MB&F(時計愛好家の多くはマキシミリアン・ブッサー&フレンズの略だとご存じであろうが)は、世界でも指折りの時計職人を集めてブランドの資産を形成してきた。2019年に発表された「レガシー・マシン サンダードーム」もその例外ではない。この野心的なタイムピースは独自の新メカニズムによる3軸トゥールビヨンを備えただけでなく、時計師エリック・クドレとカリ・ヴティライネンの初めての共作なのである。
Text by Mark Bernardo
世界的時計師、エリック・クドレとカリ・ヴティライネンによる贅沢なコラボレーション
「レガシー・マシン サンダードーム」、その要は、ジャガー・ルクルトのジャイロトゥールビヨンを初めとする数々のコンプリケーション開発に携わったクドレによる3軸トゥールビヨン機構「TriAx」である。従来のトゥールビヨンに代わって採用されているが、ずっと扱いにくい代物だ。これは3軸回転する脱進機に2ケージのみを関連付ける必要最低限な構造によって、鼓動を打つサンダードームの心臓部を最大限に可視化させたものである。ドーム型のサファイアクリスタル製風防内でTriAx機構が駆動する様子が、SF映画のような名前をもたらした。ローマ数字のインデックスを採用した文字盤は6時位置にあり、青焼きの時分針が備わっている。
ムーブメントの香箱から伝達されるエネルギーを制御するため、MB&Fとクドレは19世紀に活躍した時計師アルバート・H・ポッターの名に由来するポッター脱進機を採用。これは一般的な可動式のガンギ車ではなく、固定式のガンギ車を使用した珍しい脱進機である。3軸回転機構に固定式ガンギ車の組み合わせは、これまでに例がない。これにより、さらに高速でケージを回転させることが可能となった。なお最も内側のケージは8秒に1回転、中間のケージは12秒に1回転、最も外側のケージは20秒に1回転するようになっている。この全てが文字盤を、視覚的にダイナミックな時計のタブローとし、よりこれを引き立てるように半球状の脱進機や、それが内包するらせん状のヒゲゼンマイが配されている。驚嘆に値するのは、複数の軸からなるこの構造が1グラムをわずかに下回るくらいの重量しかないことだろう。
目まぐるしい速さで回転する文字盤側に比べ、シースルーバックから鑑賞可能なムーブメントには、ヴティライネンの職人技が誇らしげにその姿を見せている(もちろん青文字盤に施されたサーキュラーギヨシェ装飾も、ヴティライネンの手によるものである)。クドレとヴティライネンは前例のない技術と装飾の組み合わせを、緊密に協力することで成し遂げた。MB&Fの時計では初めて、ヴティライネンが得意とする仕上げ技巧をムーブメントのラチェットホイールに施したのである。これは自身の工房で特殊な工具を使って行われるもので、外部には公表されていない。そして手作業で面取りを施した内角と、鏡面仕上げの曲線が施された、なめらかな丸みを帯びたブリッジが表現する優美な「静寂」と、文字盤側の疲れを知らずに回転し続けるケージによるとどろく「雷鳴」がコントラストを成すのである。
「レガシー・マシン サンダードーム」は、ライトブルー文字盤のプラチナモデルの他、アワーグラス限定モデルとして世界限定10本のみタンタルモデルを発表した。このうち5本はダークブルー文字盤仕様、残り5本はアヴェンチュリン文字盤仕様という構成となっている。