年次カレンダー概論。歯車型とレバー型を徹底比較

2019.11.19

レバー型 年次カレンダー

テコの原理〟が拓いた年次カレンダーの新表現

長らく、安価に年次カレンダーを作るための方法と見なされてきたレバー型の年次カレンダー。永久カレンダーから部品を省くだけで作れるため、一時期は多くのメーカーがこの手法を採用した。しかし、テコの原理を利かせられるレバー型の年次カレンダーにはほかにも、大きな部品を動かせるというメリットがある。レバー型の設計に着目して、新世代の年次カレンダーを作り上げたのはパルミジャーニ・フルリエだった。

パルミジャーニ・フルリエ トンダ カランドリエ アニュエル

パルミジャーニ・フルリエ トンダ カランドリエ アニュエル
右端の月末に着くと、瞬時に左端の1日に戻るレトログラード式デイト表示を搭載した2018年初出の年次カレンダー。立体感あふれる多層ダイアル上で、アラビア数字が曜日&月表示カウンターを美しく取り囲む。自動巻き(Cal.PF339)。32石。2万8800 振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KWG(直径40mm)。3気圧防水。315万円。

 ひと月の日数は31日のほかに、30日の月があれば、29日(閏年)、28日の月もある。これらをすべて自動で日送りするのが永久カレンダーであり、2月末だけ自動送りを諦め、3月1日に手動で送らねばならないのが年次カレンダーだ。実のところ両者の違いはそれだけなので、構造的に似たモデルも多い。たとえば48カ月車と閏年カムを加えるだけで永久カレンダーになる年次カレンダーや、永久カレンダーに対して2個部品が少ないだけの年次カレンダーも存在する。これらの年次カレンダー機構の特徴は、伝統的な永久カレンダーと同じくレバーとカムで制御・駆動されていること。1996年にパテック フィリップが最初に発表した年次カレンダーは歯車を中心とした新しい機構だったが、〝2月末だけ手動調整していい〞のなら、既存のメカニズムが使えて手っ取り早いではないか、というわけだ。

 ちなみに永久カレンダーには4年間で1回転する48カ月カムを搭載したタイプと、その役割を12カ月カムと閏年カムで担うタイプがある。1枚のディスクの周囲に48もの段差を作るのは難度が高く、1980年代に12カ月カムが誕生したことで、永久カレンダーの生産性が大きく向上した。この48カ月/12カ月カムに施された切り込みの深さに応じてメインレバーが作動し、大の月には1日、小の月には2日、2月末には最大3日を送る。例えばA.ランゲ&ゾーネのアウトサイズデイトを一気に送れるのも、テコの原理で作動するメインレバーの巨大なトルクを利用できるからにほかならない。

右端の月末から左端の1日へポインターデイト針が瞬時にレトログラード運針する際、3時位置の月表示が同時にひと月進む。その目に見えないほど早い動きを完璧に制御しなければ、月表示がきちんと機能しない恐れがある。そのため、レトログラード機構と月表示の動力学的な運動を高速度カメラで撮影し、確認しながら開発を進める必要があったという。歯車型・レバー型を問わず、新表現への挑戦には、常に技術者たちの苦心が伴う。
6時位置の高精度ムーンフェイズに重ならないよう、8時位置から4時位置にかけて扇状にレイアウトされた日付を、先端の赤いレトログラード針が往復運動しながら指し示すデイト表示がユニーク。レトログラード機構を規制するヒゲゼンマイによって振り角への影響を抑えるなど、極めて難度の高い設計をものにした。9時位置に配された曜日表示は、月の大小とは関係ないため、日送り機構とは別ユニットにて常時7日周期で動いている。

 こうした永久カレンダー機構をルーツにした年次カレンダーは、レバー型のメリットとデメリットも受け継いだ。メインレバーを12カ月カムの指令通り正確に作動させるには、組み込む際に大掛かりな調整が必要で、耐衝撃性も歯車型に劣る。だが、歯車に依存しないため、輪列への抵抗は小さく、テンプの振り角が落ちる心配も少ない。対して、エクスリン博士ほか、各社が独自の技術を持ち込んで歯車型年次カレンダーは革新を続けているが、レバー型の場合はどうだろうか。パルミジャーニ・フルリエが2018年に発表した「トンダ カランドリエ アニュエル」の取材をもとに検証してみよう。

 まず、年次カレンダーとして異彩を放つのがデイト表示である。レトログラード機構を規制するヒゲゼンマイのテンションが、1日と31日では大きく異なるため、設計が優れていなければ日付を進ませる際のエネルギー消費量の起伏を抑えられないはずだ。また、一般的な歯車型年次カレンダーは30日と31日しか区別されないが、このモデルはレバー型の特性を活かし、30日と31日だけでなく、2月を29日として記憶している。つまり閏年は2月を含めて自動的に日送りされるのだ。さらには破損防止機能により、どの時間帯にどのカレンダー表示を修正しても構わない。

Cal.PF339

Cal.PF339
自動巻きムーブメントCal.PF331ベースに、高性能なレトログラード式年次カレンダーと高精度ムーンフェイズを収める新キャリバー。直列ツインバレルを採用したのは、パワーリザーブの延長のためというより、エネルギーをより安定させて調速機に伝えるため。また、ローズゴールド製のムーンディスクは、南半球と北半球で異なる月齢に応じてふたつのムーンフェイズを表示する。これは実際の月の周期(29日12時間44分2.8秒)とのズレを補正し、122年に1回しか修正する必要がない超高精度仕様だ。ムーブメント細部の仕上げもパルミジャーニ・フルリエらしい美しさにあふれ、ブリッジは手作業で面取りのうえコート・ド・ジュネーブで装飾、ローズゴールド製ローターはバーリーコーンのギヨシェが施されている。

 組み立て時の調整が難しいレバー型ではあるが、パルミジャーニ・フルリエのムーブメントを開発するヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエで開発・製造責任者兼副社長である浜口尚大氏は、製造精度を向上することで部品の個別調整は最小限に抑えたと言う。設置場所が制限されるという一般的な定説に対しても「歯車型はどうしても歯数や歯型のサイズなどによって、どこに何の表示を配置するか限られてくるし、歯車のあがきを抑えることも難しい。その点、レバー型はテコの原理の応用なので、かなり簡単にレイアウトの変更が可能です」と反論する。実際に複式レバーをふたつに分割して別々に配置するなど、レイアウトの自由度を高める設計の工夫も確認できる。新たに開発されたレバー型は、年次カレンダーの新表現に挑戦したパルミジャーニ・フルリエらしい秀作だ。

Contact info: パルミジャーニ・フルリエ ☎03-5413-5745