ロレックスのミルガウスの魅力とは。モデルの変遷とともに解説

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2021.04.09

「ミルガウス」は、ロレックス製品の中でも変わった特徴や歴史を持つ時計だ。一度は生産を中止したものの復活し、現在は初期モデルがヴィンテージウォッチとして再評価されている。モデルの移り変わりなどを解説し、ミルガウスの魅力に迫る。

ミルガウス


ミルガウスについて知ろう

ミルガウスとはどのような時計なのだろうか。名称の意味など、まずはこのモデルの概要について解説しよう。

元々は医師や科学者向けに開発

磁気に強い「耐磁時計」として知られるミルガウスは、医者や研究者といった、強い磁気にさらされることの多い職業の従事者に向けた時計として、1956年に開発された。

「ミル」はフランス語で「1000」を意味し、「ガウス」は磁束密度の単位を表している。

一般的な腕時計の耐磁性が約50~100ガウスであることからも、いかに特殊な時計であるかが分かるだろう。

ヴィンテージとしても人気

ミルガウスには数種類のモデルが存在する。中でも、今から数十年前に発売された初代モデルとセカンドモデルは、現在ヴィンテージウォッチとして人気だ。

今でこそ高値で取引されるようになったこの2モデルも、発売当初はなかなか人気が出ず、セカンドモデルを発売した後に一度生産が終了している。

初代モデルは、1000ガウスもの耐磁性を備えた特殊時計として、当時は画期的だと絶賛されたモデルだ。デザインを一新したセカンドモデルは、約30年もの間販売されている。

流通量が少なかった初代モデルは、1000万円以上のプレミア価格で取引される希少モデルだ。一方、セカンドモデルは長期間販売され、初代に比べ流通量は多いが、それでも300~400万円近い価格で取り引きされている。


誕生から現在までの歴史

ミルガウスの歴史を確認してみよう。すると、一度は生産中止になったものの、時代の流れに合わせ、耐磁時計として復活を求められた時計であることが分かるだろう。

誕生から生産中止まで

初代ミルガウス

1956年に発表された初代「ミルガウス」。常磁性パーツを搭載したキャリバー1065Mと、軟鉄製インナーケースの採用により、最大1000ガウスの磁場でも正確な時刻を表示する画期的なモデルだった。

ミルガウスは、ロレックスが1956年に開発した時計だ。当時、過酷な環境のもとでも耐えうる仕様で作られた「サブマリーナー」や「GMTマスター」に次ぐ、実用性のある時計として作られている。

ミルガウスは同時期に設立された欧州原子核研究機構(CERN)と共同で開発されており、1000ガウスの磁場に耐えうる性能を実現させたことは前述のとおりだ。

今でこそ、精密時計が磁場に弱いことは時計ファンの間では常識となっている。しかし、ミルガウスがリリースされた当時は、この事実が理解されているとはいえない状況だった。

そのような背景もあり、極めて特殊な時計と認識されていたミルガウスは、セカンドモデルを発表して約30年後の87年ごろに生産が中止となっている。

2007年に復活

パラクロム製ヒゲゼンマイ

キャリバー3131に用いられているのは、ブルーのパラクロム製ヒゲゼンマイ。耐磁性を備えていることはもちろん、温度変化にさらされても高い安定性を保ち、さらに従来のヒゲゼンマイの10倍もの耐衝撃性を実現している。

2000年代に入ると、携帯電話の爆発的な普及などを背景に「時計に耐磁は欠かせないもの」という認識が広がり、各メーカーが次々と時計の磁気対策に乗り出す。

中でも、パテック フィリップが開発したシリコン製ヒゲゼンマイは、磁気を帯びやすいヒゲゼンマイにシリコンを使うという、画期的な発明だった。

ロレックスも、2005年に独自機構であるパラクロム製ヒゲゼンマイの開発に成功する。シリコンではなく、耐磁性能と温度特性に加え、耐衝撃性をも備えた、パラクロム合金という素材を用いたのだ。

そして、現在搭載されているほとんどのロレックス・ムーブメントが、パラクロム製ヒゲゼンマイを採用することになる。このような歴史を経て、07年、ミルガウスが約20年ぶりに復活したのである。


耐磁時計として特別開発

優れた耐磁性能を備えるミルガウスは、仕様も他のモデルと大きく異なっている。ミルガウスを特徴付けるディテールを紹介しよう。

耐磁性能と磁力の目安

名称の由来にもなっている1000ガウスの耐磁性能とは、どれくらいの磁力なのだろうか。

電化製品が放つ磁力を例に挙げれば、電話機が約50ガウス、大型スピーカーが約100ガウス、磁気敷布が約600~700ガウス、磁気付バンソウコウが約700~1000ガウスとなっている。

一般的な腕時計の耐磁性が約50~100ガウスといわれているので、どれほど強力な耐磁性能を備えているかが分かるだろう。

個性的な文字盤

耐磁時計としての個性だけでなく、文字盤のデザインが個性的であることも、大きな特徴のひとつだ。

秒針には、ヴィンテージモデルに導入されたこともある「イナズマ針」を採用し、挿し色には鮮やかなオレンジ色が使われている。

また、Ref.116400GVには緑色に着色された「グリーンサファイア クリスタル」を用い、他のロレックスモデルにはない独特の個性を演出しているのだ。

一見するとベーシックな時計に映るが、近くで見たり腕に乗せたりすると、圧倒的な存在感を放つモデルといえるだろう。

ケースやパーツは専用設計

復活後のミルガウスは、1000ガウスという耐磁性を保ちながら、多くのパーツ類は専用に作られている。

例えば、ケースのシールドは、厳選した専用の強磁性合金で作られたものだ。シールドで磁気を受け止め、外部へと流す役割を果たしている。

ムーブメントも、ミルガウス仕様に開発された特別なものだ。パラクロム製のヒゲゼンマイに加え、常磁性の合金をアンクルなどに用いている。

常磁性とは磁場を加えると磁化し、磁場がなくなると元の状態に戻る性質を指す。これにより、時計は高い精度を維持できるというわけだ。