高級時計のブランドとして知られるオーデマ ピゲは、スイスの名門ブランドとして、その名声をほしいままにしている。そのフラッグシップ・コレクションといえばロイヤル オークだ。その魅力を改めて探ってみよう。
オーデマ ピゲとは
腕時計ファンなら、オーデマ ピゲの名を知らぬ者はいないだろう。その洗練されたデザインと高い実用性で、世界のセレブやエグゼクティブに多くの愛好者が存在する。
気品に満ちた仕上がりは眩いほどの輝きを放ち、高貴な雰囲気すら漂わせている。
スイスで産声を上げたオーデマ ピゲが、時計界の最高峰に君臨するまでの経緯をたどってみよう。
世界3大時計ブランドのひとつ
オーデマ ピゲは、単に広く名の通った時計ブランドというだけではない。最高のステータスを手にしている数少ないブランドのひとつである。その信頼度は極めて高く、世界の時計好事家からの評価も絶大だ。
パテック フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタンという時計ブランドも耳にしたことがあるだろう。オーデマ ピゲは、それらとともに世界3大時計ブランドに名を連ねる名門なのである。
オーデマ ピゲの歴史
オーデマ ピゲはスイスのジュラ山脈にあるル・ブラッシュという町で1875年に創業した。そして、現在も同所に拠点を置き、145年以上に渡ってオーデマ家、ピゲ家両家による家族経営を守りながら歴史を重ねている。
同社の歴史は、ふたりの天才時計師によって始まった。時計師の家に生まれ、天才技師と称されたジュール=ルイ・オーデマと、幼馴染みで営業力や経営面に秀でた能力を持っていたエドワール=オーギュスト・ピゲだ。
19世紀後半、時計界は複雑機構を搭載した懐中時計ムーブメントの開発にしのぎを削っていた。そんななか、1899年にオーデマ ピゲが発表したのが「ユニヴェルセル」だ。
オーデマ ピゲの高い技術と芸術性を兼ね備えた画期的モデルとして世界を驚かせた。
創業者ふたりの引退後も、同社の技術開発への情熱は途絶えることはなかった。特に懐中時計の薄型化の追求は、後の腕時計界における最高峰のポジションを獲得する礎となった。
オーデマ ピゲの時計製作
オーデマ ピゲの腕時計作りには、独自の理念が通底している。どんなに時代が移り変わろうとも、揺らぐことのない時計作りへの強い姿勢に、多くのファンが魅了されるのだ。
同社の時計は、いまなおすべてフリーハンドによるスケッチから誕生するという。時計デザイナーはアーティストである。だが芸術性のみに捕らわれることなく、ムーブメントがもたらす技術的制約についても熟知しているアーティストであり技術者なのだ。
それはCGを活用する現代においても同じだ。スケッチが最新の技術で数値化されていっても、ムーブメントというアナログの極みに集約されていくなかで、最高の時計へと昇華されていく。
その実現を支えるべく、各パーツは熟練した職人の手作業によって作られている。そして、それらを組み上げるのも職人だ。
そのようなプロセスを経て、デッサンから実に1カ月以上、時に年単位の歳月をかけて1本の時計が作られていくのである。
オーデマ ピゲの特徴
オーデマ ピゲが時計界の最高峰に君臨している理由は、歴史によるものだけではない。単に時計メーカーとしての期間だけなら、同社と肩を並べる歴史を持つブランドはいくつもある。
オーデマ ピゲが各界から惜しみない賞賛を贈られる理由は、その圧倒的な技術力と比類なき完成度にある。その実績に対し、現在のオーデマ ピゲへの高い評価になっているのだ。
ミニッツリピーター
オーデマ ピゲの技術力を世界に示し、一瞬でその名を広めることを成功させたものが「ミニッツリピーター」だ。1892年に同社が初めて腕時計に搭載することを実現させた機能である。
時刻を音で知らせる、それがミニッツリピーターの役割だ。現代では日常的に使われることがない機能だが、19世紀後半にあっては最先端の技術が求められるものであった。
ひとつひとつのパーツを極限まで小型化し、かつ精密に組み立てるその工程は、世界最高水準の職人技なくしては到底成しえない。
このミニッツリピーターは「パーペチュアルカレンダー」、そして後述する「トゥールビヨン」と並び、世界3大複雑機構と呼ばれている。
自動巻きトゥールビヨン
ミニッツリピーターに続き、時計界はまたオーデマ ピゲによって衝撃を与えられることとなる。それが1986年に発表された、世界初の「自動巻きトゥールビヨン」だ。
トゥールビヨン機構そのものはアブラアン-ルイ・ブレゲ(1747-1823)による発明だが、自動巻きにすることに成功したのはオーデマ ピゲが世界初とされている。
トゥールビヨン機構は、調速機と脱進機を回転させることによって重力の影響を極力小さくし、精度を向上させようというもので、トゥールビヨン機構と自動巻きのローターのスペースの関係などの理由で手巻きしか存在していなかった。
自動巻きトゥールビヨンの発表は、オーデマ ピゲの高い技術力を世界に知らしめることとなったのである。
SS(ステンレススティール)モデル
オーデマ ピゲが世界を驚かせたのは技術面だけではない。1972年もまた、同社によって腕時計の歴史が変わったといわれる年だ。この年、オーデマ ピゲはケース素材にステンレススティールを使用した「ロイヤル オーク」を発表。業界にインパクトを与えたのである。
当時の高級腕時計といえば、ゴールドをはじめとする貴金属を用いて、美しい曲線を描く形状で製作されることが一般的だった。しかし同社は、ステンレススティールを使用したモデルを発表したのだ。
耐久性に優れたステンレススティールを採用することは、それまでの“高級”の概念を打ち破ることへの挑戦であった。このチャレンジは“ラグジュアリースポーツウォッチ”という新たなジャンルを創出。現在の「ロイヤル オーク」の成功に繋がることとなる。
オーデマ ピゲの主なコレクション
世界の時計ファンを魅了し続けるオーデマ ピゲ。主力コレクションそれぞれの特徴は、異なる輝きを放ち、多くのファンを魅了している。コレクションを見てみよう。
ロイヤル オーク
かつてスポーツウォッチには、堅牢さゆえの重量感が無骨というイメージが付きまとっていた。ゴージャスで美麗なスポーツウォッチを作り上げることは困難を極めていたのである。
その常識を打ち破ったコレクションが「ロイヤル オーク」だ。スポーティーでありながらも洗練されたデザインで、高級時計の新たな分野を切り拓いて見せたのだ。
発表当初は、必ずしもその評価は高いものではなかった。ステンレススティールという素材や直径39mmというサイズ感を含め、高級というイメージとマッチするには、世間の感覚がオーデマ ピゲの感性に追い付くまで待たなければならなかったということだろう。
それだけ、デザイナーであるジェラルド・ジェンタ(1931-2011)の発想は先進的であった。現在では、ロイヤル オークがスポーティーな高級腕時計の頂点に君臨する時計であることに誰も異論を口にしない。
ロイヤル オーク オフショア
ロイヤル オークの世界的ヒットを受けて、オーデマ ピゲは1993年、新たなコレクションを追加した。それが「ロイヤル オーク オフショア」である。
ロイヤル オークより大きい42mmというサイズを提案。その後のラージサイズブームを牽引することになる。
より男性的に、よりパワフルに進化したロイヤル オーク オフショアは、ラグジュアリースポーツウォッチの新たな境地を開いた。オフショア(沖)の名を背負うとおり、ボリューム感溢れるケースは高い防水性を有している。
同コレクションをデザインしたエマニュエル・ギュエは、当時まだ22才という若さでの抜擢だった。ロイヤル オーク オフショアは、後にクロノグラフとダイバーというふたつのシリーズへと発展していくこととなる。
CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ
1993年の「ロイヤル オーク オフショア」、1995年の「ミレネリー」の両コレクション発表から20年以上を経て、2019年のSIHHで、初めてその姿を現した新しいコレクションが「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ」(以下「CODE 11.59」と表記)だ。
CODEとは挑戦(Challenge)、継承(Own)、追求心(Dare)、進化(Evolve)の頭文字、11.59とは日付が変わる1分前を意味する。
ダイアルデザインはオーセンティックだが、現代の精密加工技術を盛り込んで製作されたサファイアクリスタル風防や複数のパーツから構成されたケースは、まさに唯一無二といっていい独自性を見せる。そこから改めてCODEの4つの言葉を見れば、オーデマ ピゲのこれまでの歴史、そして将来を見ることができる。
新コレクションは既存のファンのみならず、新たなオーデマ ピゲファンを開拓し、瞬く間に人気となっている。
現在、オートマティックをはじめ、クロノグラフ、パーペチュアルカレンダー、ミニッツリピーター、トゥールビヨン、フライングトゥールビヨンといったオーデマ ピゲの実力を魅せる複雑機構モデルがラインナップしている。