思わず息を呑む、2019年発表の傑作トゥールビヨンを振り返る(後編)

FEATUREWatchTime
2020.01.26

2020年はシーンにおいて実に興味深い年になりそうな予感がするが、いま一度、2019年に発表された時計を振り返ってみたい。今回は、高級時計のカテゴリーでもとりわけ注目されるトゥールビヨンのなかから厳選したモデルを見ていきたい。

Originally published on watchtime.com
Text by Mark Bernardo
Edit by Yuzo Takeishi

グルーベル フォルセイ

 かつては熟練の職人によって行われていた作業が、機械に取って代わられている時計業界において、グルーベル フォルセイはクラフトマンシップにのっとった時計作りにこだわり続けてきた。こうした技術を守るべく、創業者のロベール・グルーベルとステファン・フォルセイは時計師フィリップ・デュフォーらと協力し、伝統的な手仕事を復活させることを目的とした「Naissance d’une Montre」プロジェクトを発足。グルーベル フォルセイは、その哲学を時間表示に特化したトゥールビヨン搭載モデル「ハンドメイド1」に込め、ヒゲゼンマイを含む時計全体の95%をハンドメイドで完成させた。ケース素材にホワイトゴールドを採用した直径43.5mmのこの時計は、1本を製作するのに6000時間(1人の作業で約3年)を要しており、ブランドの特徴である大胆にカットされたダイアルをはじめ、フロスト仕上げのブリッジやスモールセコンド、トゥールビヨンが組み合わせられている。グルーベル・フォルセイによると、「ハンドメイド1」の年産はわずか2〜3本とのことだ。

ハンドメイド1

グルーベル フォルセイ「ハンドメイド1」
手巻き。2万1600振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KWG(直径43.5mm、厚さ13.5mm)。3気圧防水。国内未入荷。


ハリー・ウィンストン

 フランス語の「Histoire de Tourbillon」は、おおよそ「トゥールビヨンの物語」と訳すことができるだろう。2019年、ジュエラーでありウォッチメーカーであるハリー・ウィンストンは好評のシリーズにおいて、第10弾となる新章を書き上げた。「イストワール・ドゥ・トゥールビヨン 10」は4つのトゥールビヨン・レギュレーターを搭載した初のコレクションで、ホワイトゴールド10本、ローズゴールド10本、そしてブランド独自のウィンストニウム合金製1本が展開される。縦39.1mm、横53.3mmの長方形ケースの四隅に完璧な対称を成して配置されたトゥールビヨンは、それぞれが反時計回りに36秒で1回転し、3つのディファレンシャルギアにつながっている。このような配置にした背景には、4つのレギュレーターをひとつに統合し、ムーブメントの重力から受ける作用を理想的な状態で相殺するという技術面でのアイデアがあるという。ケースはサファイアクリスタルの塊から切り出されており、中央の開口部の周囲にはアプライドのアワーマーカーが配されたチャプターリングをセット。そしてクリアで大きな窓を持ったダイアルからは、この驚異的な技術をじっくりと鑑賞することができるのだ。

イストワール・ドゥ・トゥールビヨン 10

ハリー・ウィンストン「イストワール・ドゥ・トゥールビヨン 10」
手巻き(Cal.HW4702)。95石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約55時間。18KWG(縦39.1mm、横53.3mm)。3気圧防水。世界限定10本。予価8825万円(税別)。㉄ハリー・ウィンストン クライアントインフォメーション Tel.0120-346-376


ジャガー・ルクルト

 2019年のSIHHで、ジャガー・ルクルトはマスター・コレクションにブルーダイアルのタイムピースを追加した。なかでも、時計製作の観点から特に野心的と感じられるのが、50本限定の「マスター・ウルトラスリム・トゥールビヨン・エナメル」。トゥールビヨンを搭載した自動巻きムーブメントに加え、デイト表示を新たにデザインしたモデルだ。ホワイトゴールド製のケースは、直径が40mmで厚さは12.13mm。手仕上げによるギヨシェが施されたブルーエナメルのダイアルには12時位置でデイトスケールが主張しており、こちらは針で日付を示すポインター方式を採用している。トゥールビヨンは6時位置の開口部だ。そしてスレンダーなドーフィンの時分針と、ファセット加工の細いマーカーによって、時計全体を均整の取れたルックスにまとめ上げている。サファイアクリスタルのケースバックから覗くのは、受賞歴もあるキャリバー978をアップデートしたキャリバー978F。しかも、地板とローターにはサンレイ仕上げを施しており、ジャガー・ルクルトとしても、トゥールビヨン搭載の自動巻きムーブメントでありながら「技術的にも外観も納得のいく」仕上がりになったという。

マスター・ウルトラスリム・トゥールビヨン・エナメル

ジャガー・ルクルト「マスター・ウルトラスリム・トゥールビヨン・エナメル」
自動巻き(Cal.978F)。35石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KWG(直径40mm、厚さ12.13mm)。5気圧防水。896万円(税別)。㉄ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833


MB&F

 最新作「レガシー・マシン サンダードーム」は、技術的、外観的ハイライトとして世界初の独自のトゥールビヨンを搭載しているだけではない。この作品は世界的時計師、エリック・クドレとカリ・ヴィテライネンによる初のコラボレート作でもある。クドレによって設計された「TriAx」は、3軸回転する脱進機に2ケージを組み合わせ、さらに固定された歯車を採用したポッター脱進機によって、3つのケージが高速で回転できるようにしたもの。この革新的な機構と、SF映画を彷彿とさせるネーミングの大きなドーム型サファイアクリスタルによって、トゥールビヨンが鼓動を打つ様子がじっくりと鑑賞できるようになっている。またヴィテライネンによる装飾は、ダイアルのサーキュラーギヨシェに表現されるとともに、MB&Fでは初めて、ラチェットホイールにも丁寧な仕上げが施されている。

レガシー・マシン サンダードーム

MB&F「レガシー・マシン サンダードーム」
手巻き。63石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約45時間。Pt(直径44mm、厚さ22.2mm)。30m防水。世界限定33本。27万スイスフラン。㉄https://www.mbandf.com/en


RJ

 「アロー・スパイダーマン・トゥールビヨン」は、常に斬新さを打ち出すウォッチメーカーとマーベルとのコラボレーション第2弾というだけではない。ジュネーブ湖畔にあるRJの工房で製作され、クモの巣をイメージした初の自社製トゥールビヨン搭載ムーブメントも話題となっている。RJではこのムーブメントに約150時間のロングパワーリザーブを付与したいと考え、エンジニアたちはオープンワークダイアルから覗く大部分を占めるほどの、大きな香箱をムーブメントの中心に設置。グレード5のチタン製トゥールビヨンケージは香箱の同軸上に配置され、クモの巣を想起させるオープンワークのデザインと、スパイダーマンのマスクをイメージさせるふたつの目も施されている。時分表示も従来とは全く異なり、トゥールビヨンの周りを360度周回する遊星歯車機構を採用。そして、スパイダーマンのコスチュームに描かれているクモの脚に着想を得た、2本の黒いルテニウム針によって時刻を示す、なんとも凝ったデザインに仕上げている。

アロー・スパイダーマン・トゥールビヨン

RJ「アロー・スパイダーマン・トゥールビヨン」
手巻き(Cal.RJ-7000)。29石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約150時間。ブラックカーボン&レッドグラスファイバー(直径45mm)。10気圧防水。1163万円(税別)。㉄オールージュ Tel.03-6452-8802