鈴木幸也(本誌):取材・文 Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
現代の〝ブレイク・ザ・ルール〟CODE 11・59
この秋、オーデマ ピゲが東京ミッドタウンで開催した「時計以上の何か」展。そのオープニングにスイスから駆け付けた同社のジャスミン・オーデマ会長に、「時計以上の何か」についてうかがった。
1941年、スイス・ローザンヌ生まれ。オーデマ ピゲ創業者のひとり、ジュール=ルイ・オーデマの曾孫。創業家が経営に携わる数少ない“リアルメゾン”。16歳でル・ブラッシュを離れ、ローザンヌ、続いてジュネーブの学校に進学し、経済と経済歴史学を専攻。その後、ジャーナリストとしてキャリアをスタート。70年に『Le Temps』の前身の日刊紙の副編集長、80年に編集長に就任。87年より、オーデマ ピゲのボードメンバーに名を連ね、92年に父親の後を継ぎ、取締役会長に就任。
「オーデマ ピゲの時計作りは卓越した職人技によって支えられています。そして、職人技とアートはとても親和性が高いと考えています。だからこそ、アート・バーゼルとのパートナーシップの話が持ち上がった時、真剣に考えました」
同社は2013年から、アート・バーゼルのグローバル・アソシエイトパートナーを務めている。注目すべきは、若手アーティストの支援である。しかも一方的にアーティストを支援するのではなく、アーティストの側もオーデマ ピゲの文化的、地理的原点を理解し、両者協力の下、アート作品とそれを展示するスペースを表現するのだ。
「アーティストとコラボレーションするために、まずは彼らを本社のあるル・ブラッシュに招きます。そこで数日を過ごすうち、彼らは周囲の山々や渓谷、森に触れることで、さまざまな発見をするでしょう。そして、彼らのレンズを通して、オーデマ ピゲを見て、表現してもらうのです」
〝ブレイク・ザ・ルール〞を哲学とする同社にとって、アートからの発見は時計業界では得られない多くの閃きや刺激を与えてくれるだろう。彼女の考える〝ルール〞とは何だろうか? 彼女は言う。〝ルール〞とは思想であり、道を探していくときの指針であり、同時に独立精神である、と。「1972年に発表したロイヤル オークがそもそも当時の〝ブレイク・ザ・ルール〞だったのです」。同社が常々謳うように「型ありきの型破り」。ゴールド製のドレスウォッチがスタンダードだった当時、ステンレススティール製の直径の大きなロイヤル オークは、まさに〝ブレイク・ザ・ルール〞そのものであった。しかし、外装やムーブメントの仕上げなど、ジュウ渓谷の職人技によって研ぎ澄まされ、〝鉄〞とは思えない輝きをまとっていたのだ。
「その意味で2019年に発表されたCODE11・59は現代の〝ブレイク・ザ・ルール〞と言えるでしょう」。彼女は説明する。いつの時代もクラシックな丸型の時計に興味を持つカスタマーは一定数いる。同時に、コンテンポラリーなデザインも常に求められている。このふたつの要素を併せ持ったのがCODE11・59なのだと。
「この時計にはロイヤル オークで培ったヘアラインとポリッシュの卓越した技術を投入しました。かつて〝型破り〞であったロイヤル オークと同様、これはとても魅力的で素晴らしい挑戦なのです」
八角形のミドルケースに細身のラウンドベゼルを組み合わせたコンテンポラリーなデザインに、ロイヤル オークで熟成されたポリッシュとヘアライン仕上げの組み合わせが特徴。これは自動巻きフライングトゥールビヨンを搭載し、スモークブルーエナメルダイアルを備えたコンプリケーション。自動巻き(Cal.2950)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KWG(直径41mm、厚さ11.8mm)。30m防水。時価。