鈴木幸也(本誌):取材・文 Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
世界最高峰の時計作りを支えるメンテナンス最前線
パテック フィリップ ジャパンのサービスセンターが一層拡充された。そのプレス披露に合わせて来日した本社のインターナショナル・カスタマーサービス・ディレクターのフランソワ・バウダーに、メンテナンス体制の最新事情を聞いた。
1967年、スイス生まれ。スイス連邦工科大学ローザンヌ校でマイクロエンジニアリングを専攻。卒業後、スイスの主要な時計メーカーにおいて国際カスタマーサービス業務に携わる。2016年、パテック フィリップのインターナショナル・カスタマーサービスのディレクターに就任。スイスの時計職人をトレーニングする教育プログラム「WOSTEP」の副会長も兼任。
「日本のサービス体制は本社の望む高いレベルにあります。スイス以外では、最も高いレベルにあると言えますね」と彼は言う。具体的には現在、日本で年次カレンダーや永久カレンダーまでメンテナンスが可能だという。「スイス以外で修理できる一番上のレベルまで、ここでは取り扱っています」。
同社のメンテナンス体制は、スイス国内外でどう分担されているのだろうか?「高度な複雑時計になるほど経験もトレーニングも必要になります。そのため、スイス本社で時計師の定期的なトレーニングを行っており、少なくとも年1〜2回の集中的なトレーニングを受けています。永久カレンダーは最短でも5〜6年かかります」
では、同社が一部モデルに採用しているシリコンパーツ。他社ではメンテナンスは本国送りという話も聞くが、パテック フィリップはどうなっているのか尋ねた。
「従来の部品と同じように、新素材の部品もローカルで扱えるように供給され、時計師も訓練を受けています」
新素材であっても、それぞれの国で対応できる体制がすでに敷かれているとは、さすがに抜かりがない。さらに、パテック フィリップの本社では、一部の特殊なモデルを除いて基本的にすべてのオールドピースの修復やメンテナンスが可能だというが、その方針に変わりはないのだろうか?
「もちろんです。1839年の創業以来、我々が作ってきた時計については、たとえ創業年に作られた時計であっても、いまだに日常的に受け入れています。我々がこれまで作ってきた時計に関するすべての情報や図面などの記録は保存されていますし、それらが作られた当時の部品がスペアパーツとして今も在庫されています」
すなわち今後、シリコンなどの新素材製の部品も、例えば100年後にもメンテナンスできるように取っておくのだろうか?
「作ったものに関しては、アフターセールスサービスがすべて受けられるというのが、我々の〝社是〞なので、これは変わることなく常に視野に入れられています」
本社もローカルもまさに完璧な体制だ。これほどのパテック フィリップで働く時計師に求められる資質とはいかに?
「最初に情熱、次に高い技能、最後に忍耐力。技能を修得するためにかかる長い時間を辛抱できる忍耐力が必要です。求めるものに際限はないので、きりがありませんが」
2019年9月28日~10月13日にシンガポールで開催された「パテック フィリップ・ウォッチアート・グランド・エグジビション」において発表されたミニッツリピーターとトゥールビヨンを搭載したグランドコンプリケーション。オープン構造を採用することで、初めて文字盤側からチャイム機構のハンマーとゴングが動く様子を鑑賞できるようになった。手巻き(Cal.R TO 27 PS)。18KRG(直径42mm)。非防水。世界限定12本。時価。