スイスで誕生したタグ・ホイヤーは、そのスポーティーでエレガントな出で立ちで、世界中にファンを持つ高級腕時計ブランドだ。同社の自動巻き時計を長く愛用するためのトラブル対処法やケア方法などについて解説しよう。
時計と駆動方式を知る
1860年、スイスのサンティミエにおいて、時計技師であるエドワード・ホイヤーにより創設されたエドワード・ホイヤー・ウォッチメーカーズがタグ・ホイヤーのスタートである。
その長い歴史のなかで、タグ・ホイヤーはストップウォッチやクロノグラフなど、スポーツウォッチの開発に力を注いできた。多機能性を重視することから、剛性のある機械式の時計を多く手掛ける。
一生ものの時計としての価値を有するタグ・ホイヤーのメンテナンス方法などについてより深い理解につなげるために、まずは駆動方法について理解を深めておきたい。
電池式と機械式
時計を動かすためのふたつの駆動方法について解説していこう。
現代の時計において、最も一般的なのが「電池式」で、クォーツとも呼ばれるタイプだ。消耗式電池を原動力に、水晶(クォーツ)の働きを利用して時刻の制御をする駆動方式である。
対して、男性用の高級時計に多く見られるタイプが「機械式」である。巻き上げたゼンマイが解ける力によって動力が与えられ、時計を動かす方式だ。
この機械式は、さらに大きく二つに分けられる。リュウズ操作によってゼンマイを巻き上げる「手巻き」と、装着時の腕の動きによって巻き上げを行う「自動巻き」だ。
タグ・ホイヤーは機械式の自動巻きがメイン
タグ・ホイヤーが採用する駆動方式は「機械式の自動巻き」がメインである。それは、次のような理由に基づいている。
機械式における手巻きは、自動巻きやクォーツと比べて最も古典的な駆動方式だ。構造も、ローターや電池を必要とする後者2タイプと比べて極めてシンプルなものである。
一方で、タグ・ホイヤーに求められるスポーティーなデザインや機能には、アクティブな動きに耐えうる堅牢さや高振動が必須だ。
より薄く、エレガントさを求める手巻き式が「静」とすれば、自動巻きを主軸とするタグ・ホイヤーが追究する設計は「動」の思想といえる。設計アプローチが真逆にあるからこそ、タグ・ホイヤーは手巻き方式と距離を取っているのだ。
機械式時計の精度
機械式をより詳細に説明しよう。リュウズを回して巻き上げられたゼンマイは、解けて元に戻ろうとする力を発する。その力を、脱進機と調速機で調整することで、正しい間隔で時を刻ませる。
電池を用いず、機械部品のみの物理的作用で駆動するため、電池式と比較すると、どうしても誤差が大きくなることは否めない。
時計の世界には「クロノメーター規格」という、極めてハイレベルな検査基準がある。これを通過したもので、1日に4秒以内の遅れ、もしくは6秒以内の進みが生じるとされている。
よくあるトラブルの原因と対処
精密に組み合わさった部品が、それぞれに作動し、連携することで動力を生む機械式には、トラブルが発生するケースも見られる。
大切な時計に異変が生じた場合でも慌てることがないように、その原因と対処についての知識を身に付けておこう。
時計がすぐに止まる
機械式の自動巻きで起こりやすい現象に「駆動力不足」がある。これは主に、ゼンマイの巻き上げ不足によって発生するものだ。
内蔵されたローターは、身に着けている際の腕の振りによって回転する。その動きを利用してゼンマイを巻き上げるため、作動し続けるためには、時計そのものに動きがなければならないのだ。
腕の動きが小さかったり、外しておくことが多かったりすると、駆動力不足の状態になる。そのような環境では、機械式時計はすぐに止まってしまう。
リュウズの巻き方
駆動力不足が発生した場合は、リュウズを巻いて動力を発生させる必要がある。
自動巻きムーブメントのパワーリザーブは、一般的に38~50時間とされているため、この時間を超えると時計は停止してしまう。
改めて作動させるには、手動でリュウズを30~40ほど回し、ムーブメントを巻き上げよう。これで、リザーブ機能を正常に作動させるためのパワーが蓄積される。
一方、手巻きの機械式時計の場合では、定期的にリュウズを回して巻き上げておく必要がある。
ただし、リュウズに過度な力を加えるとムーブメントにダメージを与える可能性があるため注意が必要だ。
日付のズレ
時計によっては、ダイアルにカレンダー機能が施されているタイプがある。スポーツウォッチを主力として手掛けるタグ・ホイヤーでも欠かせない機能だ。
まれに、深夜0時を回っても日付が変わらない、あるいは昼12時を過ぎただけで日付が進んでしまったというケースがある。その際は、カレンダー機能と連動するリュウズを操作して、設定を調整する必要がある。
注意したいのは「カレンダー操作が禁止された時間帯」のある自動巻き時計での調整だ。この場合、午後8時から午前4時は、日付の調整は控えなければならない。
この時間帯は、時間表示とカレンダー板それぞれの歯車が噛み合っているときで、時計自らの力で日付を変更している状態にある。この時間帯に変更を試みると歯車が欠けるなど破損の原因につながりかねないのだ。