LʼEAU (青山) / この世ならぬ美味のクリエイター

2020.01.25

2019年秋、開業1周年を迎えたフランス料理店「Lʼ EAU」。店名に込めた思いを、料理、器、空間、すべてにおいて具現化した一軒は、すっと馴染むような心地よさがある。

外川ゆい:取材・文 Text by Yui Togawa
三田村優:写真 Photographs by Yu Mitamura

水 葉 土 樹

水 葉 土 樹
イクラ、青さ海苔、浅利の出汁をベジタブルゼラチンでコーティングした「水」。チッブス状のジャガイモにハーブやエディブルフラワーを詰めた「葉」。魚とトマトのブイヤベースが入った「土」。フォアグラにポートワイン、カカオバターを合わせ、ドングリをかたどった「樹」。12月中旬には冬バージョンに変わる。
ランチでは3種、ディナーでは4種を提供。


地に足をつけ自然に寄り添う

 箱庭を思わせる「水 葉 土 樹」は、アミューズとして最初にゲストの目の前に供される。いわば、シェフの名刺代わり。貝殻、流木、鳥の巣、ドングリなどの自然と一体化した中に、手で摘まめる4つの料理が盛り付けられており、宝探しのような遊び心によって瞬時に場が和む。

 そこから続く料理も非常に緻密で美しい。しかし、ビジュアルだけではなく、季節の訪れを食べ手に届けることに重きを置いているので、しっかりと記憶に残る。ファッション同様、料理においても季節はつい先走りがちになってしまうが、周囲の移ろいを的確に捉え、正確な季節というものを色濃く料理に投影している。早すぎず、遅すぎず。素材に必要以上に手を加えず、香りを引き出した料理は、驚きや発見を感じさせながらも、身体にしっとりと浸透するかのような優しさがある。旬を食すことの大切さにあらためて気づかされるだろう。ワインとのペアリングも秀逸で、しっとりと染み入る。

 店名の「L’EAU」(ロー)とは、フランス語で水を意味する言葉。「人と水のように寄り添う料理であり、店でありたいと思い名付けました。水は、すべてにリンクしていく存在でもありますから」と語るのは、シェフの清水崇充氏。父が営むフランス料理店で共に15年間働いた後、およそ40年の営業に幕を閉じて、自らの店を開業する運びに。

清水崇充

清水崇充 (Takamitsu Shimizu)
1977年、東京都生まれ。大学でグラフィックデザインを学んだ後、専門学校へ。銀座「三笠会館」のイタリア料理店に5年勤務。2003年より父が営む豊島区の「レストラン セビアン」でオーナーシェフとして腕を振るう。2008年11月、外苑前に「LʼEAU」をオープン。

 オープンから1年後の11月に行われた1周年のパーティーには、70歳になる父が息子の店を手伝うかたちで厨房に入った。常連客や料理人仲間などで大盛況。親子共に多くを語らないが、温かな空気に包まれていた。

 料理で自然を表現するシェフ自身が、非常に自然体だ。人懐っこさというのだろうか、朗らかな物腰に初対面でも人を和ませる空気を纏い、相手をも自然体にさせる。水は、人が生命を維持するには必要不可欠な物質。星の数ほどレストランが溢れる東京だが、そのなかでも「L’ EAU」での食事に魅了され、日々の糧となり、代わりが利かず、必要不可欠とするゲストが増えていく。

L’EAU

青山通りから一本入った地下に広がる店内は20席。凝灰岩が壁一面にはめ込まれ、洗練されたシックな雰囲気が漂う。厨房に近い壁には、料理人仲間からの開店祝いのオブジェが飾られている。
(下)アミューズのみ絵心のあるスタッフによる愛らしいイラストと共に提供される。照らし合わせながら食べるのも楽しい


L’EAU
東京都港区南青山2-14-14 南青山KFKビルB1
☎ 03-5843-0140
月曜休
12:00~15:00 (L.O.13:00)、18:00~L.O.23:00 (L.O.20:30)
ランチ 4500円、6500円、1万2000円
ディナー 1万2000円(消費税、サービス料10%別)