新技術・新機構クローズアップ
ここ数年のバーゼルワールドで、一段と気を吐いていたスウォッチ グループ。その旺盛な開発力は、今年のTIME TO MOVEも同じだった。読者の中でも話題になったCal.3861に加えて、注目すべきムーブメントと外装技術のいくつかを詳説したい。
Cal.3861
名機Cal.861に1万5000ガウスの耐磁性能を与えたムーブメント。脱進機はスイスレバーからコーアクシャルに変更されたほか、ヒゲゼンマイがシリコンに、テンプも緩急針を省いたフリースプラングとなった。精度は日差0秒~+5秒。驚くべきムーブメント。手巻き。26石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。
スウォッチ グループ、リシュモン グループ、LVMHグループ。この3大グループの中で、最も開発力があるのはスウォッチ グループだろう。まずハイエンドのブランドで試験的に新しい試みを導入し、量産に成功した後、普及品に技術を転用する。こういった手法は、他グループの追随を許さない。
今年のタイム・トゥ・ムーブでは、そんな新製品と技術の数々を見ることができた。まずは、オメガの導入したキャリバー3861から。ベースとなったのは、1968年に完成したキャリバー861と、その後継機にあたる1861である。これは、おそらくカム式のクロノグラフとしては世界で初めてブレーキレバーを備えたキャリバーである。以降、カム式のクロノグラフは例外なくブレーキレバーを備えるようになり、コラムホイール式との機能面での差はなくなった。今年、オメガはこの傑作ムーブメントのマスター クロノメーター化に取り組んだ。開発を担当したグレゴリー・キスリングはこう説明する。
「ムーブメント部品の大半は結局交換した。そのうち、耐磁性能を高めるためだけに替えたのは15パーツだ。また精度も改善した。既存のムーブメントは日差がマイナス1秒〜プラス11秒。対して新しい3861は0秒〜プラス5秒以内だ」。テンワの慣性モーメントは24㎎・㎠。ロービートとはいえ、現行量産機としては最大級のひとつだろう。
併せてパワーリザーブも延長された。「香箱真を細くすることで、長いゼンマイを詰められるようになった。クロノグラフ作動時でもパワーリザーブは約50時間、非作動時は60時間以上ある」という。CEOのレイナルド・アッシェリマンは、まだ量産化へのハードルは高いと説明したが、今後の量産化が待ち遠しい。
ムーブメント
秒停止機構、ゼロリセット、ミニッツデテントを備えた、世界初のフライングトゥールビヨン。時刻合わせの際はリュウズを引き出すと、垂直クラッチが作動し、キャリッジとテンプがロックされる。さらにリュウズを引くと、秒針が時計方向にゼロ位置まで進み、分針も次のインデックスちょうどまで進む。キャリッジを帰零させるのは「回転ダンパー」。おそらくは別の動力源と、ガバナーを備えているはずだ。手巻き。85石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約70時間。
見るべきムーブメントは他にもある。「セネタ・クロノメーター・トゥールビヨン」のキャリバー58-05は、リュウズを引くとキャリッジ全体がゼロリセットするムーブメント。A.ランゲ&ゾーネの「1815 トゥールビヨン」はリュウズを引くと秒針だけリセットするが、こちらは別動力がキャリッジを回転させ、秒針とともに帰零する。特許申請中に付き詳細は明かせないとのことだが、グラスヒュッテ・オリジナルらしいメカニズムだ。ちなみにこのムーブメントは、分針と秒針の位置を完全にシンクロできる。
ジャケ・ドローのキャリバー2653A2は、四季と生命の流れを4分間オートマトンで示す大作。4つの蓮を描いた回転ディスクには鯉が取り付けられ、その軸が波状のガイドに当たることで、鯉が尾びれを振る。また、回転する蓮の中心にはブルーサファイア、イエローサファイア、そしてレッドルビーが取り付けられており、これ自体も回転する。外部サプライヤーの手を借りたと思いきや、ブランパンとの共同開発とのこと。
今やブレゲの基幹トゥールビヨンキャリバーとなった581。これをスケルトン化したのが本作である。全面に面取りが施されるほか、受けの一部にはマイクロギヨシェが施される。地板と受けは18Kゴールド製。ブレゲ曰く、「採用はマリー・アントワネット以来初」とのこと。自動巻き。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。
ブランパンと共同開発した4分間オートマトン。写真は蓮の中心に固定される貴石。文字盤と2枚の葉の下を蓮がくぐり抜けるたびに、石はブルーサファイア、イエローサファイア、そしてレッドルビーと変わっていく。なお、ディスク自体はかなり重いが耐衝撃装置を備えている。56石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約68時間。
外装
外装で見るべきは大きくふたつ。「シーマスター プラネットオーシャン」は、ベゼルにオレンジセラミックスを採用した。セラミックスでこういった色を出すのは不可能とされてきたが、オメガは実に鮮やかな色味を与えた。また、ブランパン「フィフティ ファゾムス」が採用したチタンケースは、地味ながらもかなり良質だ。「バチスカーフ」のチタンケースは角の処理などが今一歩だったが、本作は他社の優れたチタンケースに比肩する。