2020年はシーンにおいて実に興味深い年になりそうな予感がするが、いま一度、2019年に発表された時計を振り返ってみたい。今回は、高級時計のカテゴリーでもとりわけ注目されるトゥールビヨンのなかから厳選した10モデルを見ていきたい。
Text by Mark Bernardo
Edit by Yuzo Takeishi
アーノルド&サン
アーノルド&サンの「タイム・ピラミッド トゥールビヨン」は、ブランド名にも冠されている18世紀の英国人時計師ジョン・アーノルドが製作したレギュレーター・クロックに着想を得たモデル。スケルトン加工が施されたキャリバーA&S8615を搭載し、このピラミッド形のトゥールビヨンが2枚のサファイアクリスタルの間に浮かんでいるように見えるものだ。時計は、トゥールビヨンとふたつのパワーリザーブ表示(しかも、驚異の約90時間)、そしてサファイアクリスタルのディスクにアワーインデックス、ロジウムプレートのリングにミニッツトラックを施したダイアルという3つの機能で構成。6時側に設けられたリュウズで巻き上げを行う手巻き式で、6時位置にあるふたつの香箱から12時位置のトゥールビヨンまで輪列が連なっており、バランスホイール、香箱をはじめ、各種歯車がダイアル正面から鑑賞できるように設計されている。「タイム・ピラミッド トゥールビヨン」は直径44.6mmのラウンドケースを採用し、18Kレッドゴールド(写真)とステンレススティール・ケースの2種類をラインナップ。それぞれ28本の限定本数となっている。
手巻き(Cal.A&S8615)。31石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約90時間。18KRG(直径44.6mm、厚さ10.09mm)。30m防水。世界限定28本。562万円(税別)。㉄アーノルド&サン相談室 Tel.0570-03-1764
ボヴェ
サファイアクリスタル製の「ライティングスロープ」型のケースを一連のコンプリケーションと融合させた「リサイタル 26 ブレインストーム チャプター ワン」によって、ボヴェの時計製造はさらなる高みへと到達した。特許取得済みのダブルフェイス・フライングトゥールビヨンが6時位置を広く占有して秒を表示し、ゴールドカラーの時分針はやや12時側のオフセンターに配置。その上に半球状のムーンフェイズがダイアルの曲面に沿うようにセットされ、表面にはエングレービングとスーパールミノバ加工が施されている。そして、ふたつの開口部から覗くアベンチュリンのプレートによって、星空のなかに浮かぶ月を驚くほどリアルに表現しているのだ。8時位置の丸い開口部にはビッグデイトを、また4時位置には10日間のパワーリザーブインジケーターをそれぞれ備えており、これらの表示は自社製の手巻きキャリバー17DM04-SMPが司っている。
手巻き(Cal.17DM04-SMP)。43石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約240時間。サファイアクリスタル×Ti(直径48mm、厚さ15.5mm)。30m防水。世界限定60本。3730万円(税別)。㉄DKSHジャパン Tel.03-5441-4515
ブレゲ
言うまでもなく、トゥールビヨンを発明したのはブレゲの創始者であるアブラアン-ルイ・ブレゲであり、その名を冠したブランドもまたトゥールビヨンを搭載したタイムピース開発のトップを担っている。「クラシック トゥールビヨン エクストラフラット スケルトン5395」は、スケルトン加工を施したダイアルによって技術力の高さをアピールしたモデル。ローズゴールドまたはプラチナをケースに用いたこの時計は、2018年発表の「クラシック トゥールビヨン エクストラフラット オートマティック 5367」でも採用されたキャリバー581から約50%の素材を削減したキャリバー581SQを搭載。ゴールドの地板とブリッジには、ムーブメントの構造が見えるようにスケルトン加工を、それ以外の部分には、先端にダイアモンドを付けた道具による手彫りギヨシェで繊細なクル・ド・パリ模様をそれぞれ施している。また、厚さわずか3mmのキャリバー581SQは外周にローターを備えることで、構造の美しさを遮ることなく約80時間のパワーリザーブを実現している点も特筆だろう。
自動巻き(Cal.581SQ)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KRG(直径41mm、厚さ7.7mm)。30m防水。2439万円(税別)。㉄ブレゲ ブティック銀座 Tel.03-6254-7211
ショパール
レディス・コレクションでジュエリーの専門家たちを絶えず魅了し、「ミッレ ミリア」でレース愛好家の琴線も刺激しているショパールだが、一方で創業者ルイ-ユリス・ショパールのイニシャルから名付けられたL.U.Cコレクションの特別なモデルでは、同社が長年にわたって培ってきた時計製造の技術力がしっかりと守り抜かれている。2019年の傑作「L.U.C フライング T ツイン」は同社初のフライングトゥールビヨンであり、自動巻きムーブメントを搭載した初のトゥールビヨン・モデルでもある。キャリバーL.U.C 96.24-Lには特許取得済みのL.U.C ツイン テクノロジーを採用しており、積載式の二重香箱によって約65時間のパワーリザーブを実現。そのムーブメントは厚さわずか3.3mmで、これがフェアマインド認証を受けた18Kローズゴールドに収められ、時計本体も厚さ7.2mmというスリムサイズをマークした。フライングトゥールビヨンのケージはもちろんのこと、ゴールドとアンスラサイトグレーを組み合わせたダイアルも、センターに配されたギヨシェ彫りのハニカムパターンによって一層引き立つデザインに仕上がっている。
自動巻き(Cal.L.U.C 96.24-L)。25石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KRG(直径40mm、厚さ7.2mm)。30m防水。世界限定50本。1355万円(税別)。㉄ショパール ジャパン プレス Tel.03-5524-8922
F.P.ジュルヌ
2019年に発表された「トゥールビヨン・スヴラン・バーティカル」は、フランソワ-ポール・ジュルヌの時計製作の歴史のなかでも特に重要とされる、ルモントワール機構搭載時計「トゥールビヨン・スヴラン」の誕生20周年を記念したタイムピースだ。直径42mmのケースを持ったこの新作のために、ジュルヌは一般的なトゥールビヨンのような1分間に1回転ではなく、30秒で1回転する垂直方向に設置されたトゥールビヨン・ケージとルモントワール機構、そしてデッドビート・セコンドを採用。この、垂直方向にケージを設置するメリットについてジュルヌは「時計がフラットでも横向きでもトゥールビヨン機構が安定する。つまり、ディプロイメントバックルのストラップにも、尾錠付きのストラップにも対応する」とコメントしている。クル・ド・パリのギヨシェが施されたローズゴールド製のブリッジがダイアルに彩りを加えるとともに、3時位置には時刻を表示するグラン・フー・エナメルのダイアル、12時位置には80時間のパワーリザーブ表示、6時位置にスモールセコンド、そして7時位置にルモントワール機構などが見て取れる。
手巻き(Cal.1519)。32石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KRG(直径42mm、厚さ13.6mm)。2650万円(税別)。㉄F.P.ジュルヌ東京ブティック Tel.03-5468-0931
後編は下記から
https://www.webchronos.net/features/40759/