ランゲ本社CEO、オデュッセウスを語る
復興25周年を祝うべく、さまざまな限定モデルを発表してきた2019年のA.ランゲ&ゾーネ。同社はそのメモリアルイヤーのラストを飾るべく、今秋、09年以来となる新しいコレクション「オデュッセウス」を導入した。
そして今回、A.ランゲ&ゾーネ初のステンレススティール製ラグジュアリースポーツモデルであり、一体型ブレスレットと新規開発の自社製ムーブメントを搭載したこの新コレクションについて同社の本社CEO、ヴィルヘルム・シュミット氏に話を聞く機会を得た。
ザクセンのマニュファクチュールが送り出した、ツァイトヴェルク以来となるプロダクトファミリーについて同氏はこう語る。
A.ランゲ&ゾーネ CEO。1963年ドイツのケルンに生まれる。アーヘン大学で経営学を学んだ後、オイルメーカーのBPカストロールを経て、BMWに8年間在籍。その間、2007年から10年までの約3年間、南アフリカにおけるBMWのセールス&マーケティング責任者として手腕を発揮。それが評価され、本社のボードメンバーにも抜擢される。2011年よりA.ランゲ&ゾーネのCEOに就任する。
WatchTime(以下WT):オデュッセウスは最初から、復興25周年記念の年に発表されると決まっていたのですか?
ヴィルヘルム・シュミット(以下シュミット):今回の周年記念に何か特別なことをしないといけないと、はっきりと思っていました。そしてそのタイミングは2019年10月24日、A.ランゲ&ゾーネが最初の4本の新作を発表してから25周年にあたるその日であると。
WT:ランゲはトレンドを追うブランドではなく、顧客の意見に耳を傾けるブランドだと思います。近年コレクターの方々からどのような声を聞き、それが「スポーツエレガンス」な時計を発表する時期であると思わせたのでしょうか?
シュミット:よりカジュアルなシーンでの着用が可能なステンレススティールの時計に関するアイデアは、(ウォルター・ランゲとA.ランゲ&ゾーネを再興した)ギュンター・ブリュームラインにさかのぼります。1994年に新作4本を発表したあと、さまざまな時計を開発してきましたが、ツァイトヴェルクを発表した2009年以降、新ファミリーの発表はありませんでした。そのため、既存モデルのスケッチからの転用はなく、新しい顔、他にはない全く違うものを作り出す必要がありました。今回の新作開発にあたり、これでいこうという正しいアイデアにたどりつくには時間がかかり、もちろん工房の職人たちとも、それが防水性能その他の面にわたって実現可能かという話し合う必要もありました。そのため、数々のトレンドの中にある現在のラグジュアリースポーツについては時間を取って研究してきましたが、最後の方にはかなり時間的にタイトな状況となりました。
自動巻き(Cal. L155.1 DATOMATIC)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約50時間。SS(直径40.5mm、厚さ11.1mm)。120m防水。310万円(税別)。2020年3月までは全世界のA.ランゲ&ゾーネ ブティックのみで展開予定。
WT:求めるものは、アーカイブの中にはなかったという事でしょうか?
シュミット:ありませんでした。アーカイブは懐中時計の時代からのものが大半であり、当時の時計は防水性能やカジュアル性につながるものはなかったからです。残念ながらイチから始めるしかありませんでした。
WT:どのようにしてオデュッセウスという名前は決まったのですか? 他のファミリーに比べると明らかにドイツ風な名前ではありませんが。
シュミット:デザイン案の数と同じくらいの数の名前を検証しました! 商標登録ができ、意味のある、全世界的に共通する名前を見つけるということが、どれほど困難かは想像を上回ります。ご存知のように多くの方が、私達のブランド名を発音するのに苦労します。もし今回も難しい名前を付け加えるとすると、世間へ認知されるためのハードルは一層高くなったでしょう。ギリシャの英雄、オデュッセウスをご存知ならば、彼は強くたくましいというより、非常に賢く、活力にあふれ、必ず生還する人物だと思われるはずです。そこが私達のモットー、「決して立ち止まらない」というところにつながるのです。今回のコレクションに創業者であるフェルディナント・アドルフ・ランゲのいとこや叔父の名前を付けることはできましたが、でも名前として面白みがないでしょう?「ランゲ2」というわけにもいきません。結果として今回の名称は、完璧であったと思います。
WT:開発されたオデュッセウスは時分針とスモールセコンド、独特のデイ・デイト表示を備えています。クロノグラフなどのコンプリケーションを追加するというディスカッションはあったのでしょうか?
シュミット:今回の最大の難関は、全く新しいファミリーの顔を創り出すということでした。そのため最初から、次のステップ、その先に来るステップを常に考える必要がありました。新生A.ランゲ&ゾーネのスタート時にはランゲ1ファミリーは"ランゲ1"の1型しかありませんでした。今年はその派生バージョン10モデルで復興25周年を祝いますが、この10モデルを全てテーブルに並べてもはっきりと全てがランゲ1ファミリーだと分かるでしょう。デザイナーが最初から強いデザイン力をもった新コレクションをどのように確立するかを考えなければ、後でそれを考えようとしても無理でしょう。
WT:(アメリカにとっては)一般的ではない、2文字の曜日表示は議論があるところです。月曜日について、なぜMONではなくMOとされたのかお聞かせ願えますか?
シュミット:理由は視認性と対称性です。デイト表示を長くすると、文字のひとつひとつが小さくなり、視認性が下がります。視認性はランゲのカレンダー表示で、最も注力している部分です。また、反対側にある日付表示もふたつの数字で表されているため、バランスがとれています。片側が3文字、反対側が2文字では美しく見えません。
WT:今回のような新作が発表されると、一体型ブレスレットについて分析する関係者が多いと思います。このブレスレットのデザイン的外観について、どれくらい社内協議が行われましたか?
シュミット:メタルのブレスレットには3タイプしかないと個人的には思います。細かい線の入ったミラネーゼ、3連、または5連です。その他のブレスレットについては、これらのいずれかを焼き回ししたものにすぎません。私達にとって一番重要であったのは、装着感の良さでした。擦れず、調整がしやすく、デザイン的に流れるように幅が広い部分から狭くなっていくものを想定していました。そしてもちろん、ポリッシュ仕上げとサテン仕上げが、ランゲに求められる水準で施されているものでした。
WT:オデュッセウスには、防水性能を持つランゲ初のねじ込み式リュウズが採用されていると同時に、通常モデルとしては同社初のステンレススティールケースです。他にも、ランゲ初の要素がありますか?
シュミット:2万8800振動/時というハイビートで動く新ムーブメントです。他の時計の振動数は2万1600振動/時または更にロービートとなっています。この理由はオデュッセウスが、よりタフな環境に置かれることを想定しています。子供と戯れる、浜辺へ行く、プールで遊ぶ、スキーをするなどです。このようなアクティビティには、ハイビートの方がロービートより適していると考えての変更です。また今回はクラシカルなバランスコックを取り去り、より堅牢なテンプ部分のブリッジを採用しています。オデュッセウスはカジュアルに着用できることを考えて、作られた時計です。装いがカジュアルであれば、行動もカジュアルになる。結果として、時計もそのような環境にさらされるということです。
Contact info: A.ランゲ&ゾーネ Tel.03-4461-8080