2019年12月掲載記事
時計の賢人たちの原点となった最初の時計、そして彼らが最後に手に入れたいと願う時計、いわゆる「上がり時計」とは一体何だろうか? 本連載では、時計業界におけるキーパーソンに取材を行い、その答えから彼らの時計人生や哲学を垣間見ていこうというものである。今回話を聞いたのは、奈良の時計店の3代目を継ぎ「カサブランカ奈良」を立ち上げた、株式会社アイエス代表取締役社長の乾真一氏だ。乾氏が挙げた原点時計はロレックス、「上がり時計」はパテック フィリップである。その言葉を聞いてみよう。
乾 真一
株式会社アイエス 代表取締役社長
奈良市生まれ。神戸大学卒業後に東京の大手スポーツウェアブランドへ就職し、広報宣伝部で約10年間キャリアを積んだのち帰寧。1992年、32歳で株式会社アイエスへ入社。2001年に現職へ就任し、先代から百貨店の時計売場テナント業を継ぐと同時に、路面の腕時計専門店「カサブランカ奈良」をオープンさせる。なお同社は1920年代に創業した「乾時計店」初代が東京の時計店で丁稚奉公を経て時計卸売りを始めたことに由来する。
●カサブランカ奈良 公式ウェブサイト https://www.tokeinara.com/
原点時計はロレックス「オイスター パーペチュアル エクスプローラーII」
Q. 最初に手にした腕時計について教えてください。
A. 子供の頃に手にした最初の時計は、父親から譲ってもらったものだと思いますが、具体的にはよく思い出せません。自分で初めて購入した時計として話しますと、まず最初はセイコー「プレザージュ」の白ダイアルモデルでした。東京から奈良へ戻り、時計屋の家業を継ぐ決心をしたときに購入した1本です。ですが、今回はこれに次いで購入し、今も愛用している時計としてロレックス「オイスター パーペチュアル エクスプローラーII」を挙げます。憧れの登山家、ラインホルト・メスナーが着用していたと知り購入しました。彼は視認性を求めて白ダイアルを着用していたようですが、私は好きな黒ダイアルモデルを選びました。堅牢さゆえに気兼ねなく使えるのがロレックスの良さだと思います。余談ですが、実用性の高い時計を生み出す点において私はグランドセイコーとロレックスが優れたブランドだと考えています。それぞれ「最高の味噌汁と最高のスープ」と例えられますでしょうか。エクスプローラーIIは今も、休日など気を休めたい時に着けています。
「上がり」時計は、パテック フィリップ「クロノグラフ Ref.5170P」
Q.いつしか手にしたいと願う憧れの時計、いわゆる「上がり時計」について教えてください。
A. 実用性の高さという点において、腕時計は装着感の良さが必須だと思います。大きく目立つ時計も一見すると格好良く欲しくなるのですが、やはり長く使える時計とは自然と着け心地のよいものになっていきます。パテック フィリップが愛される理由のひとつは、そこにあると思います。ノーチラスのステンレススティールブレスレットには20種類以上の研磨が組み合わされる事実などが仕上げへの厳しい姿勢を表しているでしょう。そんなパテック フィリップから、私はこれ以上ないと思う時計に出会うことができました。「クロノグラフ Ref.5170P」です。ブルーからブラックへ変化する色味のダイアルとダイヤモンドの組み合わせの美しさに飽きることがありません。人生初めてのダイヤモンドウォッチですが、遠目にはバーインデックスに見えるほどのさりげなさも気に入っています。何より、グランド コンプリケーションと同様に二度組みがなされていることに心がくすぐられました。この先これ以上の時計に出会うかは分かりませんが、今の私にとっては間違いなく、生涯愛せる1本です。
あとがき
「カサブランカ奈良」のブランド紹介ブログ、中でも乾氏が綴る「パテック フィリップに夢中」は読み応えがある。聞くと、1839年の創業年からのパテック フィリップの歴史を乾氏流に要約し、紹介しているのだという。乾氏は取材の合間に、パイプ煙草愛好家アンリ・スターンの在りし日の1コマを筆者に話してくれた。その語り口に往時の情景がありありと目に浮かぶようだった。悠久の時が流れる万葉の地で、またその続きを聞いてみたい。
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