「オーパス」や「イストワール・ドゥ・トゥールビヨン」に代表される壮大なコンプリケーションから優美なドレスウォッチまで、ハイジュエラーとして、そしてウォッチメーカーとしての高度なテクニックと独創的な美学を展開するハリー・ウィンストン。「HW エメラルド」や「HW ミッドナイト」の新作では、〝キング・オブ・ダイヤモンド〟の神髄をドレスウォッチに昇華した。時計の品格や個性を決定付ける文字盤に凝らされた絶妙な手法も、外装の進化として見逃せない。
菅原 茂:文 Text by Shigeru Sugawara
同じデザインで展開するクォーツモデルは2針、日付表示付き。ケース厚は自動巻き7.59mmに対して若干薄い6.72mmで、一段とドレッシー。文字盤はブルーもしくはシルバーオパラインのサンレイサテン仕上げ。ベゼルにダイヤモンドを配したバリエーションも取り揃える。クォーツ。18KWG(縦39.3×横33.3mm)。3気圧防水。175万円。
(右)HW エメラルド・オートマティック 33mm
男性の手元をエレガントに彩るこのモデルは、自動巻きとクォーツの2種類を展開し、この自動巻きモデルは3針、日付表示付き。文字盤はシルバーオパラインもしくはブルーからブラックへのグラデーションのサンレイサテン仕上げ。自動巻き(Cal.HW2003)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KRG(縦39.3×横33.3mm)。3気圧防水。220万円。
進化するドレスウォッチの秘密
新作ドレスウォッチのハイライトは、まず「HW エメラルド」だ。ケースを特徴付ける印象的な8角形のフォルムは、〝キング・オブ・ダイヤモンド〞と呼ばれた、ブランドの創始者ハリー・ウィンストン本人が愛したダイヤモンドの形、すなわちエメラルドカットから想を得たもの。最新作は、従来のミニサイズの女性用ジュエリーウォッチとは対照的に、大ぶりな33㎜ケースを採用し、モダンかつ少々レトロでクラシカルな雰囲気を漂わすしゃれたメンズウォッチに仕立てられているのだ。ラウンド型以外に男性用の選択肢を広げることとなった新しいデザインは、スタイリッシュな角型を愛好する通の時計好きにも朗報だ。
ダイヤモンドのエメラルドカットさながらに、きりりとエッジの立つ多面的なファセットで構成された新しいケースの造形はもちろんのこと、その幾何学的なフォルムとぴったり合った8角形の文字盤に絶妙な手法が施されているのはさらに注目すべきところ。それは、ザポナージュという表面仕上げをしていないことだ。ザポナージュとは、もともと文字盤を腐食から守り、美観を保つために行われるクリアラッカー処理を指すが、これをしないことで豊かな表情を作り出すことが可能になるというから興味深い。ハリー・ウィンストンCEOのナイラ・ハイエックは、2年ほど前から一部モデルの文字盤でザポナージュをやめたところ、文字盤でいろいろなことができるようになったと説明する。「HW エメラルド」の場合、薄いベールをはいだようなしっとりとした質感がサンレイサテン仕上げの文字盤に上品な趣をもたらしていて、ことのほか美しい。
文字盤の細部に宿る美意識やジュエラーの妙技といえば、「HW ミッドナイト」の新作にも顕著に見て取れる。ベースは、満天の星々をポエティックに表現するのに最適なブルーアベンチュリン。12時位置にはブランドのシンボルであるエメラルドカット・ダイヤモンドを、6時位置のレトログラードセコンドには大小7個のラウンド・ブリリアントカット・ダイヤモンドを配し、アーチを描くダイヤモンドによってティアラのシルエットを描出するという実に手の込んだ演出を凝らす。王族を思わせる高貴なティアラと夜空でひときわ輝く特別な星を同時に演じるダイヤモンドのきらびやかな表情もさることながら、宝石を自在にアレンジしてドレスウォッチにユニークな個性を創出する技量も圧倒的だ。
非凡なデザインや手法を論じるときに、しばしば「神は細部に宿る」という言葉が用いられる。ハリー・ウィンストンの新作の文字盤に発見できるのは、同ブランドが具現化した神業とも言えようか。そうした特別感を持った時計を着ける喜びを与えるのも、ドレスウォッチの大切な使命であるに違いない。
ブルーアベンチュリンとダイヤモンドで満天の星を表現。12時位置のエメラルドカット・ダイヤモンドと総計107個のラウンド・ブリリアントカット・ダイヤモンドにジュエラーの本領を発揮。シリコン製ヒゲゼンマイ搭載。自動巻き(Cal.HW2101)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KWG(直径39mm)。3気圧防水。370万円。
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