2019年9月5日、新作を引っ提げて、オリスが上海でワールドプレミアを行った。アジアだけでなく、世界各地からジャーナリストを招聘し、同時にスイス本社とも中継するという力の入れようだ。果たして、創業110周年を記念して開発されたCal.110をベースに、シリーズ6作目の自社キャリバーとして発表されたCal.115搭載機は、機構こそ原点のCal.110に立ち返っているが、プロダクトとしてのパッケージングは、これまでのオリスの殻を打ち破る意匠をまとい、多くのジャーナリストを驚かせた。だが、これこそ未来を見据えた現在のオリスの戦略にほかならない。
Cal.110系ムーブメントをベースに、文字盤と地板、受けにオープンワークを施し、機械式ムーブメントの動きをより一層感じられるように仕立て上げた新型Cal.115搭載機。ステルス戦闘機をイメージしたモダンなケースに、建築に触発された構築美を持つムーブメントの組み合わせが相乗効果を生み、いっそうコンテンポラリーな印象を与える。手巻き(Cal.115)。40石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約240時間。T(i 直径44mm)。100m防水。81万円。
オリス 「ビッグクラウン プロパイロットX キャリバー115」
今年、創業115周年を迎えたオリスが満を持して発表した、シリーズ6作目の自社開発キャリバー115を搭載した新作は、意表を突くほど、モダンでコンテンポラリーなモデルである。オリス共同経営者のロルフ・スチューダーは言う。「そもそも、ラグジュアリーのコンセプトは、エクスクルーシブなものであるべきですが、今、人々はSNSに象徴されるように、排他的なグループに属することを望んでいません。人々と情報をシェアし、行動を共にすることを好みます。しかし、そこには確固とした独立性が存在し、各人のパーソナリティーやライフスタイルに合った時計が求められるのです。オリスは、創業以来115年にわたって独立の精神を貫いてきました。だからこそ、独立を維持しながらも互いに交わり、シェアし合っていくという、エクスクルーシブでインクルーシブな、相反する今の時代の変化に対応できるのです」
この文脈からとらえれば、100年以上のウォッチメイキングの歴史を持つオリスが、創業110周年を機に、35年ぶりにインハウスムーブメント、キャリバー110を発表し、新たな道を切り拓いてきたことも大いに理解できる。
オリスが、伝統を繰り返すばかりでないことは、このキャリバー110に続く一連のインハウスムーブメントで証明してきたことは明白だ。約10日間のパワーリザーブを持つこのムーブメントは、実用性だけでなく、パワーリザーブ残量に強弱をつけて表示するノンリニアパワーリザーブインジケーターなど、遊び心と個性を兼ね備えた時計作りに注力してきた。一方で、新たなオリス像を探りつつも、前CEOが唱えた〝普通の人々のため〞の時計も追求してきたからこそ、多くの人々のライフスタイルに合った時計を提供し続けられたに違いない。スチューダー氏は説明する。「この3年、オリスは市場を調査した結果、人々を奮い立たせる時計とは何かを求めてきました。それはエモーションを湧き立たせる時計です」
言うは易く行うは難し。華やかに見えるオープンワークも、時計としての機能を損なってしまっては本末転倒だ。オリスのシニアプロダクトデザインエンジニア、ルーカス・ビュールマンは語る。
「最も大切なのは技術的に実現可能であること。デザインと機能を両立しなければならないのです。実のところ、オリスにとってのラグジュアリーとは自分の流儀を貫くこと。それが“GoYour Own Way”というスローガンになっています」
一見、オリスらしからぬ意匠をまとった「ビッグクラウン プロパイロットX キャリバー115」。だが、その開発コンセプトにおいて、これほど〝今のオリスらしさ〞が汲み取れるモデルはない。
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