街へ連れ出そう:ベル&ロスの「都会的な」スポーツラグジュアリーライン、BR05

FEATUREWatchTime
2019.12.04

1994年、長年の友人同士であったブルーノ・ベラミッシュとカルロス・ロシロのふたりによって創業された、まだ若い会社であるベル&ロスは、航空機の計器に着想を得たデザインによって、「遠目で見てもひと目でわかるブランド」という、特別な領域においてその地位を築き上げてきた。今回は彼らが2019年9月に発表した「BR05」の開発経緯を追う。

Originally published on watchtime.com
Text by Mark Bernardo

ベル&ロス「BR05」

BR 05 BLUE

「BR05 ブルースティール」。自動巻き(BR-CAL.321)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径40mm)。100m防水。SSブレスレット。55万円(税別)。


 現在の時計市場において、たったひとつの芸当で成功を手にすることは難しい。しかしベル&ロスは、その礎石ともいえるBR01などからなるインストゥルメントコレクションから、その要素を発展させ、より歴史的背景に軸足を置いたラウンド型のヴィンテージコレクションを追加してきた。しかし、四角いケースに丸型のベゼル、目立つ4本のビスは、このブランドの最も見分けやすいアイコンであり続けてきた。ベル&ロスはプロフェッショナル向けのダイバーズウォッチを開発したときも、防水性能を担保しやすいラウンドケースではなく、あえてスクエアケースのBR03-92で目的を成し遂げたのである。

ラグジュアリースポーツライン投入で目指した完璧なラインナップ

 このたび、ベル&ロスがブランドのラインナップに欠けているスタイルである、ラグジュアリースポーツラインのブレスレットウォッチの開発に着手するにあたり、ベラミッシュとロシロは同社のアイコンであるスクエアケースを採用した。これを新しいものではなく、既存のものから発想を得たという人がいるかもしれない。今回のコレクションの開発について尋ねられたロシロは、「新しい領域を築くためにニッチなもの、またはまったく新しいものに着手するということではなかった」と語り、「BR03の発展形で、ベル&ロスのDNAを受け継ぐもの、4本のネジと四角の中に丸型というアイコンを形成するベーシックさを兼ね備えるものを考えた。その上でラグジュアリースポーツウォッチへとつながるものを作り上げるには、ブレスレットは必須要素だった。そこで最初のクリアすべきハードルは、今までなかったケース一体型のブレスレットを考案することにあった」と続けた。

BR05

ブルーノ・ベラミッシュのBR05のデザインスケッチ。

 新しいBR05コレクションは何年もの開発期間を経て、ようやく2019年秋に発売となった。ロシロによって「アーバン・インストゥルメント」と名付けられたBR05は、ベル&ロスでは初めての四角いケースにメタルブレスレットが一体化したモデルだ。なぜ「アーバン」なのか。ロシロによると、これまでブランドは航空機の計器をデザインのインスピレーション源とするBR01やBR03、ヴィンテージ調ミリタリーのBRV1やBRV2によって「空」を、ダイバーズウォッチBR03-92や先代のBR02シリーズによって「海」を、そしてBRV3-94やBR-X1などルノーのF1チームとのコラボレーションモデルによる「レーストラック」を制覇してきた。残る最後の領域こそ、都市における「アーバン」だからだということである。ロシロはまた、BR05の背景にあるコンセプトが自動車産業に似ているとも説明する。「自分たちがいつも素晴らしいと思っているのはランドローバーだ。ランドローバーの車は非常にプロフェッショナルで、そのルーツがミリタリーにあるという点がベル&ロスに近いと思う。ランドローバー『ディフェンダー』はミリタリーテイストで、アウトドア向けである一方、『イヴォーク』は都会的である。BR03とBR05の基本的な違いは、フライトジャケットとディナージャケットのようなものだ」。

BR05 GREY

「BR05 グレースティール」。自動巻き(BR-CAL.321)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径40mm)。100m防水。SSブレスレット。55万円(税別)。

 BR05をイヴォークとして、そしてBR01をディフェンダーとして比較する適切さは、新作の時計の詳細を見ていくとよく分かる。BR05のケースには、柔らかなカーブを描く角と、サテン仕上げのフラットな面、ポリッシュ仕上げが施された面取りが見られ、サイズはがっしりと大きな直径46mmのBR01や42mmのBR03よりも小さく、ブランド最小の39mmのBR-Sよりわずかに大きい直径40mmが与えられた。新しくデザインされたブレスレットは、ポリッシュ仕上げされたセンターの四角いリンクと、それを取り囲むサテン仕上げのH型のリンクによってエレガントなテイストだ。ブレスレットはしなやかに手首になじむようデザインされ、ダブルフォールディングバックルによって留められる。ポリッシュとサテン仕上げの組み合わせのバックルには、外しやすいふたつのプッシュボタンが付いており、さりげなくベル&ロスの「&」ロゴが配されロックシステムとして機能している。

BR05

一体型ブレスレットは、ダブルフォールディングバックルによって留められる。

 ベル&ロスがBR05をひとつの柱として自身のポートフォリオの中に組み入れることには、そのカラー、ケース素材、文字盤のバリエーション、ムーブメントのスケルトン加工など豊富な要素を取り込む実験的な意図がある。ステンレススティール製ケースの3モデルは、文字盤にサンレイ仕上げを施したブラック、グレー、ブルーが用意され、それぞれ蛍光塗料が施されたアプライドインデックスとアワーマーカー、そして3時位置にデイト表示を備えている。4つ目のモデルは18Kローズゴールドケースに同素材の一体型ブレスレットが合わせられている。今回ゴールドウォッチを導入したのはベル&ロスにとって、特筆すべきことであろう。もともとケース素材のバリエーションで知られ、チタンからセラミックス、ブロンズ、サファイアクリスタルなどを採用してきたが、BR03-90の「グランドデイト・パワーリザーブ」バージョンやBRS-92オートマティックの派生版などわずかなモデルを除き、これまでゴールド仕様のものは見られなかった。今回のモデルには、よりスポーティーな印象に仕上げる、一体型ラバーストラップも取り揃えられる。

BR05 GOLD

「BR05 ゴールド」。自動巻き(BR-CAL.321)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KRGケース(直径40mm)。100m防水。18KRGブレスレット。370万円(税別)。

BR05には、一体型ラバーストラップの用意もある。SSケースモデル、49万円(税別)。

ホイールを想起させるローターを備えた自動巻きムーブメント

 BR05モデルに搭載されるのは、自動巻き機械式ムーブメントのキャリバーBR-CAL.321と、スケルトンバージョンのBR-CAL.322だ。セリタSW300をベースとし、まったく新しいホイールのような形のオープンワークが施された、ムーブメント全体を覆うローターを備えている。

 BR05モデルはすべてシースルーバックを備えるようにデザインされており、ロシロによるとベル&ロスで全モデルにシースルーバックが採用されたシリーズは初めてとのことである。デザイナーであるベラミッシュは、特徴的なローターの考案に特に注力した。「私たちは、テンプ、ヒゲゼンマイ、ムーブメント全体を覆いながらもそれを隠さない特別な360°回転ローターを備えたSW300をベースにしたムーブメントを開発した」とベラミッシュは語る。「ただ技術的な課題があり、バランスよく出来上がったものの、うまく機能するには少しバランスを崩す必要があった。そのためローターを見直し、修正を加え、重心にアンバランスさを付け加えた」。ベラミッシュのローターの外観にインスピレーションを与えたのは? ほかでもないレンジローバーのホイールであろう。

BR 05

ベラミッシュのスケッチ。ラグジュアリーカーのホイールが新しいBR-CAL.321のインスピレーションの源となった。

BR-CAL321

セリタのムーブメントをベル&ロス用にカスタマイズしたBR-CAL321/322。

 BR05の中でも印象的なムーブメントの外観はスケルトン仕様であろう。世界限定500本モデルで、ステンレススティール製ケースに内包されたスケルトン加工のBR-CAL.322を肉抜きされた地板を通して見ることができる。このモデルもまた、ベル&ロスにとって新たな時計づくりにおける冒険であった。これまでスケルトン加工はまれで、最もハイクラスなBRX-2トゥールビヨンのようなものにしか採用されていなかったのだ。「ケースだけでなく、ムーブメントも非常に洗練されたものであるという点を見てもらいたかった」とロシロは語る。「自動車業界においても、一部のスポーツカーにおいてエンジンを見せている理由はその審美性を強調するためだろう。同様に、ベル&ロスにとってこのムーブメントはカスタマイズされたエンジンであり、時計作りにおいて、スケルトン加工の美しさとは、洗練されたムーブメントを取り出さずに眺められ、同時にケースバックからも鑑賞できるということだ」。

BR 05 SKELETON

「BR05 スケルトン」。自動巻き(BR-CAL.322)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径40mm)。100m防水。SSブレスレット。世界限定500本。75万円(税別)。

 BR05はもちろん否応なしに、他の多くのラグジュアリースポーツウォッチと比較されることになろう。丸みを帯びたスクエアケース、一体型にデザインされたブレスレットは、パテック フィリップのノーチラスと比較されるだろう。ベゼルのビスは、オーデマ ピゲのロイヤル オークやウブロのビッグ・バン(こちらも発表時には、既存モデルと大いに比較されたのだが)を思わせる。目に見えるネジとスクエアケースの組み合わせは、さらに時代をさかのぼり、カルティエのサントス・デュモンと比較されるであろう。しかしながら、これらの特徴がありながら、特定のモデルとのあからさまな類似はないだろう。四角の中に丸いサファイアクリスタル製風防がノーチラス的という点に関して言えば、ノーチラスはバーインデックスを用いているのに比べ、この新作はアラビア数字とバーを組み合わせており、ノーチラスはベゼルにビスを備えていない。ブレスレットが最も類似性を想起させる要素であろうが、リュウズプロテクターはノーチラスのそれよりもかなり小さく、ケース反対側とのバランスを崩してはいない。ネジを除いて、BR05のベゼルをロイヤル オークの八角形ベゼルやビッグバンの丸いベゼルと混同する人はいないだろう。上記で比較するモデルは8本のビスを備えているのに対し、BR05は4本であり、コーナーに1本ずつ配され、四角い形を強調するスタイルはベル&ロスのデザインの原点であるダッシュボードにインスピレーションを得たものである。より正確には、四角の中に丸というスタイルが何よりもはっきりとベル&ロスというブランドをはっきりと定義している。サントスのケースに関して言えば、コーナーが丸いスクエアベゼルにビスが配されているが、サントスはより複雑でカーブしたケースデザインに丸ではなく四角い文字盤が合わされ、大きなアラビア数字ではなくローマ数字が配されている。

Bell&Ross

ブランドの「&」ロゴが、リュウズに刻まれている。

 遠目に見ても、時計好きから見るとBR05はベル&ロスの時計として認識される。ベル&ロスの創業者たちは、自身の旗艦コレクションが打ち立てたデザインに自信があり、それが新しい柱となるモデルにうまく受け継がれていくことに大きく期待している。ブランドの「強み」について総括すると、ロシロは「ベル&ロスの時計を認識するのにブランド名は必要ない。すべての時計は同じデザイナー、同じ頭脳によって考案されている。そしてベラミッシュは妥協をしない男だ。そこに我々のブランドの根幹がある」と力強く語っている。

BR 05 BLACK

「BR05 ブラックスティール」のラバーストラップモデル。自動巻き(BR-CAL.321)。25石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径40mm)。100m防水。49万円(税別)。

Contact info: ベル&ロス ジャパン Tel.03-5977-7759