オメガの高級腕時計は、月面着陸やオリンピックに関連したエピソードから、「スピードマスター」が真っ先に思い浮かぶ。だが、同シリーズとの二枚看板といえる「シーマスター」には、陸・海・空での多目的な着用に対応できるポテンシャルが備わっている。そんなシーマスターの魅力を探っていこう。
2024年12月15日更新
オメガとシーマスターについて知ろう
計測機器としての機能と性能を追求するオメガには、宇宙空間でも正確に時間を刻む「スピードマスター」と、深海でも完全に機能する「シーマスター」という2本の柱がある。
ここでは、オメガの歴史に触れつつ、シーマスターの概要について見ていこう。
オメガの歴史
1848年に創業したオメガは、時計職人ルイ・ブランがスイス北西のラ・ショー・ド・フォンに開いた時計工房から始まった。
ルイ・ブランは創業当初から計時精度を追求していたが、2人の息子ルイ=ポールとセザールの代になると伝説的ムーブメント「19ライン キャリバー」を開発した。これを「究極の達成」を意味するオメガと名付けたのが、社名の由来である。
その後、オリンピックをはじめとする数々のスポーツ大会においてオフィシャルタイムキーパーを務めており、現在、オメガのクロノグラフは1/1000秒までの計測を可能にしている。
1969年7月21日にNASA(アメリカ航空宇宙局)のアポロ11号が月面着陸した際、宇宙飛行士が身に着けていたのはオメガの「スピードマスター プロフェッショナル」だ。
これは、今日においてもNASAの宇宙空間における船外活動に対して認定されている、唯一の腕時計である。
シーマスターはオメガの代表コレクション
オメガは1940年にイギリス軍や連合軍のウォッチサプライヤーに指定され、防水性能や耐衝撃性の強化に注力。48年にラウンド型ケースに自動巻きムーブメントを収めた防水腕時計「シーマスター」をリリースした。
オメガは地上と宇宙における計時だけでなく、シーマスターによって海底へも挑戦している。2019年に行われた「ファイブ・ディープス探査」は地球の海溝最深部に到達する試みである。
この計画に随伴した「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ プロフェッショナル」は潜水艇の船外に取り付けられ、水深1万925mの世界記録に到達した。
設計上はおよそ1500気圧、水深1万5000mという驚異的な水圧下で完璧に動作することを意味している。
映画でも活躍するシーマスター
シーマスターは映画『007』シリーズで主人公のジェームズ・ボンドが着用する腕時計としても知られる存在だ。
1995年の『007 ゴールデンアイ』を皮切りに、97年の『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』、99年の『007 ワールド・イズ・ノット・イナフ』と、作品ごとにシーマスターもリニューアルするのだ。
映画でのシーマスターは重要な装備品として登場し、劇中と同モデルのシーマスターは実際に購入できる。
2021年に公開された最新作『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』でボンドが身に着ける時計と同仕様のモデルが「シーマスター ダイバー 300M 007エディション」。30気圧の防水性能と高耐磁性能を備えたマスター クロノメーターだ。自動巻き(Cal.8806)。35石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約55時間。Tiケース(直径42mm、厚さ13mm)。30気圧防水。155万1000円(税込み)。
シーマスターの特徴
海中での完全な動作を前提とした「シーマスター」は、その実現に必要なメカニズムを小さなボディに凝縮している。
ムーブメントだけでなく、ケースやベゼルなど、あらゆるパーツが海中でのアクティビティに耐える仕様だ。ここでは、シーマスターの特徴について解説しよう。
高い防水性
ダイバーズウォッチの代表作であるシーマスターは、プロフェッショナルダイバーの使用にも耐える高い防水性能を備えている。
1万5000m防水を誇る「シーマスター プラネットオーシャン ウルトラディープ プロフェッショナル」のような特別なモデルを除いても、防水性能は軒並み150m以上だ。
さらに、水中でも完全に動作するプッシャーや経過時間の測定をミスしないための逆回転防止ベゼル、減圧中に風防やケースバックを保護するための「ヘリウム エスケープ バルブ」などのプロフェッショナル仕様の機能を備えている。
シーホースのレリーフ
シーマスターのデザインは「水の都市」として知られるベネチアと関連が深い。なかでも、ケースバックに描かれる「シーホース」のレリーフは、ベネチアにある有名なゴンドラの姿と、その側面に施されている彫刻から着想を得たものだ。
これはオメガが持つアイコニックなデザインのひとつであり、コレクターからの人気も高い。
シティ エディションズにラインナップされる「シーマスター Edizione Venezia」では、サン・マルコ寺院のクーポラやアーチ状の天井に着想を得た球状のリュウズやドーム型のダイアルなど、ベネチアへのオマージュも捧げている。
独自ムーブメントを追求
一般的に機械式時計は、3年周期程度でのオーバーホールが望ましいとされる。
しかし、オメガの腕時計は5〜8年でのオーバーホールを推奨している。このメンテナンス間隔の長さは、オメガ独自の「コーアクシャル脱進機」を採用していることが理由のひとつに挙げられる。
コーアクシャル脱進機では、ガンギ車とアンクルの接触面積が小さく、力のロスが減るとともに摩耗も少なくなっており、注油がほとんど必要ないのだ。
この機構を採用したムーブメントを搭載し、COSC認定(スイスクロノメーター検定協会)のテストと、METAS(スイス連邦計量・認定局)とオメガが共同で制定した厳格な検査をクリアした時計に付与されるのが「マスター クロノメーター」である。
日差±5秒という基準を満たす機械式ムーブメントの設計は、腕時計が持つ計測機器としての性能を追求してきたオメガならではだ。