腕時計の電池交換はどうする? 依頼先別のメリットとデメリット

FEATUREその他
2023.01.12

メーカーのメリットとデメリット

 ここまでいくつかの交換方法を紹介したが、時計の寿命や質を第一に考えるのであれば、やはりメーカーに依頼するのが確実だ。

 メーカーでの電池交換には大きなメリットがあるものの、いくつかのデメリットもある。時計修理専門店との比較も交えて検討してみよう。

純正部品のため安心

 メーカーに電池交換を依頼する大きなメリットは、そのメーカーを知り尽くした専任のスタッフが正しい手順で純正部品にを使って作業することだ。

 電池やパッキンは時計購入時の状態にレストアされ、電池の液漏れや軽微な汚れなどもムーブメントを破損させずにクリーニングしてくれる。

 裏蓋を傷つけることも当然なく、精度を維持しながら長い愛用を考えるなら、メーカーがベストな選択肢と言える。

メンテナンス

完璧なメンテナンス体制を求めるならば、メーカーに依頼するのが確実だ。電池やパッキンは専用のものに交換される。その上、電気回路内の抵抗値など、細かな適正値を測定器でチェックするため、目では見えないムーブメントの異常にも気づくことができる。

時間や値段がネック

 腕時計の確実な修繕という意味では、電池交換はメーカーに依頼するのが最良の選択肢といえるだろう。

 ただし、メーカー預かりになると多くの工程を経て動作確認にも数日間を要するため、腕時計が手元に帰ってくるまでには2週間程度が、それ以上かかる場合がある。

 品質保証のために必要な期間とはいえ、自身が所持している時計を長期間身に着けられないことはネックだ。

 また、価格面も時計修理専門店などに比べれば高く設定されている。腕時計の機能面に劣化が見られなければ、メーカーに出すほどではない場合もある。

電池交換は通常保証対象外

 メーカーでは、オーバーホールや初期不良に関しては保証対象となるが、電池交換に関しては保証対象外であることが多い。

 メーカーに電池交換を依頼すると、まずは不具合の検査が行われる。状態によってはオーバーホール、あるいはムーブメントの修理が行われる。

 これらにあたらないのが、いわゆる電池交換。メーカーからすれば通常使用における消耗であるため、電池自体の不具合は保証範囲内でないことが多いのだ。

 この点では、時計修理専門店に軍配が上がる。専門店によっては、電池交換の際に保証書を発行し、2〜3年間は無料の電池交換を保証するというサービスとするケースもある。


ホームセンターのメリットとデメリット

 ホームセンターや量販店などで電池交換を行う、という選択肢もある。これはごく一般的な方法だが、安価なサービスには落とし穴があることを踏まえておこう。

手軽に済む

 ホームセンターや量販店での電池交換は、安く早く済むということが最大のメリットだ。

 メーカーに依頼すれば1万円を超えるモデルであっても、1000円や2000円で済む場合がある。しかも、空いていれば10分程度で交換完了するという手軽さだ。

 裏を返せば、高級な精密機器を粗雑に扱っているからこその安さと早さともいえる。どうしても今すぐ電池交換しなければならない、という切迫した状況であれば検討の余地はあるかもしれない。

 また、安価なモデルやノンブランドの腕時計であれば、むしろこういった手軽なサービスの方がメリットはあると考えることもできるだろう。

保証がなく対応してもらえない可能性も

 時計修理専門店とは異なり、ホームセンターや量販店では保証がないということもある。

 こういった店舗では、まず交換した電池がモデルに合っていないことも多い。電池の寿命が想定より短くとも、電気特性の不具合でムーブメントが故障したとしても、何の補償も受けられないことがありうる。


専門業者やメーカーがおすすめの理由

 安価なサービスの落とし穴を見たところで、時計修理専門店やメーカーに焦点を戻してみよう。単純な値段の比較では、サービスの実態に意識が向きにくい。

 大切な腕時計を守るためには、電池交換に留まらないノウハウをもった業者に依頼することが重要だ。

時計技師

百貨店の時計売り場は、時計のメンテナンス窓口が併設されている場合が多い。写真は松坂屋名古屋店の時計フロア「GENTA the Watch(ジェンタ ザ ウォッチ)」のライブリペアゾーン。資格を持った時計師が常駐し、その場で電池交換を行う。

高い技術を有している

 技術力の高さは、メーカーや時計修理専門店とその他の業者を区別する重要なポイントだ。なにより大前提として、腕時計は精密機器である。

 薄いケースのなかに極小のパーツで構成されたムーブメントが収まっており、電池が収まる空間は湿度が厳密にコントロールされている。

 腕時計の仕様通りの電気特性や防水性能を維持して電池交換を行うには、マニュアル的を超えた熟練職人のノウハウが必要だ。

 これらを有しているのが、メーカーや時計修理専門店なのである。

資産価値を守れる

 高級時計は数十万円以上の資産価値を持ち、その価値は経年とともに上昇していくことも珍しくない。腕時計の価値を守るには、傷や破損を避ける必要がある。

 メーカーや時計修理専門店では、繊細な力加減が必要な裏蓋の開閉を、ケースやムーブメントを傷つけずに行うことができる。

 交換される電池やパッキンが純正部品であることやメーカーによるメンテナンスが実施されてきたという来歴は、時計の資産価値を守ることがでだろう。メーカーを利用する大きな利点だと言える。

性能チェックができる

 メーカーや時計修理専門店では、電池交換に合わせて防水性能や電気特性、リュウズの操作性や運針といった性能チェックを行える。

 裏蓋を開閉すると腕時計内部の環境が変化するため、開閉の前後で防水性能をチェックすることが重要だ。電池交換の前後に、電気特性のチェックを行うことも同様である。

 高級時計は、本来はそういった精密な調整を要するものだ。これらを省略した業者に電池交換を任せると、モデルの本来の性能が発揮できない。

 メーカーや時計修理専門店に任せなければ、精度や使いやすさが劣化していくだけでなく、性能低下が原因で故障を起こしやすくもなる。

電池交換以外にも対応してくれる

 腕時計の運針が不安定になったり、日差が日ごとに大きくなっていったりという状況は、電池の消耗以外が原因という場合もある。

 ホームセンターや量販店では、原因を究明せずに電池交換を行う。メーカーや時計修理専門店では、まず腕時計の診断を行うという点も大きな違いだ。

 電池交換では直らない問題であれば、オーバーホールや修理といった提案が返ってくる。電池交換より高額にはなるものの、不具合が小さいうちに対応できるのはメーカーに依頼するうえでの重要なポイントだ。