Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
キャリバー3861はスピードマスターのスタンダードになる
「CEOに就任して以降、オメガの歴史的な側面に目を向けてきました。スピードマスター プロフェッショナルはオメガにとってのピラーです。ですが、搭載するキャリバー861系は、現行オメガの中で最も古いムーブメント。そこで見直しをかけました。マスター クロノメーターになったキャリバー3861は、モダンヴィンテージであり、未来を示す存在ですね」
一方で、歴史的な側面は、ついに復活を果たしたキャリバー321に担わせるという。オメガCEOのレイナルド・アッシェリマンは断言する。「321を載せたムーンウォッチは未来に残します」。そこで気になるのは、3861を載せたムーンウォッチの量産化と、現行モデルが搭載する1861系の今後だ。
1970年、スイス生まれ。サンクト・ガレン大学を卒業後、投資・財務コンサルタントを経て、96年にオメガ入社。2000年にスペインのブランドマネージャーに昇格、01年にはセールスとリテールなどの責任者となる。13年に経営会議メンバーとなった後、16年6月に副社長から昇格して現職に就任した。スイス時計協会(FH)の理事も兼ねる。20年以上オメガに在籍するスウォッチ グループのいわば“秘蔵っ子”である。
「3861はムーンウォッチのスタンダードになります。発表初年ということもあり、2019年は限定モデルにのみ搭載しました。アーキテクチャーを見直して、改良を加えたら、量産に堪えうる安定性を得るはずです」。彼は明言しなかったが、1861を載せた現行モデルは、今後大きく縮小されるかもしれない。
「量産版の3861はオメガらしい時計になるでしょう。大事なのはバリュー・フォー・カスタマー。性能を上げたからといって、法外な価格は付けません」。普通、時計メーカーのCEOは価格のことを言いたがらない。しかし、アッシェリマンは一貫して「質に対してお買い得」を強調する。彼はバリュー・フォー・カスタマーの例として、やはりスピードマスターを挙げた。
「以前、ノーマルモデルはトランスパレントバックを持っていませんでした。しかし、ムーブメントを見せるために仕上げを良くしました。受けの仕上げを改善したのです」。確かに新しい3861は、ダイヤモンドカットを強調した面取りを持っている。個人的な好みを言うとモダンに過ぎるが、これもまた、彼の述べる「ネオ・ヴィンテージ」の表れだろうか。
意外だったのは、3861搭載機が、以前と比べてはるかにまともな装着感を持っていた点である。
「私たちにとって重要なのは人間工学的であること、です。したがって、ブレスレットを改良しました。理由は装着感の改善です。私たちは、かさばる分厚い時計は作りたくないのです。デザインによって快適さを作り上げていきたいのです」
今や順風満帆とも言えるオメガ。しかし、アッシェリマンは抜かりない。彼は今後、重要になる3つのポイントを挙げた。
「スタッフへのトレーニング、時計の見せ方、そして何より、私たちの情熱をできるだけ見てもらうことですね」
インデックス、ロゴ、ベゼル、クロノグラフ秒針以外の針に特許申請中の18Kムーンシャイン™ゴールド採用。9時位置のスモールセコンドに月面に降り立つバズ・オルドリン飛行士の姿を配す。手巻き(Cal.3861)。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径42mm、厚さ13.89mm)。50m防水。C.O.S.C.認定クロノメーターとスイス連邦計量・認定局(METAS)によるマスター クロノメーターを取得。耐磁性能1万5000ガウス。5年間の国際保証付き。世界限定6969本。103万円。
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