広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
往年のカリプソがもたらした新しい「アイコン」ウォッチ
スポーティーモデルの「アイコン」が絶好調のモーリス・ラクロア。2016年に発表された本作は、今や売上金額の半分を占める主力モデルとなった。同社らしい良質な作りと抑えた価格、そして一目で分かるデザインは、世界的な大ヒットをもたらした。企画したのは、同社を牽引するステファン・ワザーである。
1975年、スイス生まれ。HECローザンヌ大学を卒業後、タグ・ホイヤーに入社。以降、さまざまな会社でマーケティング職に就いた後、2008年にモーリス・ラクロア入社。インターナショナルマーケティングディレクターとしてブランドの知名度向上に寄与。14年7月から現職。ラインナップを整理したほか、新コレクションのアイコンをリリース。加えてサプライチェーンを刷新した。
「15年前から、何がモーリス・ラクロアの象徴になるかを模索していました。4年前にマーケットリサーチを行い、完成したのがこのアイコンです。強いデザインを持ったことが成功の一因でしょうね。それと、ラグジュアリースポーツウォッチのブームが続いていることも大きいですね」
かつてモーリス・ラクロアといえば、ユニークでニッチな機械式時計を作るメーカーという印象が強かった。しかし今や、エントリーからミドルレンジの価格帯におけるスポーティーウォッチメーカーの雄に変わった。同社が矢継ぎ早に、アイコンを拡充し続ける理由だ。
「30年前のモーリス・ラクロアは、魅力的な価格に特徴がありました。しかし、2010年前後に、高価格帯に集中しすぎてしまった。アイコンで意図したのは手が届く価格帯に戻すこと、でした」
その意図は成功したが、売り上げの半数がアイコンというのは問題ないのだろうか? 「フィフティ ファゾムス」に注力するブランパンでさえ、売上本数の3分の1しかないのである。「スポーツウォッチに依存する他社に比べるとまだまだ割合は低いと思います。モノプロダクトというレベルには達していません。また、モーリス・ラクロアのいるポジションで、アイコンの競争力は高いのです」
それはどういうことなのか?「同じ価格帯のメーカーも、やはりスポーツウォッチのブームに乗りたがっています。ですが、他社の多くはヘリテージを持っていない。一方、私たちにはカリプソがあり、それがアイコンのモチーフになった。だから強いんですね」
モーリス・ラクロアはすでに45年近い歴史を持っているのだ。併せて、同社は2年前からサプライチェーンを一新した。「モーリス・ラクロアのサプライチェーンは25年前と同じで、注文を予測して生産し、結果、在庫を積み上げていました。現在はT1、T2、品質管理のプロセスを見直すことで、注文を受けたら約20日で商品が届くようになっています」
3年前、筆者はモーリス・ラクロアが大グループを脅かすジャイアントキラーに化けるかもしれないと記した。今や同社は、最も注目すべきメーカーのひとつである。
300m防水に加えて、インターチェンジャブルストラップを備えた戦略的な価格のスポーティーウォッチ。ケース厚が11.6mmしかないため、装着感にも優れる。ケースは自社製造ではなくなったが、相変わらず質感はかなり良好だ。自動巻き(Cal.ML115/セリタSW200ベース)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約38時間。SS(直径43mm)。24万5000円。
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