計は、高い品質を守り続けるスイスの伝統に従い、ひとつずつ丁寧に手作業で製作されている。
時計づくりの歴史
万年筆メーカーとしての歴史が長いモンブランの時計づくりは、いつ頃から始まり、どのように発展していったのだろうか。
モンブランの時計史を振り返ってみよう。
1997年に時計業界に参入
モンブランにおける時計の歴史は、1997年、スイスのル・ロックルに時計職人を集めた工房「Montblanc Montre S.A.社」が設立されたことから始まった。
その後、ジュネーブで開催された「SIHH(国際高級時計サロン/愛称ジュネーブサロン)」に参加し、そのクォリティの高さで世界中の時計・宝飾業界から大きな注目と賛辞を集めることとなる。
2006年には、創業から150年以上の歴史を持ち、ムーブメント製作における優れた技術力で知られた老舗名門メーカー「ミネルバ」を傘下に収め、翌年、モンブランと共同で「ミネルバ高級時計研究所」(Institut Minerva de Recherche en Haute Horlogerie)を立ち上げる。
2008年、初の完全自社製ムーブメント「MB R100」を発表。以来、ここで製造されたムーブメントがモンブランのタイムピースに採用されている。時計づくりの伝統と、ドイツの名門万年筆ブランドが誇る両者の職人技術が融合し、その後のモンブランにおける機械式時計を支えていくことになる。
ミネルバとともに伝統を伝える
1858年にスイスで創業したミネルバは、ムーブメントや時計の製造をハンドメイドで行ってきたメーカーだ。
自社内で全ての行程を完結させることができる、スイスでも数少ないマニュファクチュールと言える。
オーナーを含めて社員数はわずか十数名で、年間生産量は約3000個という小規模なメーカーである。
しかし、スタッフは精鋭揃いであり、開発能力も高い。なかでもストップウォッチやクロノグラフなど、計測機能を搭載した製品の性能は高い評価を得ており、スイスの正統派時計メーカーとして、長年にわたりトップクラスの地位を保っている。
2006年のモンブランとの合併以降は、その誇りある伝統を共に伝え続けている。
モンブランの時計づくりの精神
モンブランの時計づくりには、受け継がれてきた伝統と最先端技術の両面が反映されている。より良い製品を作り上げるために守られている精神を紹介しよう。
積み上げてきた伝統
モンブランにおける時計づくりの伝統は、1858年のミネルバ創業から始まった。
1880年代には、リュウズによる巻き上げが可能なポケットウォッチが開発され、この登場がミネルバの成功と事業拡大に大きな影響を与えた。
その後も、特許取得を伴う多くの革新的な時計技術の開発を経て、1/100秒を計測可能な機械式のストップウォッチの開発にも成功するなど、優れた技術を積み上げて発展してきた。
今日のモンブランにラインナップするタイムピースは、ミネルバが長年に渡り培ってきた伝統の結集なのである。
マニュファクチュール
モンブランの一部のハイエンドピースは、スイスのヴィルレにある「モンブラン マニュファクチュール ヴィルレ」で、ムーブメントから一貫して自社製造が行われている。
ヴィルレの工房は1858年のミネルバ設立時と同じ場所に位置し、現在はここで開発やプロトタイプ製作、複雑機構の組み立てまで、すべての工程を行っている。
この工房は伝統的なスイスの時計づくりを守り続けるために、モンブランがミネルバをベースに設立したものだ。
ヴィルレの時計職人たちは、ミネルバが築き上げてきた伝統に従いつつ、さらなる革新を追求することにより、傑出した時計を創出している。
2010年に発表した「Metamorphosis(メタモルフォシス)」は時計製造における新基準を打ち立てている。このモデルは、モンブラン マニュファクチュール ヴァルレが初めて開発したもの。 メタモルフォシスとは“変貌”を意味する言葉で、その言葉通り、大胆に表情を変えるのが特徴だ。
基本の表情はモノプッシャー式のレギュレータークロノグラフ。シャッターが閉じた状態が時刻表示モードで、12時位置が時針、中央がレトログラード式の分針、6時位置が針式カレンダーとなっている。ケースサイドにあるパーツをスライドさせると、12時位置と6時位置のダイヤル表示が左右に割れて、時刻モードからクロノグラフモードへと“変貌”する。
超技巧派かつ独創的なモデルは世界限定28本、当時2300万円を超え、そこからもモンブランが“どんなマニュファクチュールになりたいのか”を世に伝えたモデルといえよう。
翌年には、ダブルシリンダーバランススプリングを持つトゥールビヨンを搭載した世界最初の時計「コレクション・ヴィルレ 1858 トゥールビヨン・バイ-シリンドリック」を発表。シリンダー型のヒゲゼンマイの振動する脱進機を小型化しトゥールビヨン内におさめることにより実現した。
ラボラトリーテスト
時計製造の伝統と最先端技術が融合する場所が、ル・ロックルにある「モンブラン・ウォッチ&クオリティ・エクセレンスセンター」だ。
ここでは、製品における最高レベルの精度と完璧性を確認するため、「モンブラン ラボラトリー テスト500」という自社基準の厳格な試験が実施されている。
多くのチェック項目からなる検査により、すべての製品が500時間かけてさまざまな方向から試されるのだ。
極めて厳格な手順を踏むこの試験をクリアした製品だけが、同センターから出荷されることになる。