鈴木幸也(本誌):取材・文 Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
手が届く価格で復活を遂げたアイクポッド
2012年から休眠していたアイクポッドが復活を遂げた。その立役者が、共同オーナー兼マネージングディレクターのクリスチャン=ルイ・コルである。彼が今年のバーゼルワールドで発表したモデルはふたつ。2針の「デュオポッド」とクロノグラフの「クロノポッド」だ。今回は、それら新作を携えて来日を果たした。
1968年、フランス生まれ。カルティエ主宰のMBA「sup de luxe」卒業後、リシュモン グループのボーム&メルシエとピアジェでマーケティングと販売を経験。2009年から12年までの間、数々のブランドのコンサルティングを行う。17年に共同でアイクポッドを買収し、クラウドファンディングによって、わずか88分で世界中から700人の注文と40万スイスフランを集め、成功を収める。19年、バーゼルワールドで新作を発表し、8月より販売開始。
「正直に言うと、かつてのアイクポッドは私にとっては高すぎました。当時、私はリシュモン グループで働き始めた頃でした。私が初めて買った時計はヴィンテージ・ロレックスのエクスプローラーで、その頃のパリで、アイクポッドはその倍の価格でした。私は、アイクポッドは好きでしたが、コレクターではなかったのです」
転機は16年に訪れた。その後、コンサルティング業に就いていた彼は、アイクポッドのオーナーと出会うことによって、アイクポッドが売りに出ていることを知った。
「もし私が買えるなら、手が届く価格でブランドをリローンチしたいと申し出たのです。結果、ブランドに加え、丸型とマナティのデザインを買収することになったのです。元々のアイクポッドは約150万円でしたが、私がリローンチしたモデルは9万2000円で買うことができます。もちろん、前者の中身はETA7753で、私の時計はミヨタのクォーツムーブメントなので、一概に比較はできませんが、私はコストパフォーマンスが高い時計を作りたかったのです。私のアイデアは、見た目はまったく一緒で、よりシンプルにすることでした」
以前のアイクポッドは専用工具がないと開けることができなかった。しかも、文字盤側からムーブメントを取り出す構造なので、メンテナスも容易ではなかった。「アイデアは、手が届く価格で、シンプルにすることでした。しかし、時計のエッセンスやオリジナリティは維持すること。そして、アイクポッドが最初から使っていたオリジナルロゴを使うこと。ケースは裏蓋側から開ける構造に変更しましたが、ストラップは以前のものを付けることができます。つまり、構造は変えても同じデザインを維持しているのです」
最後に彼は新作情報を明かしてくれた。
「来年は直径46㎜で自動巻きムーブメントを搭載したモデルをリリースします。文字盤のデザインを手掛けるのは、デュオポッドとクロノポッドを担当したエマニュエル・ギュエではなく、アレクサンドル・ペラルディに依頼しました」
ペラルディといえば、ボーム&メルシエで活躍した一級のデザイナーである。今後、アイクポッドがどう育っていくのか、デザイン好きなら、なおさら目が離せない。
マーク・ニューソンが手掛けたケースデザインを継承しつつ、ムーブメントを裏蓋側から出し入れできるように変更を加えた新生アイクポッド。構造をシンプルに変更し、ミヨタのクォーツムーブメントを採用することで、大幅なコストダウンを可能にした。これはクォーツクロノグラフ。ダイアルデザインは、オーデマ ピゲのロイヤル オーク オフショアなどをデザインしたエマニュエル・ギュエが担当。クォーツ(Cal.Miyota JS 25)。SS(直径44mm、厚さ17.5mm)。3気圧防水。9万2000円。
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