ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ2017(GPHG2017)でトラベルウォッチ賞を獲得したパルミジャーニ・フルリエの「トリック エミスフェール レトログラード」。なんと幸運なことに、WatchTimeは同モデルを着用しながら、この時計を製造した工房の見学ツアーに参加する機会を得ることに成功した。つまり、パルミジャーニ・ウォッチメイキング・センターと呼ばれる5つの会社を見て回ったのである。今回はムーブメント編と題し、この5社の中から
・ムーブメント用のネジを作る「エルウィン」
・ヒゲゼンマイをはじめとする脱進調速機を製造する「アトカルパ」
・ムーブメントの設計ならびに組み立てを行う「ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエ」
の3社を見ていこう。なお、残りの2社については「高級時計が製造されるまで〜パルミジャーニ・フルリエを支える5つの工房〜(外装編)」にて紹介中だ。
https://www.webchronos.net/features/37950/
text by Mark Bernardo
精密パーツのスペシャリスト、エルウィン
外装を手掛ける各会社を見た後は、トリック エミスフェール レトログラードを動かしているムーブメント、Cal.PF317に関わる各工房を回っていく。
ベルン州ムーティエにある、長い歴史を誇るマニュファクチュールのエルウィンを訪ねると、パルミジャーニ・フルリエの生産体制が、ムーブメントを構成する小さなネジの製造からアッセンブリーに至るまで、垂直方向に構成されていることが分かる。
1990年に創業された同社は、時計業界では独占的なサプライヤーとして、その努力をネジなどの細かい部品製造に向けてきた。
同社では現代的なCNC旋盤のみならず、伝統的な旋盤も使用しており、古いものの中には1818年製のものもある。2001年にパルミジャーニ・フルリエのウォッチメイキングセンターに組み込まれたエルウィンは、いくつかの要素によって他のマニュファクチュラーと区別される。
そしてその中には、製品計画から品質管理までのプロダクト製造工程における全体を1人の職人が担当するという点も含まれる。現在の建物は09年に竣工したもので、33にも及ぶ機械を地熱によって稼働させている。エルウィンはスティールから真鍮、ゴールドまでを素材にネジを製造しているが、同時に素材を取り扱う機械とそれを制御するソフトウェアまでも開発してしまう会社としてその名を馳せている。
エルウィンがパルミジャーニ・フルリエ(といくつかの時計メーカー)用に作っているネジは顧客の要望に応えるため、専用のネジ穴を切っている。そのため、それを扱うには、顧客または外注している専門メーカー供給による特別なドライバーが必要となる。
パルミジャーニ・フルリエのムーブメントに使用されるネジで、エルウィン製でないものは青焼きされたネジのみだ。エルウィンにも自社での製造技術はあるが、その使用はミシェル・パルミジャーニが自身の工房で行うアンティークタイムピースの修復などに限定されている。