「レベルソ」や「マスター・コントロール」など、数々の名コレクションを手掛けてきたスイスの時計ブランド、ジャガー・ルクルト。自社で開発、製造したテクニカルなムーブメントと、無駄な主張はないながらエレガントな意匠を備えた時計は、手元で確かな存在感を発揮する。今回は、そんなジャガー・ルクルトについて深掘りするとともに、代表的なコレクションとおすすめモデルを紹介しよう。
ジャガー・ルクルトの基礎知識
「ジャガー・ルクルト」は、19世紀には、ジュウ渓谷に位置する「グランド・メゾン」と呼ばれ、老舗ブランドへのムーブメント提供まで行ってきた真のマニュファクチュールだ。
1883年の創業以来、190年の歴史の中で、デザイン、ムーブメントの部品から組み立て、装飾に至るまで、それぞれの技術を持つ職人たちがひとつの屋根の下に集い、時計が完成するまでの全てを自社で行う形態で時計を作り続けている。
ジャガー・ルクルトのコレクションを見る前に、まずはブランドの発明力や技術力を象徴するエピソードを紹介しよう。
スイスの高級ブランド
1833年にアントワーヌ・ルクルトによって創業されたジャガー・ルクルトは、スイスのル・サンティエに拠点を置く、自社一貫製造の時計ブランドだ。
19世紀のスイス時計作りの在り方は、100以上の家内工房で部品製造や組み立てを分担し、それを最後にまとめてひとつの時計を作り上げることが一般的であった。
その家内制手工業から脱皮し、ひとつ屋根の下、自社一貫製造を基本とするマニュファクチュール体制をいち早く取り入れたのがジャガー・ルクルトである。
その後、ジュネーブの名門ブランドであるパテック フィリップやヴァシュロン・コンスタンタンへのムーブメント提供を行うほどの信頼と技術力を誇り、現在までに1300種以上のムーブメントを開発し、400以上の特許を取得した。
1928年には、±1°Cの室温変化で2日分の動作エネルギーを得る「永久ムーブメント」を搭載した置時計「アトモス」を開発している。
時計製造の歴史を変える発明
ジャガー・ルクルトは、その類まれなる発明力と技術力によって、多くの画期的なメカニズムを開発している。
1844年には0.001mmを測定できる史上初の測定機器「ミリオノメーター」を開発、これがムーブメントの小型化や信頼性に寄与した功績はあまりに大きい。
1907年には厚さ1.38mmという、現在においても世界最薄の懐中時計用ムーブメント「Cal.145」、1929年には98個の部品で構成される重さわずか1g足らずのムーブメント「Cal.101」を自社製造した。
19世紀前期までの懐中時計は、専用の「鍵」によって時刻合わせやゼンマイの巻き上げを行う必要があった。1847年には鍵に代わってリュウズによるこれらの一体操作を実現化したのも、ジャガー・ルクルトである。
特徴的なデザインと検査
携帯式時計が懐中時計から腕時計へと進化するには、ムーブメントの小型化と精度や耐久性への信頼性を両立する必要があったが、これに関する重要な発明を行ったのがジャガー・ルクルトである。
真のマニュファクチュールであるジャガー・ルクルトは、ムーブメントの部品から開発する技術力を持っており、ほかのブランドとは異なる発想で新たなメカニズムを次々と開発してきた。
ここでは、ジャガー・ルクルトを象徴するメカニズムのひとつと、腕時計の信頼性を証明する特別な検査体制について解説しよう。
反転式のダイアル
ジャガー・ルクルトが持つ特徴のメカニズムのひとつに「反転式ケース」がある。1930年代に英国人将校から受けた、「馬上で行うポロ競技中でも着用できる腕時計」というリクエストが開発のきっかけだ。
ここで誕生したのが「レベルソ」である。この画期的な腕時計は、ケースの幅が狭く手首を痛めにくいレクタンギュラーケースを採用し、着用したままケースを反転させてケースバックを表面に切り替えられるため、激しい競技中の着用時に風防が破損することを防いだ。
貴族階級向けのデザインを基礎としたレベルソは、今日においてもジャガー・ルクルトのアイコン的コレクションとして今日も進化を続けている。
1000時間コントロール
今日のジャガー・ルクルトのほとんどすべてのモデルは、6週間に及ぶ6項目の検査である「1000時間コントロール」をクリアしている。ケースバックの「1000 HOURS」という刻印がその証だ。
その検査時間の長さにおいては、C.O.S.C.(スイス公式クロノメーター検査協会)の基準も、さらに厳格な検査基準を持つパテック フィリップの「パテック フィリップ・シール」をも上回る。
1992年には1000時間コントロールを課した初めてのモデル「マスター・コントロール」を発売した。現在では1907年の超薄型モデルに着想を得た「マスター」シリーズが、ジャガー・ルクルトの高品質の象徴としてラインナップされている。
技術屋ならではの魅力
反転式ケースや1000時間コントロールはシンボリックな特性だが、ジャガー・ルクルトがこれらを採用するにはマニュファクチュールとしての完成度の高さが不可欠だった。
ここでは、ジャガー・ルクルトのストイックなまでの技術と発明に対するスタンスと、その腕時計が持つ審美性について解説しよう。
マニュファクチュール
世界三大腕時計メーカーとして知られる時計ブランド、パテック フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ ピゲであっても、あるいは偉大なる時計師、アブラアン-ルイ・ブレゲを祖とするブレゲであっても、他社から部品供給を受けないマニュファクチュール体制を取ったのは20世紀以降のことだ。
ジャガー・ルクルトでは1866年からすべての部品を自社製造し、1900年までに350以上のムーブメント(大半は複雑機構を搭載)を開発、製造さらには他社へのムーブメント供給も行った。
現在でもマニュファクチュールでありながらムーブメント製造、供給メーカーでもあり、新機軸のメカニズムを発明・製造して時計業界の発展を支えている。
シックなデザイン
ジャガー・ルクルトの腕時計は、極細部まで精緻な装飾を施すデザイン性や審美性も特徴だ。複雑なメカニズムや革新的なコンセプトは、それを具現化するデザインがなければ成り立たない。
その真髄を表現するシックかつ現代的なデザインは、自社内に擁するあらゆる伝統技術をマスターしたエナメル細密画家や、貴石を敷き詰めて貴金属を覆い隠す「スノー・セッティング」を極めたジュエリー職人たちの手によって、自社内において完成品となる。
さらに、これも自社の職人たちの手による、ムーブメントの地板などに施す真珠模様の「ペルラージュ装飾」や極限までダイアルやムーブメントを削りだす「スケルトン加工」によって、トランスパレントバックからのメカニズムの鑑賞も可能にしている。