伝統と感性が心を揺さぶる
銀座に誕生して、今秋で12年を迎えるリストランテ。伝統的なイタリア料理に、コンテンポラリーな解釈と独自の感性を加えた料理が、食通たちを虜にしている。
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura
昆布締めのテクニックを応用し、乾燥させたイタリアンレタスでキンキに旨味を移している。炭火による火入れも秀逸。魚介のコンソメ、ホタテのソース、レタスオイルを合わせた鮮やかなソースが目の前で注がれると心が弾む。存在感あるベルーガのキャビアが程よいバランスの塩味に。「10周年アニバーサリーコース」からの一皿。
遡ること10余年前。東京・銀座にあるブルガリタワーのリストランテの話が舞い込んだ。当時、ハインツ・ベック氏率いる「ラ・ペルゴラ」でスーシェフとしての立場を確立していたルカ・ファンティン氏にとっては、すぐに判断できることではなかったと振り返る。「およそ半年間悩みました。そして、最終的な返事をしなくてはいけない日、自分では決めかねてコイントスをすることに。表なら日本へ行く、裏ならローマに留まる。すると、裏が出ました。なので、日本へ行くことを決心したのです」と笑う。なんとも天邪鬼なエピソードだが、その決断に感謝したい。
日本のガストロノミーにおいて、彼がもたらした功績は数えきれない。2011年にはイタリア人シェフとして、日本で初めてミシュランの星を獲得し、以来8年連続で保持している。2019年の「Asia’s 50 BestRestaurants」では18位、「The World’s 50 BestRestaurants」では107位という快挙も記憶に新しい。
彼にとってのフィロソフィーとは、旬のもの、季節感を大切にすること。新作の「キャビアと旬魚」について言えば、イタリア料理では、ペスカトーレのように魚とソースを一緒に味わうのが定番。そこに、炭火焼きという日本料理の技法を取り入れている。さらに、昨年モスクワを訪れた際に、キャビアとキュウリの相性の良さに感銘を受けた記憶がプラスされ、美しいだけではないルカ・ファンティン氏ならではの一皿となっている。
「美味しいと感じる料理にはストーリーがあります。私にとっては、祖母が作ってくれたオニオンスープです。一口で、幼い頃の情景が蘇り、愛情を感じることができます。しかし、人の心を掴む料理というのは、いまだに難しいですね」。エレガントで洗練されたリストランテながら、「ルカの料理が食べたい」と自然な感情によって国内外から多くの人々が銀座に足を運ぶ。それは、料理が持つストーリーと愛情が、しっかりと食べ手に届いているからにちがいない。
1979年、トレヴィーゾ生まれ。ミラノ「オステリア・デル・オルゾ」、スペイン「アケラッレ」「ムガリッツ」を経て、2006年にローマ「ラ・ペルゴラ」の副料理長に。09年11月「ブルガリ イル・リストランテ」のエグゼクティブシェフに就任。15年より現在の店名に。
東京都中央区銀座2-7-12 ブルガリ銀座タワー9F
☎ 03-6362-0555
11:30~L.O.13:30、18:00~L.O.20:30
日曜、祝日、連休最終日、大晦日は
ランチのみ営業でディナーは休み
ランチコース8000円
(10周年記念コースではない。平日のみ)
10周年特別メニュー
ランチコース1万円~、ディナーコース1万8000円~
(消費税、サービス料13%別)